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絵本紹介
2024.03.12
長年、子どもの本を出版している、出版社の周年をお祝いする連載。今回ご紹介するのは、ヨシタケシンスケさんの「発想えほん」シリーズや鈴木のりたけさんの「しごとば」シリーズ、かがくいひろしさんの「だるまさん」シリーズなど数多くのベストセラー作品を私たちに届けてくれるブロンズ新社さんです。
出版社からの内容紹介
「らくがきこそが絵のはじまり」と五味太郎が、らくがきワールドへと読者をいざなうかきこみ式絵本。ぬり絵、ことば遊び、めいろ、お面......。たっぷり368ページ、始めたらやめられないおもしろさ! 世界中の子どもたちが楽しんでいる、らくがき絵本の第1弾。
みどころ
赤くて、ぷくーっと膨らんだように丸くて、小さな手足がちょこんとついていて、なんだかびっくりしたような顔をしてこちらを見ているのは…だれでしょう?
「だ る ま さ ん が」
ページをめくれば、そのまあるい体が、かけ声と共にゆらゆら揺れ出して……
「どてっ」
あ、ころんじゃった!!
「だ る ま さ ん が」
今度は……
「ぷしゅーっ」
あれ!? なんかぺっちゃんこになってる!!
0歳の赤ちゃんから大人まで笑ってしまうと、発売以来ずっと多くの読者を喜ばせ続けているこの絵本。柔らかそうな丸くて赤いかたまりが、伸びたり縮んだり、転んだり。目をつぶったり、開いたり、笑ったり。おまけに「ぷっ」とする。だるまさんっていう名前なんて知らない小さな子でも惹きつけられてしまっているのが、その反応を見ているだけでわかります。呼びかけるような言葉のリズムも声に出してみれば独特な「間」をつくってくれて、誰が読んだって笑っちゃうのです。
作者のかがくいひろしさんが絵本を作る時にこだわっていたのが「もの」「音」「うごき」「見立て」なのだそう。理屈がわからなくたって、見て、聞いているだけで楽しくなってくる。それがこの絵本の人気の秘密になっているのだということは、多くの読者からの感想を読んでいてもよくわかりますよね。
さらに、ユーモラスだけれど、どこまでも優しさを感じる表情。動きの愛らしさ。だるまさんが転ぶだけじゃない、という意外性。自然とスキンシップを取りながら読んでしまうこと。読んであげる大人の方が先に笑ってしまうこと。
…それらが全部、この絵本が愛される要素になっていることは言うまでもないですよね。
みどころ
ある日、男の子が学校から帰ってくると、テーブルのうえにリンゴが置いてありました。
しかし、そのりんごを見て、とある疑問を抱いてしまった男の子。
「もしかしたらこれは、りんごじゃないのかもしれない」
りんごがりんごであることを疑う男の子の想像は、とどまるところを知らずにどんどん大きくなっていきます。
これはりんご型のメカかもしれない!? 機能満載、リンゴメカの解剖図!
らんご、るんご、れんご、ろんご!? 奇妙キテレツな形のりんごの兄弟たち!
ほんとはオシャレがしたかった!? いろんな髪形、りんごのファッションショー!
はたしてこれは本当にりんごなのか??
男の子が思い切って、ひとくちかじってみると……
奇才ヨシタケシンスケさんの大ヒットデビュー作!
小さなひとつの疑問から展開される、まか不思議なアイデアと想像力の壮大な世界。
りんごひとつで、こんなに話が広がるなんて!
どのアイデアもとんでもなくトッピなのに、常識も予想もぶち壊しながら、どんどん大きくふくらんでいくその発想に目が離せません。
デフォルメが強く線もとても少ないのに、見ればすぐにヨシタケシンスケさんだとわかる独特の絵。
それが、大暴走する奇妙な発想に親しみやすさを与えていて、一見すると怖いとあるアイデアも、なんだかくすりとさせられる不思議な雰囲気になっています。
表紙と裏表紙の絵も、謎が謎を呼ぶ不思議なりんごのオンパレード!
