箱のなかにはいっているのは?!
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絵本紹介
2022.08.05
2022年8月15日。日本では、77回目の終戦記念日を迎えます。しかし、世界に目を向けてみると、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、77年経った今でも世界から戦火が消えることはありません。国同士の争いによって子どもたちが傷つき、命を落とす日が一日でも早くなくなることを、願わずにはいられません。
今回ご紹介する「平和を考える絵本」。今までは昔の話、遠い外国の話とどこかで自分たちは安全な場所にいると思っていた人も多かったと思います。しかし今、手に取ってみると、決して過去ではない、身近に起こりうるかもしれない話として、私たちの受け止め方も変わっているのではないでしょうか?
今だから考えたい「戦争」「平和」。お子さんに身近な絵本を手に、一緒に考えてみてはいかがでしょう。
出版社からの内容紹介
ウクライナ・キーウの月は、わたしたちが見上げている月と同じ月。世界的作家・ロダーリの絵本を、ウクライナ救援のために緊急出版。
みどころ
色とりどりの花が歌う、ふしぎな町ロンド。
この町には、だれもが知ってる仲良し三人組がいました。
ぴかぴか光るガラスの体、電球の妖精みたいなダーンカ。
ピンクの風船犬、ふわふわ軽い、宝探しの名人ファビヤン。
折り紙の鳥みたいな見た目のジールカは、空を飛べて、旅が大好き。
三人をはじめとしたロンドの個性的な住人たちは、町での暮らしを心からたのしんでいました。
ところが、そんな平穏な日常を壊す、おそろしい影がロンドにやってきました。
戦争です。
ウクライナを拠点に活動するアートユニットが描く、平和な町と、壊された日常。その目も覚めるようなコントラストで、戦争の痛ましさを描き出した一冊です。
写真を組み合わせて作るコラージュと、ポップでかわいらしいグラフィックのキャラクター。
明るくやわらかな色で描かれる平和と、暗くおどろおどろしい色の戦争。
ファンタジックで詩的な世界観と、戦争というリアルなテーマ。
本作はそうしたいくつかの強いコントラストで構成されていて、それが両方の極の強烈な印象を、読者の胸に刻み込みます。
「ロンドの町の人たちは、戦争がどんなものか知りませんでした。
ところが、戦争は、どこからともなくやってきました。」
石で心臓を打たれて、ヒビの入ったダーンカ。ファビヤンはトゲで刺されて足がやぶけ、ジールカは火で焼かれて翼に穴があきました。そして、彼らの傷は物語の最後まで癒えることはありません。
戦争を止めるために、三人は相手のやり方をならいました。戦争の心臓を狙って、攻撃を返したのです。しかし、すべてむだに終わりました。
「なぜなら、戦争には心を心臓もないからです」
どうやっても戦争の歩みを止めることはできないとあきらめかけたそのとき、ロンドの町にある意外なものが、みんなの希望になって──?
