【あらすじ】
ケチなご主人様が、用事があって出かけるという。太郎と次郎(召使)は、二人とも留守番をすることになった。主人は「ぶす」という猛毒を二人に渡し、決して近づくなと念を押して注意する。
主人が出かけてしまった後、二人はぶすを開けてみるが…
広く知られた狂言の演目を、素朴でのびやかなタッチの絵で再現した作品。
巻末に狂言についてのミニ講座、野村萬斎氏による演目の解説付き。
【感想】
一休さんのとんち話や、民話など、どこかで似たような話を聞いたことがある気がする。話のスジが面白く、つっこみどころが満載。絵を見ながらひらがなで書かれたセリフやお話をじっくり読んでいると、狂気としか思えない展開になっていく。これを舞台でやったら、相当面白いだろう。コント…狂言はコントのご先祖様かもしれない。
太郎冠者と次郎冠者が、双子みたいな感じ。二人ともいい年こいているはずなのに、子どものような感じで、戯れあっている。登場人物が全員、変人で癖が強い。
一番好きな場面は、太郎がぶすを見て「くろくて、どんみりとしていて、うまそうなものだ」というところ。さっきは猛毒だからといって怯えまくっていたのに、見た瞬間、うまそうだという。毒を食べてみようというのは、好奇心からか、それとも現実の生活が暇でつまらないからスリルを求めたのか。本当は早く死にたかったのか、どうしちゃったのだろうか。
その後、主人の大事にしている掛け軸を破いたり、高価なお茶碗を割ったりするあたりが、実に生き生きとしていて、普段からこの家の主人からどんな扱いを受けているかわかる気がする。昔の人は、この演目を見て、きっと胸がすくようなさっぱりした気持ちになったのだろう。身分の縛りがあった時代のことがしのばれるが、今もきっとすっきりする人が多いはず。