りんごひとつから展開される想像力の大暴走に、ビックリ大笑いの一冊です。
みどころ
ありそうでなかった、こんな絵本。描かれているのは9つの職業の人達がそれぞれ持つ自分の城、「しごとば」。実際に覗き見しているかのごとく、忠実にわかりやすく描かれています。
例えばすし職人。普段は見ることが許されないカウンターの向こう側。とにかくネタから道具まで細かく描かれています。包丁だけでもさしみ包丁、たこひき包丁、柳刃包丁、あじきり包丁……それだけでも何だかワクワクしてくるのです。お茶っぱ、電卓、出前のメモ、野球選手のサインだってあります。
歯医者さんはどうなっているのでしょう。タービン、マイクロモーター、かんし、咬合紙……単語だけでは何のことだかわかりませんね。仕事ぶりもユーモアたっぷり、丁寧に描かれています。
極めつけは新幹線の運転士。作者の鈴木のりたけさんは、何と新幹線の運転士のご経験があるのだそうです!期待を裏切らない細かい情報の数々。運転士さんの1日だって見られます。
この絵本が素晴らしいのは、仕事場を見ているだけでそれぞれの職人さんが仕事に誇りを持っていること、楽しんでいる事が伝わってくる事。小さい頃にこんな絵本を見ていたら、仕事に対する興味も全然違ったのではと、ちょっとうらやましくもなってしまいますね。続きが早く見たいものです。
みどころ
朝早くから準備を始め、てきぱきと仕事をこなし、開店と同時に毎日楽しみにしているお客さんにパンを届ける「パン職人」。ビシッと制服に身を包み、約1300人の乗客を乗せ、時速285qのスピードで東海道新幹線を走らせる「新幹線運転士」。大学のキャンパスの一室で、自分の打ち出すテーマについて実験や分析を続け、論文にまとめていく「研究者」。
颯爽と仕事に打ち込むその姿には、誰もが憧れてしまいます。でも、彼らはいったいどうやって「自分のしごと」を見つけていったのでしょう。
大人気「しごとば」シリーズの作者鈴木のりたけさんが、新たに取り組んだ読み物シリーズ「しごとへの道」。さまざまな職業の人を取材し、その職業を紹介する内容からさらに一歩深く進み、子ども時代から現在まで、どのような人生を歩んできたのかを、コマ割りのコミック仕立てで描き出します。
読み始めると、どの人のストーリーにもあっという間に引きこまれてしまうのは、その道のりが決してまっすぐきれいな一本道にはなっていないから。大きなまわり道をしたり、前が見えなくて悩み続けていたり、挫折を味わったり、紆余曲折、十人十色。人生を変えてくれた言葉や人と出会いの中で、働くことの面白さや喜びを見つけていく様子には、子どもから大人まで、どんな立場の人の心にも大きく響くものがあるのです。
「しごとへの道はひとつじゃない!」
自分の夢を見つけることや、自分の道を進んでいくことは、簡単なことではありませんよね。でも、だからこそ、こんな風にリアルで魅了的に描かれた人たちのストーリーが、読む人の背中を押してくれるはず。熱くて濃密な、鈴木のりたけさんの新境地。また続きが楽しみになるシリーズの誕生です。
みどころ
つるんと白く、見事なフォルム。それは、どこから見ても完璧なたまご。だけど、その体からは、細くて繊細な手足が伸び、何とも言えない目鼻口の表情が浮かびあがっている。そして言うのです。
「やあ、こんにちは。わたしはたまご。
今から、わたしのはなしをするからね。」
一目で心を掴まれてしまった読者に向かって、たまごは、自分が目を覚ました瞬間のことから、はじめて歩き、はじめて話をした時の事を語ります。そして、マシュマロに出会い、巻き込みながら、一緒にキッチンの台を降り、リビングにまで足を運ぶ話へと続きます。
注目の絵本作家、しおたにまみこさんの初めての絵童話。その独特な感性は、絵だけではなく、思考回路にあるのでは……と、改めて驚かずにはいられません。動くこと、話すこと、伝えること、当たり前だと思っていたことに光を当て、会話の中では胸がすくようなことを言い放ち、じっくり考えることで身体のコンディションを整えていく。収録されている3つのお話は、どこを切り取っても不思議で面白く、刺激にあふれているのです。