作中で象徴的に描かれる、赤いヒナゲシ。これは、第一次世界大戦の戦死者を追悼するためのシンボルとして知られる花です。現実におおきな戦争が起きてしまった現在、その当事者たる著者らが戦争の悲惨と平和の愛おしさを子どもたちに向けて発信した、心ゆさぶられる作品です。
この書籍を作った人
絵本作家、アーティスト。共に1984年生まれ。ウクライナのリヴィウを拠点に活動する。リヴィウ国立美術大学を卒業。アートスタジオAgrafka主宰。2011年、ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)で出版社賞を受賞。本作は2015年に刊行され、ボローニャ・ラガッツィ賞を受賞し、世界15言語に翻訳出版されている。2017年BIB世界絵本原画展金牌を受賞した『目で見てかんじて 世界がみえてくる絵本』、2018年ボローニャ・ラガッツィ賞受賞の『うるさく、しずかに、ひそひそと 音がきこえてくる絵本』(共に、広松由希子訳 河出書房新社)など、世界が注目する新進気鋭のユニット。
この書籍を作った人
翻訳家・法政大学教授 1954年岡山市生まれ。訳書は児童書、ヤングアダルト小説、一般書、ノンフィクションなど550点以上。訳書にマコーリアン『不思議を売る男』、シアラー『青空のむこう』、グリーン『さよならを待つふたりのために』、ヴォネガット『国のない男』、モーム『月と六ペンス』、クールマン『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』、サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』など。エッセイ集に『サリンジャーにマティーニを教わった』、日本の古典の翻案に『雨月物語』『仮名手本忠臣蔵』など。
みどころ
窓辺に花が咲き、お父さんは弟に子守唄をうたい。お母さんは私の鼻にキスをして、学校まで送ってくれ。火山のことを勉強した後に、鳥の絵を描いた。そして、ランチタイムのすぐあとに……
せんそうがやってきた。
せんそうは校庭の向こうからやってきて、全てを吹き飛ばし、私の家があった場所を黒い穴にし、誰もかも連れていってしまった。
小さな女の子に襲いかかった恐ろしい出来事は、そこで終わってはくれません。せんそうは、どこまで逃げても追いかけてくるのです。遠く遠くまでやってきて、やっと見つけた家の門は閉じ、学校に入ろうとするとこう言われるのです。
「あなたの場所はありません」
2016年春、イギリスで、3000人の孤児の難民の受け入れが拒否され、同じ頃、座るイスがないという理由で難民の女の子が学校への入学を断られました。そのことを聞いて作者が書いた詩が、この絵本の元になっているのだそう。イスは、全てを失い行き場のなくなった子ども達との連携のシンボルとなったのです。
世界には2,250万人という数の難民がいます。そして、その人たちが誰一人として望んで難民になっているわけではないのです。どんな子どもたちにも未来を夢見る権利があります。安全な場所にいる私たちにできる支援はあるのでしょうか。
だけど、当たり前だと思っていた日常がある日突然壊される、この悲しみと恐ろしさは絵本を通して痛いほど伝わってきます。ひとりぼっちになってしまった女の子の絶望感に打ちのめされます。今自分が何を感じ、どんなことを考えたのか。絵本を読んだ後にその感情をしっかり受け止める。子どもたちには、そんな力がきっとあるのだと思います。
世界がどこへ向かっていくのか、しっかりと見極めていかなければならない今。大事なヒントとなる1冊なのかもしれません。
この書籍を作った人
ケンブリッジ大学で動物学を専攻。くじらやこうもりをはじめ、数かずの動物の研究、子ども向けの本の執筆、英国BBCで野生動物や自然をテーマにした番組のプロデュースにも関わっている。絵本に『びっくりどっきり寄生虫』(フレーベル館)、『ちいさなちいさなめにみえないびせいぶつのせかい』(ゴブリン書房)、『北極熊ナヌーク』『やくそく』(以上、BL出版)などがある。
この書籍を作った人
イラストレーター。2004年イギリスのファルマス芸術大学を卒業。邦訳されている作品に『あなのなかには…』(フレーベル館)などがある。『ごはんのじかん』(ポプラ社)は、ウォーターストーンズ児童文学賞(絵本部門)を受賞し、ケイト・グリーナウェイ賞の最終候補に残る。本作品も、2019年ケイト・グリーナウェイ賞最終候補に選ばれた。
この書籍を作った人
