臨床心理学者の河合隼雄さんと詩人の長田弘さんの対談集『子どもの本の森へ』で、
冒頭絶賛されていたのがこの『トムは真夜中の庭で』だ。
イギリスの作家フィリパ・ピアスによる児童文学で、本国では1958年に出版されている。
それから間もなくして日本でも翻訳されている。
岩波少年文庫の一冊として出たのは1975年。
そこで少し考えてみた。
河合隼雄さんは1928年生まれ、長田弘さんは1939年生まれで、
そうすると二人がこの児童文学を読んだのはおそらく子どもの時ではなく、
大人になってからのはず。
大人が児童文学のページを開くということはなかなかないことで、
そのことからも二人の感性のありかたに感心してしまう。
そして、児童文学というジャンルの作品であって、
大人の読者の鑑賞にも十分耐えうるという証でもあるだろう。
この物語は簡単にいうと、
「時」をテーマにしたファンタジーといえる。
せっかくの夏の休暇というのに、弟のピーターがはしかになったために
トムは感染予防で遠いおばさんの家で過ごすことになる。
その家の真夜中、古時計の音に誘われて、トムが裏口の扉を開けると
そこには美しい庭園が。
トムはその庭園で一人の少女と出会うのですが、
彼女は会うたびに成長したり幼くなったり。
トムが「真夜中の庭」で体験する不思議なできごと。
子どもにとって「時」は永遠に続くものと感じるかもしれない。
大人はどうだろう。「時」は限られているだろうか。
この物語のラスト、この二つの「時」が重なりあう。
それが感動を生み出す、これはそんな児童文学である。