ブラティスラヴァ世界絵本原画展で金牌賞という、有名な絵本です。
ブラティスラヴァ世界絵本原画展は、原画としての芸術性が評価されるコンペティションで、日本人では酒井駒子さんが受賞されていることで有名です。
・・・という背景もあり、私は絵本というよりも芸術作品という先入観を持って読みはじめました。
たしかにシルクスクリーンで描かれた、鮮やかで大胆な絵柄は目を引きます。
けれどもやはり、内容があってこそであるということが、読み進めるうちにわかってきます。
散文詩のような短い文章に軽快なストーリー、まるで自分がその場にいるような感覚を覚えます。
物語自体はごく単純で、「え?もう終わり?」と思ってしまいます。
ですがよく考えてみると、トラを傷つけずに捕獲して、適切な場所へ返してやるということがいかに村人たちにとって危険かということに気づきます。
もちろん、木の上にそのまま置いておくことも危険でしょう。
ただ、トラを殺してしまうという選択肢もあったわけです。
文中にあるように、動物園へ引き渡すということもできたわけです。
それをそうせず、村人みんなで考えて、トラにとって正しい場所へ戻してあげました。
村人たちはそうやって、自然と共存していくために必要な事柄を、十分に理解していたのです。
今でこそレッドデータブックなどがあり、希少動物が保護されるようになりましたが、この本の村人たちはそういうことは考えなかったでしょうね。
ただごく自然に、あるべきところに返してあげようと、みんなが思っただけ。それでいいのではないでしょうか。