誰もが虹の思い出をもっているのではないでしょうか。
別れの場面で見た虹、初めてのデートで見た虹、お母さんと一緒に見た虹、大好きな人と見た虹。
私にも、あります。
もう7年も前のことになります。
短い間だったがお世話になった地方の勤務地を去るその日、アパートの鍵を閉めて表に出た私の前に大きな虹がかかっていました。
あの虹は希望だったのでしょうか。
それとも、大きなさようならだったのでしょうか。
あれから歳月は過ぎましたが、あの時の虹の意味をまだわからずにいます。
この絵本は「かがくのとも絵本」の一冊となっていて、虹ができる原理なようなものをわかりやすく描いたものです。
「にじって、おひさまを せにして じぶんの かげの がわに みえるんだ」とあります。
そんなこと、考えたことはなかった。
いつも虹は突然目の前に現れてくれていたから。
何かを教えるために。
そうだとばかり思っていました。
実はそんな虹のことを知りたくて、この絵本を手にしたのではありません。
この絵本の絵を担当しているのが、いせひでこさんだったから。
この作品が最初に描かれたのが1992年ですから、いせさんの初期の頃の作品といえます。
いせさんがその後得意とする木々の緑も、まだこの作品ではできあがっていません。
おかあさんの表情も、ボクの動きもぎこちない。
虹でいえば、たった今、生まれたばかりの、色の区別さえはっきりしないような作品です。
たぶん、このあと、いせさんはとってもたくさんのデッサンをしてきたのだと思います。
うんといっぱいの絵の具を溶かしてきたのだと思います。
そして、『ルリユールおじさん』や『チェロの木』の生み出してきたような気がします。
誰もが小さくて、今にも消えそうな虹なのです。
やがて、しっかりとした大きな虹になっていく。
そんな虹が誰かを勇気づけ、前に向かわせてくれる。
虹を見つけた時、うれしい気持ちになりませんか。
何かをその虹に託したくなりませんか。
子どもたちに、そんな虹のことも話してあげれたら、どんなにいいでしょう。