翻訳家、エッセイスト。クリス・リデルが 挿絵を描いた『中世の城日誌』(岩波書店刊)で、第51回産経児童出版文化賞JR賞を受賞。『ピーターラビットのクリスマス 25の物語のアドベント』(文化出版局刊)、『ビアトリクス・ポターの物語 キノコの研究からピーターラビットの世界へ』(西村書店刊)、『STAMP BOOKS ぼくだけのぶちまけ日記』(岩波書店刊)、『本おじさんのまちかど図書館』(フレーベル館刊)、『ヤーガの走る家』(小学館刊)、『せんそうがやってきた日』(鈴木出版刊)など翻訳本多数。紙芝居文化の会運営委員、JBBY(日本国際児童図書評議会)会員、やまねこ翻訳クラブ会員。
みどころ
「せんろはつづく」 シリーズや 「鳥の巣の本」 シリーズなどの人気作を世に送り出している絵本作家の鈴木まもるさんが長年温めてきたテーマ、「戦争」そして「平和」がついに一冊の絵本になりました。
物語の舞台は1914年、第一次世界大戦開戦からわずか5カ月後のクリスマスイブ。
最前線で戦うイギリス軍兵士は、その夜、敵側のドイツ軍から音が聞こえてくることに気づきます。
耳を澄まして聞いてみると、それはドイツ語で歌われた「きよし このよる」でした。
「きょうは12 月24日 、クリスマス・イブなんだね」
「そうだったな。ドイツにもクリスマスがあるんだなあ」
「こっちも、歌おうか」
イギリス軍の兵士が母国語で「きよし このよる」を歌うと、ドイツ軍から拍手が聞こえました。
続いてドイツ軍から別のクリスマスソングが歌われ、イギリス軍も同じ歌を母国語で歌いました。
そうして両軍でクリスマスソングを歌い合いながら、イブの夜は更けていきました。
翌日、ドイツ軍側から一人の兵士が武器を持たずにイギリス軍側へ歩いてくる姿が見えました。
イギリス軍の若い兵士も同じように武器を持たずにドイツ軍側へ歩いていきました。
鉄条網を挟んで向かい合った二人の兵士。
この後、二人は一体どうなったのでしょうか……。
これまでの鈴木まもるさんの作品の特徴である、色鮮やかなタッチをグッと抑え、
茶や黒など落ち着いた色を使った前半は、まるでモノクロ映画を見ているかのような深みを感じます。
そして後半に進むに従い、色が少しずつ増えてきて、最後の数ページの、目を見張るような鮮やかな空の色は、
100年前から現在に至るまで変わらないものがあることを私たちに示しているように感じます。
この絵本の「あとがき」の絵を描いているとき、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のニュースが流れてきたそうです。
「まだ「戦争」を始める人間がいる現実に愕然としつつ、戦争よりも強い人のやさしさと想像力が描きたくて、絵を完成させました。」と語る鈴木まもるさんは、最後のページに民族衣装をまとったウクライナの子どもたちと「この星に、戦争はいりません」という一文を追加しました。
100年前に実際にあった出来事を描くことで、これから100年先の子どもたちへのメッセージを絵本で残したい。
そんな作者の強い思いを感じることのできる一冊です。
この書籍を作った人
1952年、東京都生まれ。東京芸術大学中退。「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)で赤い鳥さし絵賞を、『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞を、『ニワシドリのひみつ』(岩崎書店)で産経児童出版文化賞JR賞を受賞。主な絵本作品に『ピン・ポン・バス』『がんばれ!パトカー』(偕成社)、『せんろはつづく』『つみきでとんとん』(金の星社)、エッセイに『バサラ山スケッチ通信』(小峰書店)などがある。また鳥の巣研究家として 『日本の鳥の巣図鑑 全259』(偕成社)、『鳥の巣いろいろ』(偕成社)、『鳥の巣の本』『世界の鳥の巣の本』『ぼくの鳥の巣コレクション』(岩崎書店)、『鳥の巣みつけた』『鳥の巣研究ノート』(あすなろ書房)などの著書があり、全国で鳥の巣展覧会を開催している。
みどころ
広島県倉橋島で産する「議院石」という、火をくぐっても存在しうる石。
そんな独特な存在感を持った石に支えられるように、次々と登場するカタリベとしての「物」たち。
両方揃ったちょっと小さめの軍手、中のご飯は焦げてしまっている弁当箱、色鮮やかなワンピース、そして8時15分で止まったままの時計・・・。
彼らは語ります。ヒロシマで体験したあの日、あの瞬間のことを。そして今も探し続けている大切な人、持ち主たちのことを。
