センダックの他の有名な作品は子どもの頃からよく読んでいましたが、この本は記憶にありませんでした。
そもそも子どもの頃は写実的な絵の絵本に興味が湧かなかったから手に取らなかったのか、それとも絵が怖くて記憶から抹消しているのか…
レビューを見ていると、この写実的な絵を綺麗な絵だとちゃんと分かる感性の持ち主の子どもさんもいるようですが…私は子どもの頃、この手の絵は苦手でした。
この美しい絵本が、最近、SNS上で話題になっていたので、読んでみたいと思っていたところ、図書館ですぐに見つかりました。
絵は他のセンダック作品よりかなり写実的です。
少し大きめで重厚な装丁、大人の立場としては文句無しに美しい本だなあという印象です。
だけど見開きから顔を隠したゴブリンが座り込んでいて、いかにも怖いお話が始まりそうな雰囲気ですね。
そしてその通り怖いお話が始まってしまいます。しかもリアルな絵なので本当に怖い。氷の人形のシーンなんて、絵本のページを貼り合わせて見られなくしてしまう子が出てきそうな勢いです。
まあ、この絵の全体的な怖さは文化的な違いもあるかもしれませんね。日本でよく見られる子どもに向けて描かれた絵はリアルなものでもかわいいものが多いですから。
絵が怖くて内容に集中して読み進められない子もいるかもしれませんが、ひとまず読み通すことができれば、一応ハッピーエンドです。
ただ、私は最後のお父さんからの手紙の内容に少し引っ掛かりを感じました。
一見、子どもの勇気を讃え、希望を持たせる内容の素敵な励ましの手紙だと思うのです。しかも、主人公は女の子。ジェンダーバイアスにとらわれない素敵なお父さんです。
だけど、自分より小さい赤ちゃんの妹はともかく、お母さんのケアの責任を負わせる必要ある?
私がこの絵本で一番気になったのは実はここです。
このお母さん、終始浮かない表情で、ただ佇んでいるだけで、そこがまた頼りなさを増幅させています。彼女の心理状態が限界なのを表しているのでしょうが、それを読者である全ての子どもたちの前で肯定する必要性があるのかと疑問を感じました。
ある子どもたちにとって、このお父さんからのメッセージが、「お母さんが頼りなくても君なら大丈夫!」と不遇な境遇の自分を肯定的に捉える勇気と成り得るのか、それとも「お母さんなんて全然頼りないから子どもの君が大人のようにしっかりするんだよ」と子どもに呪いをかけるのか、どちらに転ぶのか私には分かりません。
この物語は、作者の幼少期の恐ろしいニュースの体験が元になっているそうです。そう考えると、この物語は子どもだった作者自身と、同じように辛い体験をした子どもたちをケアすることも想定して書かれているような気がします。そして、実際にそれは作品として成功しているだろうと思います。
ただ…まだそのような経験をしたことがない子どもにとっては、この絵本自体がいわゆるトラウマ絵本のような位置付けになってしまいそうな残念さが拭えません。
全般的には良い絵本だとは思いますが、難しいですね。
読者の年齢や経験、その他色々な条件により、好き嫌いが激しく分かれそうです。
私自身もまだこの絵本の評価に迷うところがあり、どちらともいえない、ということで星3つにしておきます。
ところで、途中に出てくるパパの歌は、韻を踏んでいるのでしょうね。他にもことばに仕掛けがありそうで、原文で読んでみたいです。