漢字の問題から。
「無花果」という漢字を読んで下さい。よくある問題ですから知っている人も多いでしょうが、答えは「いちじく」。
夏から秋にかけて食卓にあがることの多い果物です。
家にいちじくの木があると家が栄えないとか子どもができないとか、いちじくには迷信の類が結構ありますが、一方で不老長寿の果実と呼ばれることもあるそうです。
おいしいのでやっかんだのかもしれません。
そんないちじくを食べると夢が本当のことになってしまう。そんなお話がC.V.オールズバーグのこの絵本です。
主人公は「おそろしくやかましや」である歯医者のビボットさん。
少しばかり髪が薄くなっています。鼻の下には「エヘン」といわんばかりの八の字ひげ。蝶ネクタイもキザっぽい。
ある日歯の治療をしたおばあさんが治療費の代わりに置いていったのがふたつのいちじく。
怒るビボットさんにおばあさんはこういいます。
「これはまさ夢いちじく。あなたの夢を何でも叶えてくれます」
いちじくはふたつ。
まずひとつめを食べたビポットさんは本当にそれが「まさ夢いちじく」だということに気づきます。
そうなると、残ったいちじくを食べる時はうまい話が叶うようにしないとと欲が出ます。
こういうところは日本の昔話にもよくあるパターンです。
それからの何週間をビポットさんは自分が世界一の金持ちになる夢を見る特訓を始めます。
夢をコントロールしようというのですから、人間は欲がでると何を考えることやら。
宝くじがあたるように枕の下に忍ばせるのによく似ています。
そんなビポットさんがようやく残りの一個のいちじくを食べることを決心しました。
さて。
この絵本でもC.V.オールズバーグの絵筆はさえわたっています。
まず構図が大胆です。上からの目線、下からの目線、対象を大胆に大きく。
それによって絵に動きがでています。
それにビポットさんのいやらしいさがいいですね。この人なら、こういう結末になっても仕方がないと読者に思わせるくらい、いやらしく描かれています。
もちろん、この作品も村上春樹さんの翻訳。
あなたがもし「まさ夢いちじく」を手にしたら、ビポットさんにならない保証なんてありません。