わたしとお兄ちゃんは、戦火をのがれて「ぼうけん」の旅にでた。その目指す先には……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介する絵本は、『きみは、ぼうけんか』。イラン発の平和をかんがえる絵本、どんな内容なのでしょう?
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
めちゃくちゃになった部屋、壊されてしまったわたしたちのおうち、どうしたらいいのか、全然わからない。でもお兄ちゃんは自分のぼうしをわたしの頭にのせて言った。
「ぼうけんかになりたくない?」
こうして二人は「ぼうけん」の旅に出る。ウマより早く走り、どんな風や雨のなかでも歩き続け、外で寝るのだってこわくない。「ぼうけんか」はどんなものだって食べるし、ふねにだって乗る。魚みたいに泳ぐ時だってある。「ぼうけん」って、全然らくじゃない。でも、二人は励ましあいながら「ぼうけんかのまち」を目指すのです。
2019年にイランの作家によって描かれ、2021年ブラチスラバ世界絵本原画展金牌を受賞したこの絵本。主人公は、戦争によって親も家も奪われた幼い兄妹。
火の手があがる街、歩き続ける人々の暗い表情、妹の涙。丁寧に描かれた絵を見れば、難民キャンプを目指す二人の旅路がいかに苦しくて果てしないものなのかが切実に伝わってきます。けれど、兄はこの困難な状況を「ぼうけん」だと言ってのけ、妹は兄の言葉を信じ、なんとか乗り切っていく。
今を生きる子どもたちにとっても決して他人事ではない、戦争という過酷な現実。恐怖や絶望に直面した時に、この想像力や遊び心で立ち向かった小さな冒険家たちのことを思い出すことができたなら。この絵本が、きっと多くの人の心を励まし、希望を持ち続けることの大切さを教えてくれる存在になっていくのではないでしょうか。
いつか読んだ本
家がなくなり、今すぐここから逃げなければならない。小さな妹は茫然と立っている。そんな時、お兄ちゃんは一体どんな決意でぼうしを手にしたのだろう。不安と恐怖に押しつぶされそうになっていたのではないだろうか。彼の心を必死で支えていたのは、妹を守らなければという切なる気持ちと、いつか読んだ本の世界。想像の力が助けてくれることを知っていたのかもしれません。状況を思えば思うほど胸が痛くなる一方で、絵本の中で起きたこの出来事に、私たち大人は希望を見出さずにはいられないのです。
この書籍を作った人
1986年生まれ。作家。幼いころから文学に熱中し、テヘランのシャヒード・ベヘシュティー大学で児童文学とヤングアダルト文学を専攻し修士号を取得。大学卒業後、数多くの作品を執筆している。ガザル・ファトッラヒーとの共著の今作で、2021年ブラチスラバ世界絵本原画展で金牌を受賞。
この書籍を作った人
1989年生まれ。ビジュアル・アーティスト、イラストレーター。イラン・イラストレーターズ・ソサエティとイラン児童図書評議会の会員。テヘラン芸術大学でグラフィックデザインの学士号を取得。2013年に初の絵本を出版して以来、15冊以上の絵本を手がけ、国内外の数々のブックフェアで評価される。常に新しい芸術言語の探求に意欲的で、伝統的な技法とデジタル効果を組みあわせたイラストが特徴。イラン在住。
この書籍を作った人
翻訳家。東京外国語大学大学院修士課程修了後、10カ月のイラン留学を経て、2004年より美術家フジタユメカとともにサラーム・サラームというユニット名で、イランの絵本やイラストレーターを紹介する展覧会などを開催している。再話に『アリババと40人のとうぞく』(絵・ナルゲス・モハンマディ/ほるぷ出版)『2ひきのジャッカル』(絵・アリレザ・ゴルドゥズィヤン/玉川大学出版部)、訳書に『ボクサー』(作・ハサン・ムーサヴィー/トップスタジオHR)『いろたち』(作・アッバス・キアロスタミ/カノア)などがある。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。