長谷川集平さんを昨年の6月に大学にお呼びしました。そのとき、長谷川集平さんは『日曜日の朝』や『トリゴラス』は読まれていましたが、『パイルドライバー』が紹介されたかどうかは覚えていません。『パイルドライバー』には、男の子の恋心が描かれているので、私は大人の絵本だと想いこんでいました。読みきかせには向かない本だと決めつけていたのです。
「パイルドライバー!」腹に力を入れ、少し濁声で題名を心地よく響かせると、プリントをしていたり、ともだちと話している子どもたちもすっと絵本にひきつけられます。少々ざわついていようがお構いなしに読みきかせを始めることができます。どきつく鮮やかな絵が子どもの目をとらえ、端的なことばは子どもにやわらかい声で触れていきます。「ファイヤー!ブハッ!」で教室は笑いに包まれ、和やかなひとときを子どもたちと共有することができます。『パイルドライバー』を子どもたちに読むようになって、はじめて子どもたちから長谷川集平さんの凄さを教えてもらいました。自分で読んでいるだけではわからなかった『パイルドライバー』のおもしろさに気付かせてもらいました。絵本は、子どもに読ませる本でも、自分で読む本でもなく、子どもたちに読む本であり、誰かに読んでもらう本なのだと思います。
読みきかせに教室に入ることは、私にはとても怖かった。子どもたちは、その本がおもしろいのかおもしろくないのかを直に伝えてきます。今日はうまく読めるだろうか。子どもたちは聴いてくれるのだろうか。読み聞かせに入る前に、不安が襲ってくることもありました。『パイルドライバー』は子どもたちに教えてもらった心強い味方です。たとえ、読みきかせの時間に読まなくても、私は『パイルドライバー』をいつも持っていきます。