誰も悪魔なんか見たことがないはずなのに、悪魔のことを知っているのはどうしてだろう。
黒ずくめで、触覚のような角(つの)があって、お尻には矢印記号の尻尾がついていて、というのが、誰もが頭に浮かぶ悪魔像ではないかしらん。
悪魔は見たことがないはずだが、悪魔に会ったことがある人はいるだろう。
「あの人は悪魔だ」なんて、よく口にする。
つまり、悪魔を見たことがないが、悪魔には会っているんだ、私たちは。
でも、会った悪魔は、きっと普通の人間の姿をしているんだろうな。
谷川俊太郎さんが文を書いて、和田誠さんが絵を描いた、この絵本に登場する「あくま」は黒い定番衣装ではない。
深いオレンジ色の「あくま」だ。
しかも、緑色のつばさまでついている。
主人公の少年が「あくま」に会ったのは、「むかしばなしのなかのみち」だという設定がいい。
確かに「「むかしばなしのなかのみち」だと、「あくま」に会う確率は高いだろう。
まして、絵本だから、現実の世界でも悪魔に会うことがあるなんていえない。
少年がまず会うのは「まじょ」だ。
そういえば、魔女も見たことがないはずだ。
けれど、悪魔と同じように黒ずくめで、定番の三角の帽子、さらにホウキを持っているというのが、魔女の姿。
見たことはないのに。
でも、悪魔と同様、魔女にも会った人はいる。
最近では「美魔女」なんていう人もいる。
この絵本では定番型の魔女が登場する。
「ともだちになりたい」って。
少年はこれを断って、魔女を退治しようとするのだが、「まじよ」は強い。
そこに現れるのが、「あくま」だ。
「まじょ」を倒した「あくま」は、少年に「ともだちになりたい」という。
少年はそれも断って、「むかしばなしのなかのみち」から抜け出すのだが、あとで思う。
「あくまとともだちにならなくて そんしたんじゃないか」って。
どうかな。
もう少ししたら、悪魔と会えるんだから。
でも、くれぐれもいっておくけれど、本当に会う悪魔は怖いんだよ。