世の中は、人が作り出す矛盾のちから(優秀か有名か高貴か、権威・権力で量るイマイマしいちから)でゆがみきっている。主人公チトが、花の持つふしぎなちからで、それら不気味なちからに勇敢に立ち向かう物語だ。
正直に、娘に正々堂々読んで聴かせる自信はなかった。情けない大人のだらしなさが満載だからだ。他の子と同じでないことが、どうしていけないの? 現実世界を子どもに暴かせて、だれが大人なの? 世の不安を花と取りかえっこして、バカ正直も過ぎるでしょ? な〜んて質問されたら戸惑うばかりだぞ。そこがこの物語のへそなのかもしれない。
一方、花の柔らかな精神安定作用は、誰もが想像できる。同じいのちあるものとして、いろや香り、成育が共鳴するのだ。添えられたジャクリーヌのイラスト効果も大きい。
物語は意外な展開で幕を下ろすが、安東次男の翻訳が明快で秀逸だ。ドリュオン氏に感謝。