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- ためしよみ
ねえ、おぼえてる? パパと3人でピクニックに行ったときのこと。それから……。 毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介する絵本は、『ねえ、おぼえてる?』。国際アンデルセン賞画家賞を受賞したシドニー・スミスによる、自伝的絵本。どんな内容なのでしょう?
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
「ねえ、おぼえてる?」
パパと3人でピクニックに行ったときのこと。ぼくがひろってきた野いちごの甘さ。誕生日にパパがくれた自転車にまたがって走り出したあと、支えていたママの手がはなれたとたんに転んだこと。
嵐の夜に停電した時、あなたがママ、ママって呼んでいるのに、わたしはすぐにいけなかったこと。うちを出て、途中で道に迷ったけれど、やっとのことで新しい家までたどりついたこと。
明かりを消したベッドで寄り添う母と子の交わす会話の中に登場するのは、まぶしいばかりの喜びと、言葉にならない痛みをともなう、2人の思い出の場面。やがて暗かった部屋にも日が差しこみ、ふたりだけでむかえるはじめての朝。窓をあけ、魔法がかかったように美しく輝く朝の景色を見ながら少年は思うのです。
「みんな、うまくいく」
はじまりは明かりを消したあとのベッドでかわされる母と子の会話から。2人が思い出すのは……
パパと3人でピクニックに行ったときのことや、自転車で転んだ時のこと、停電の時の出来事や、うちを出て、ここへくるまでのこと。
今も決して揺らぐことのない、あの朝の記憶。2024年4月に国際アンデルセン賞画家賞を受賞したカナダの絵本作家シドニー・スミスが、自らの子ども時代の体験をもとに3年がかりで完成させたというこの絵本。最も印象的な場面の一つでもある、窓からこちらを振りかえる少年のその複雑な表情からは、すぐに明確な感情を読みとることはできません。断片的に登場する母と子の記憶の中の登場人物たちの表情もどこか捉えどころがありません。だからこそ、読者は何度でも絵を読み込みながらその場の空気やにおい、音や感情を蘇らせていき、自分の中から生まれてくる感情と重ねて紐解いていくのです。
「このことも、いつか思い出にできるかな」
何かを決意したような記憶の中の少年の眼差しは、まるで今の自分を見つめ返しているようでもあり。新しい人生を歩みだす2人を包み込む優しく柔らかい朝の光を眺めながら、大切な瞬間に触れ合えたような気持ちになるのです。
知らない誰かのかけがえのない記憶
大人になっても、ふと思い出す子どもの頃の記憶。それは切り取られた一瞬の景色だったり、誰かとの会話だったり。音楽やにおいをきっかけに思い出すこともあれば、悔しさや悲しさなどの感情を思い出すこともある。ぼんやりした記憶のこともあれば、まるで昨日のことのように思い出せる場面もある。そんな風にさまざまな形をしている記憶を、もし誰かと一緒に共有できたなら……。絵本の可能性を広げ続けるシドニー・スミスさんの作品を堪能できる一冊です。
この書籍を作った人
カナダのノヴァ・スコシア州郊外に生まれる。ノヴァ・スコシア美術デザイン大学卒業。ジョナルノ・ローソン原案の文字のない絵本『おはなをあげる』(ポプラ社)で、カナダ総督文学賞(児童書部門)、ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞など、さまざまな賞を受賞する。海辺の炭鉱のまちのいちにちを描いた『うみべのまちで』(BL出版)で、2018年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞。2児の父。家族とともにトロントに在住。
この書籍を作った人
1957年生まれ。東京外国語大学卒業。長編の翻訳に『弟の戦争』『ハーレムの闘う本屋』『ペーパーボーイ』『コピーボーイ』『ヒトラーと暮らした少年』『夢見る人』、絵本の翻訳に『夜のあいだに』『セント・ギルダの子』などがある。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。