ずっと昔、聞いたことがあります。
「幼い子どもからは一生分のしあわせをもらっている。だから、その先、どんな悲しいことや苦しいことがあっても許さないといけない」って。
そうかもしれない。
子どもが生まれ、まだ歩くことも話すこともできない頃のかわいさ。
パパって叫びながら抱きついてくるあたたかさ。
ほっぺのやわらかさ。はえかけの歯の白さ。
そんなこんなのしあわせをあの何年間でもらったのだなあ。
それは一生分のしあわせなんだなあ。
石井睦美さん文、酒井駒子さん絵による、この絵本を読んで、そんなしあわせを思い出しています。
森の中の小さな家で生まれたしろうさぎは、まだ秋を知りません。
春にうまれたばかりだからです。
だから、玄関の脇にあるりんごの木が赤い実をつけたのを見たことがありません。
ある日、おかあさんの作ったりんごジャムのおいしさにたまらず、りんごの木をかじればきっとおいしいはずだと思ってしまいます。
そして、それをためしてみようと。
そんな朝を楽しむ夜のしろうさぎの様子や、家を出るときのおかあさんとの会話のかわいらしさといったらどうでしょう。
おかあさんに「どこにいくの?」ときかれて、「ほんとのことと うそっこのこと。おかあさんはどっちがききたい?」なんて、子どもと過ごすたくさんの時間をもったおかあさんならではの特権のような会話です。
りんごの木にかじりついて、泣き出すしろうさぎ。びっくりして外にでてきたおかあさんといっしょに見つけた、「まだあおい ちいさなりんごの実」。
そして、おかあさんがあかいクレヨンで描いてくれた、大きくて真赤なりんご。
しろうさぎとの会話。しろうさぎの表情やしぐさ。
そういえば、こういうしあわせな時間を子どもたちはくれたんだ。
いや、こんなしあわせな時間を今も過ごしている若いおとうさんやおかあさんがいるんだ。
そう思うだけで、しあわせになりそうです。