年齢を問わず、一話ずつゆっくりと。たまご哲学やマシュマロ哲学、味わってみてくださいね。私は「帽子に誰も気が付かなかった話」に大賛同ですね。
みどころ
主人公は、声変わりの自分の声に悩まされる小学5年生の「令」。あるときから、自分が「トロイガルト」という国の死刑囚「レイン」である夢をみるようになります。そこでは、羽が生えた熊「ハネクマ」たちの管理のもと、たくさんの死刑囚が死を当然のこととして過ごしています。そんな中、トロイガルトの監獄で、死ぬことを受け入れない死刑囚「シグ」が現れ……。
一方、現実世界の学校では合唱コンクールがせまり、声が出ないままの令は、歌うことから逃げようとしていました。
現実と夢の世界が交互に描かれ、徐々にリンクしていきます。
一見全く関わらなそうなふたつの世界が繋がっていくことに驚き、現実世界の登場人物が夢の世界の誰なのか明らかになっていく過程や、意外な展開にワクワクしながら、夢中で読み進めてしまうことでしょう。
「おとなになるって、ほんとのじぶんを、どんどん殺していかなきゃいけないって、おもう。」
これは、トロイガルトの世界のヒントとなる、令の同級生の言葉。
レインたちは、どうやったらそこから出られるのか、トロイガルトとはいったい何なのか。謎を解き明かしながら物語は結末に向かい、現実の自分と向き合い、本当の望みを認めること、そして未来への希望が描かれていきます。
圧倒される世界観と、登場人物のセリフに心に残る表現が散りばめられているのが、斎藤倫さんの作品ならでは。本そのものもとても美しく、挿絵は花松あゆみさんによるゴム版画、装丁は名久井直子さんが手がけています。現実世界の挿絵は黒、夢の世界は青で描かれていて、物語が装丁に繋がっているところも大きな魅力です。
哲学的な雰囲気のある長編で、読み応えもありますが、ファンタジー好きには特に没頭して楽しめる一冊。大人になることに戸惑っている年代の子どもたちと、大人にもぜひ読んでほしい物語です。
みどころ
色とりどりの花が歌う、ふしぎな町ロンド。
この町には、だれもが知ってる仲良し三人組がいました。
ぴかぴか光るガラスの体、電球の妖精みたいなダーンカ。
ピンクの風船犬、ふわふわ軽い、宝探しの名人ファビヤン。
折り紙の鳥みたいな見た目のジールカは、空を飛べて、旅が大好き。
三人をはじめとしたロンドの個性的な住人たちは、町での暮らしを心からたのしんでいました。
ところが、そんな平穏な日常を壊す、おそろしい影がロンドにやってきました。
戦争です。
ウクライナを拠点に活動するアートユニットが描く、平和な町と、壊された日常。その目も覚めるようなコントラストで、戦争の痛ましさを描き出した一冊です。
写真を組み合わせて作るコラージュと、ポップでかわいらしいグラフィックのキャラクター。
明るくやわらかな色で描かれる平和と、暗くおどろおどろしい色の戦争。
ファンタジックで詩的な世界観と、戦争というリアルなテーマ。
本作はそうしたいくつかの強いコントラストで構成されていて、それが両方の極の強烈な印象を、読者の胸に刻み込みます。
「ロンドの町の人たちは、戦争がどんなものか知りませんでした。
ところが、戦争は、どこからともなくやってきました。」
石で心臓を打たれて、ヒビの入ったダーンカ。ファビヤンはトゲで刺されて足がやぶけ、ジールカは火で焼かれて翼に穴があきました。そして、彼らの傷は物語の最後まで癒えることはありません。
戦争を止めるために、三人は相手のやり方をならいました。戦争の心臓を狙って、攻撃を返したのです。しかし、すべてむだに終わりました。
「なぜなら、戦争には心を心臓もないからです」
どうやっても戦争の歩みを止めることはできないとあきらめかけたそのとき、ロンドの町にある意外なものが、みんなの希望になって──?
