この本は、フィクションであるけれど、実在の人物をモデルにしているとのこと。
U部構成になっており、一部は主人公の病院での半生を、U部は年老いた主人公とティーンエイジャーの男の子との心の触れ合いを描きます。
主人公ピーティは、脳性麻痺を患い、言語及び運動能力に障害を持って生まれた男性です。彼は、知能には問題がないにも関わらず、当時はこの病気に対する理解が十分ではなかったために、精神病院で半生を過ごすことになるのです。
ピーティが知性を持つことは、彼に関わった心ある介護士たちが気づくのですが、個人の力ではどうすることもできず、次々と去って行きます。
知性を持ち合わせながら、相手に分かってもらえないというのは、どんなにか苦しいことだったでしょう。
ある脳性麻痺の男性の苛酷な一生ということだけであれば、(それだけでも、十分心に訴えるものではありますが。)その苦しみが真に身に迫ってくることはなかったかもしれません。
これを、物語として、ヤングアダルトとしてどのようにお話を展開させていくのか、興味を持って読み進めていきました。
U部では、ティーンエイジャーのトレバー・ラッドという男の子が物語の主軸になります。彼は、転校したばかりで、友達がまだなく、両親もそれぞれ自分の仕事に忙しく、息子とゆっくり過ごす時間もなく、彼もまた、孤独なのです。
そんな彼は、ピーティに出会い、彼の存在を受け入れていくことにより、変わります。
生きる目的、存在意義を見出した彼は、ピーティのために、次々と思いやりに溢れた前向きな行動を取り、それは周囲をも巻き込んでいくことになるのです。
トレバーとピーティとの出会いや、トレバーの洞察力の鋭さには、こうあって欲しいという作者の願いが込められているのかと思いました。ピーティにとってのトレバーの重要性はもちろん、トレバーにとってのピーティのかけがえのなさを描いたところにも好感を持てました。
障害者の苦難の歴史とともに現状の姿を公平な目で描き、そこに多感な少年を関わらせて説得力のある話に作り上げたということで、とても興味深い本でした。