斉藤洋さんの実体験だとしたら、僕はとっても羨ましいですね。
霊感などは全くなく、心霊や妖怪といった背中が凍てつくような類の話しは遠慮しますが、主人公が体験したような虫の声、狐のイタズラ、神隠し、座敷わらしや人玉といった類の話しは不思議と怖くなく、身の回りで起こっても歓迎するかなと思える反面、自然と人間の間に距離ができてしまった現代では、起こりにくいのだろうと思うと、余計に興味が湧いてきます。
1960年前後、主人公が母の実家で過ごした幼少期に体験した、不思議な出来事をつづったお話しですが、斉藤洋さんは“できるだけの記憶を掘り起こして、書き留めておこう”と記しているだけに、実体験記録とよむか、フィクションとして愉しむかは自由ですが、ともあれ、不思議な体験をしたことのない僕にとっては、山深いところに故郷があることも含めて非常に羨ましく、ノスタルジックな感傷に浸かりながら、読むほどに減っていく残りのページをいと惜しく、でも読みたい気持ちと葛藤しながら読み進めていました。
先に出版されている「七つの季節に」の一部にも、同じ時代背景の描写が出てきます。もう少し成長した主人公の様子を描いたものですが、リンクさせながら読むとより楽しめると思います。
自然との触れ合いが少ない息子たちが、どこまで共感できるかわかりませんが、大人の読み物としては是非お薦めしたい一冊です。