カタリベたちに出会い、じっと耳を傾け、それを言葉にしたのはアメリカ生まれの詩人アーサー・ビナード。平和記念資料館に収蔵されている展示物に幾度となく向き合い、その物たちにひそむ物語を通訳者として言葉で伝えたいと思ったというのが始まりなのだそう。
その直接のきっかけとなったのは、日本に来日してから「ピカドン」という言葉を知った時。原子爆弾という言葉と違って「ピカドン」は生活者たちが生み出した言葉。それが彼に新しい視点を与え、核の本質を見通すレンズになったといいます。ウランの核分裂が、暮らしを破壊しつくして、はかりしれない命を奪ったのです。確かに「ピカドン」はその実体験を端的に体感的に表わしている言葉なのかもしれません。
実際にこの作品に登場しているのは、資料館に収蔵されている約2万1千点の中から選んだ14点。
それぞれカタリベとなった物たちのプロフィールとして、巻末に持ち主やその家族の物語が収められています。いかに丁寧に取材をし、カタリベたちと向き合ってきたのかが伝わるページとなっています。
この写真絵本に登場するのは、そうした「物」たちだけです。
怖いことはありません。恐ろしい場面もありません。
静かにその日の事を語るだけです。ずっと一緒にいるはずだった持ち主たちを思っているだけです。
でも、確かに彼らはヒロシマを知っています。
そして、今の時代を生きる私たち日本人をじっとみつめているのです。
私たちは、そこから何を感じとらなくてはいけないのでしょう。
この書籍を作った人
アメリカのミシガン州に生まれる。五大湖の魚と水生昆虫に親しんで育ち、高校生のころから詩を書き始める。ニューヨーク州の大学で英文学を学び、卒業と同時に来日、日本語でも詩作を始める。『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞、『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』(集英社)で日本絵本賞、『さがしています』(童心社)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。翻訳絵本に『ほんとうのサーカス』(BL出版)などがある。
出版社からの内容紹介
すずは広島に生まれた、絵の得意な女の子。昭和19年2月、18歳で呉にお嫁に行き、新しい暮らしを築きはじめる。やがて昭和20年になり…?
戦時下の日常を、ひたむきに生きるすずの姿を描いた感動作! ロングランを記録した映画は、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞、児童福祉文化賞などを受賞。話題の映画がアニメ絵本に!
みどころ
「平和」というのは日常の本当にさり気ない瞬間に存在しているのだと改めて思います。
おいしいごはんが食べられて、夜ぐっすり眠れる。
当たり前だと思っているのは幸せなことだけど、やっぱり本当は当たり前のことじゃない。
いやだという意見が言えたり、ごめんなさいとあやまること。
これだって小さな事に思えるかもしれないけど、実はこれができないと大変なことになる。
そして何より大切なのは・・・。
戦争の場面もいくつか登場します。でもこれは怖がらせるためではなく、こどもが自分達の意思で平和な世界というものをつくっていけるんだというメッセージも込められているようです。
作者は『あやちゃんのうまれたひ』や『ぼくのかわいくないいもうと』など、温かな目線で家族や子ども達を描き出している浜田桂子さん。
日本、中国、韓国三カ国の絵本作家とともに平和を訴える絵本シリーズの第一作として練られてきた作品ですが、読んでみればやっぱり子ども達への深い愛情を感じてしまいます。親子で読みながら、会話をしながら、平和について考えるきっかけになってくれればいいですよね。
この書籍を作った人
1947年、埼玉県川口市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。田中一光デザイン室勤務の後、子どもの本の仕事を始める。絵本に『あやちゃんのうまれたひ』『あそぼうあそぼうおとうさん』『あそぼうあそぼうおかあさん』『てとてとてとて』(以上、福音館書店)、『ぼくがあかちゃんだったとき』『さっちゃんとなっちゃん』(共に教育画劇)、『ぼくのかわいくないいもうと』(ポプラ社)、『あめふりあっくん』(佼成出版社)、イラストエッセイに『アンデスまでとんでった』(講談社)、『おかあさんも満一歳』『アックンとあやちゃん』(共にアリス館)など。