作中で象徴的に描かれる、赤いヒナゲシ。これは、第一次世界大戦の戦死者を追悼するためのシンボルとして知られる花です。現実におおきな戦争が起きてしまった現在、その当事者たる著者らが戦争の悲惨と平和の愛おしさを子どもたちに向けて発信した、心ゆさぶられる作品です。
みどころ
「へいわ」と「せんそう」。
確かに違う、このふたつ。
平和の方がいいに決まってる。
…だけど。
「へいわのボク」と「せんそうのボク」ではなにが変わるんだろう。
詩人・谷川俊太郎と、一度見たら忘れられないモノクロームのドローイングが話題のイラストレーターNoritakeが取り組んだ、平和と戦争について考えるこの絵本。左右のページにはさまざまな人や物や場所の「へいわ」の状況と「せんそう」の状況が並び、ひとめでその違いが見えてくる。
例えば…
「へいわのボク」はいつも通り。いつもと同じに立っている。
「せんそうのボク」は座り込んでしまっている。
「へいわのワタシ」は勉強をしている。これもいつも通り。
「せんそうのワタシ」は何もしてない。
「へいわのチチ」はボクと遊んでくれて、「せんそうのチチ」は完全武装をして一人で闘っている。「へいわのハハ」は絵本を読んでくれるけど、「せんそうのハハ」は…。食卓を囲む「へいわのかぞく」、食卓には誰もいない「せんそうのかぞく」。手に持っているモノだって、木や海や街だって、明らかに全然違う。
それは、行き来が可能な世界ではない。
「せんそう」が終われば戻る世界でもない。
何かがなくなった、だけでは終わらない。
どこまでも深い「黒」と、少し光を放つような「白」の2色で構成されている場面に、シンプルだけど、これ以上ないくらいわかりやすい「ことば」。この絵本のどのページを見ても、まるでマークや記号のように、直接、目と頭に働きかけてくるのです。そして頭に残るのです。
でも、谷川さんは最後に大切な希望を見せてくれます。それは…。
昨年2023年に、おかげさまで創立40年を迎えました。
40周年は、過去をふりかえるのではなく、前を向いていたいと思いました。
浮かんだキイワードは「絵本づくりの未来形」。
この10年、絵本の可能性を切り拓き、世界を刺激してきた作家のトークを開催しようと考えました。ウクライナの作家、ロマナ・ロマニーシンとアンドリー・レシヴの両氏、そして、作家デビュー10周年を迎えたヨシタケシンスケ氏です。彼らはともにボローニア国際ブックフェアでラガッツィ賞を受賞しているので、板橋区立美術館に会場をご提供いただきました。
昨年9月にロマナ&アンドリー両氏が来日した際には、5連続イベントを企画し、全国の書店員の方たちを招いたトーク&パーティのEAST&WEST会、桐朋小学校を訪問し6年生を対象にウクライナの現状を語った特別授業、さらに、日本、韓国、ウクライナの親子が参加する大規模ワークショップも開催することができ、多くの人たちの出会いと熱い思いが交錯したイベントとなりました。
また昨年11月には、絵本デビュー作『りんごかもしれない』10周年を迎えたヨシタケシンスケさんの講演会を、板橋区立美術館との共催のもと行いました。「作家に必要なこと——私の経験と意見と偏見」と題し、未来の絵本作家を目指すおよそ50名に向けてお話されました。
40周年を迎え、さらに未来へと歩みを進めるブロンズ新社さん。これから発売される絵本もさらに注目されることでしょう。
読者の皆さんも、ブロンズ新社の作品をこれからも応援していきましょう。
文・構成/木村春子