ギャグ的な要素が強いサトシン氏の作風からすると、一味違った作品です。
私が猫好きというのも関係しているのかもしれませんが、表紙に大きく描かれたあかねこちゃんの、ちょっと憂いを帯びた穏やかな表情に、まず魅力を感じてしまいました。
体毛が親やきょうだいと大きく違う赤色であるということで、心配し、矯正しなければならないと考える家族と、色が「普通ではない」だけで、他には何の不都合も感じられず、むしろ気に入っているあかねことのすれ違いが前半で描かれます。
この家族のあり方はある意味残酷ですね。
目に見える毒親ではなく、むしろあかねこを慈しむ気持ちを持つ両親、それはあかねこにも伝わっている。ただ、価値観が違いすぎてわかり会えないだけ。
反抗的な態度を取ったり、親とぶつかり合ったりする機会を得ぬままに、この家族というコミュニティを去って行かねばならなかったあかねこは寂しそうです。
新天地であおねこくんという素敵なパートナーに巡り会う後半のシーンは、明るく希望に満ちていて楽しい場面です。
親には理解されなかったけれども、自分に正直に生きる道を選び、新しい家族と幸せな生活をつかんだあかねこを見ると、良かった!という気持ちになります。
ラストの解釈が色々と分かれるのもこの作品の特徴かと思います。
実は、裏表紙で、あかねこは家族と共に実家に戻っているのです!
しかし、本文中では全くそのことに触れられていません。ただ、あかねこの実家と同じ外観の家にあかねこ一家が向かっている絵が裏表紙にあるだけです。
私はこれは読者ひとりひとりに、あかねこの行く末をそれぞれの価値観において定めるように配慮されているのだと思いました。
「大人」になり、自立して親と冷静に話せるようになったので、対等な人間(猫!?)として、親やきょうだいと新たな関係を築くために戻る道を選ぶか。それとも、わかり会えない関係を変えるつもりはなく、親子それぞれの社会で交わることなく自分らしく生きていく道を選ぶか。いずれにしてもそこにあるのは希望ではないでしょうか。
あえてぼかした表現にすることにより、どちらの希望を選ぶか、その自由が読者に与えられているような気がしたのです。
以上のように、個性、価値観、親子のあり方…このような切り口からの読み方ができる作品ですので大人の絵本という見方もできますが、私はこの本は子どもたちが読んでも普通に楽しいのではないかと思います。
なぜなら、優しい絵と言葉づかいで、猫の世界がかわいらしく明るく描かれているからです。
人間ではなく、猫であることにより、家出をするあかねこに過剰な悲壮感が感じられない所が子どもの読者には優しいかと思います。ラストにはとびきり賑やかで楽しい場面が用意されていますし。
好みが分かれる作品だと思いますが、私は大好きです。