山の動物たちがあたたかい木のまわりで、身体を休めている頁。
鈴木まもるさんの絵本『だんろのまえで』を読んだ時の、心を包んでもらったような感覚をまた味わいました。
名声を得ることばかりを考えて生きてきた植物学者。彼は冬に向かう山の中で、その木の周りだけが、あたたかく、まるで春のような木と出会います。彼は木の洞に腰をおろして眠ってしまい、夢を見ます。あたたかい母の胸に抱かれている夢。
なぜ、この木はあたたかいのか。ここにいるだけで、心の中まであたたかく、そして清々しくなるのは、どうしてなのだろうか。
あたたかい木の息吹。呼吸をするたびに、あたたかく清々しい風が、植物学者の全身を吹き抜けていく。この箇所は、マーガレット・マーヒーさんの『魔法使いのチョコレートケーキ』にも通じるものがあるなと感じました。
この木は、自分の身に起こるすべてを受け入れ、訪れるものを拒まず、そして癒やしながら生きてきたのです。
やがて植物学者はどうしょうもなく悲しいことやつらいことがあるたびに、そっと、あたたかい木のことを思い出し、少しずつ胸の奥があたたかくなり、誰にでも優しくすることができるようになります。彼は胸の奥に、いつもあたたかい木を秘めてきたのです。
この絵本に触れて、この木や穏やかな慈しみに溢れた植物学者と触れ合っているような気持ちになりました。