長年、子どもの本を出版している、出版社の周年をお祝いする連載。今回ご紹介するのは、2024年8月5日に50周年を迎える、BL出版さんです。『アンジュール』や『ぞうのエルマー』など一度出会ったら忘れられないロングセラーをはじめ、いまいあやのさんの『ベルナルさんのぼうし』やジュリー・モースタッドの『きょうがはじまる』など深く印象に残る作品を出版しています。
50周年を迎える8月5日からは「お好きなBL出版の作品」をなんでも一冊プレゼントという豪華企画も開催されます。
出版社からの内容紹介
ある日、犬は、野の道を疾走する車の窓から投げすてられる。
にわか野良になった犬のその日の長いさすらいをたどって描く。目を吸いよせて離さない50を超える犬の姿態と表情はすぐれたデッサンにより酷いばかりの迫真である。
あるいはひとりに秘めておきたい絵と思い、誰かに見せずにはいられなくなる作品でもある。
【担当編集者より】
『アンジュール』が日本で出版されるきっかけとなったのは、会社の棚にひっそりとささっていた原書を見つけたことでした。デッサンだけで描かれ、文字のない『アンジュール』は、当時社内では、日本での出版は難しいだろうと言われていました。
しかし、輸入本という入手が難しく高価なものではなく、邦訳出版という手に取りやすい形で読者に届けたいということ、また、書店員の方々に後押しや応援をいただいたこともあり、邦訳出版が決定。1ヵ月もたたないうちに2刷の重版となりました。「アンジュール」は犬の名前だと思われている方が多いのですが、実はフランス語で「ある日」や「ある一日」という意味の言葉です。原題は“Un jour, un chien”(英題“A day, a dog”)。そのままの意味で日本語に訳してしまうよりもおもしろいのでは、とフランス語の響きを生かしたタイトルとなりました。
出版社からの内容紹介
浜辺に打ち上げられた一台の古いカメラ。ひろった少年が中のフィルムを現像してみると、そこには驚くような世界がうつっていた……。ウィーズナーのリアルで精緻な描写で表現された、文字のない絵本。 2007年コールデコット賞受賞作です。
【担当編集者より】
当初は海に流れ着くもの=ゴミという印象も強かったように思いますが、この絵本がそうした言葉のマイナスイメージをふきとばしてくれました。タイトルの文字など、原書のこだわりをできるだけ再現するように努めました。見返しは砂を思わせる特殊紙を使っています。絵本を手にしたらぜひカバーをはずしてみてください。無地の表紙にタコを型押しした贅沢な作りになっています。
みどころ
「みえる、みえる。
おにいちゃんがみえる。」
おへそのあなから外を覗いているのは、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃん! 今はまだ生まれる前の、小さな小さな赤ちゃん。だから見える景色はさかさまです。
お兄ちゃんやお姉ちゃん、お母さんやお父さん。おばあちゃんおじいちゃんも、みんながそれぞれ心待ちにしている新しい家族。その様子をおへそのあなから見て、においをかいで、いろんな声を聴いて。そうして安心しながら「その日」を待つのです。
「さあ、おいでおいで。
生まれておいで。」
赤ちゃんが生まれるって、どういうこと? 新しい家族を迎えるってどんな感じ? お腹の中にいる赤ちゃんに、私たちの声は聞こえているの?……命の誕生にまつわるさまざまな気持ちを優しく包んでくれるこの絵本。お兄ちゃんお姉ちゃんになる子にも、今では大きくなったあの子にとっても。きっと何かを感じとってくれる温かなお話です。
そして、何より心に深く響く最後の一言。絵本をとじるたびに、大人はその感動を心にそっとしまい込むのでしょう。
【編集部員のいちおし】
お母さんのおへそのあなから、赤ちゃんがおなかのそとを見ています。さかさまの世界にうつっているのは、赤ちゃんが生まれてくるのを楽しみにしている家族の様子。望み望まれ、赤ちゃんが生まれてくるまでの家族を描いています。読者の方から特に反応が多いのは、「あした、うまれていくからね」というさいごのシーン。赤ちゃんが生まれるご家庭にプレゼントなどで贈られることも多く、これから生まれてくるお子さんを思って、読んでくださる方が多いようです。また、絵本では、お兄ちゃんとお姉ちゃんが、生まれてくるきょうだいに心を寄せるシーンも描かれています。お兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に読みました、というご両親からのお声も多く、この絵本を読んで、赤ちゃんってどんな存在なのかな、とご家族で考えるきっかけにしていただいているようです。私も、個人的に大好きな作品です。
みどころ
体中、あふれるばかりの色でいっぱいのエルマーはジャングルの人気者。自分だけまわりと違うことに悩み、なんとか同じになろうと試みます。違っていることが個性であり魅力であることに気づかず、まわりに同化しようとするエルマーの姿はちょっぴり悲哀的。けれども、本来の明るい性格が仲間たちとの融合を招き、みんなで一緒に「違い」をお祝いする「エルマー記念日」がお話の最後を飾ります。お互いがお互いを認め合い、楽しく晴れやかな気分でお祭りのパレードするぞうたちの姿には、個性の尊重が象徴されているとも言えるでしょう。
カラフルなエルマーは、小さな子供たちの人気者になること間違いなし。いろいろな模様の、いろいろな色のぞうが登場する「エルマー記念日」。これを祝うぞうたちの表情がすてきです。
――(ブラウンあすか)
【担当編集者より】
パッチワークみたいにカラフルなぞう、エルマー。エルマーが活躍するお話は、世界中の子どもたちから愛されています。1巻目の『ぞうのエルマー』は、みんなと体の色がちがうことに悩んだエルマーが、同じ色になろうとするお話です。「ほかの人と違っていても、同じでも、みんなオリジナルでみんなスペシャルな存在なんだよ。みんなが自分自身でありつづけてほしい」というデビッド・マッキーさんのメッセージがこめられています。
ほかにも、20冊以上のエルマーの絵本を出版していますが、どのお話もエルマーが仲間のために知恵をしぼり、みんなの力になったり、楽しませたりします。翻訳は、マッキーさんと親しくされていた絵本作家のきたむらさとしさん。「40年の付き合いのなかで、マッキーさんはいつもニコニコしていて、怒っているところ、ひとの悪口を言っているところを見たことがない」と、おっしゃいます。そして、想像力が豊かで、道を歩いていても即興でお話が出てくる人だったそうです。優しくて、ユーモアがあって、いたずら好きで、ひとを幸せにする存在。エルマーは、まさにマッキーさんそのものだと思います。
出版社からの内容紹介
お気に入りのぼうしを買おうとお店に入ったミリーですが、お金がありません。代わりにお店の人がくれたのは想像のぼうしでした。
ミリーは次から次へといろんな想像のぼうしをかぶって街を歩きます。
そして、ミリーの目にうつる人々の頭にも……。
子どもたちの想像力を刺激する、楽しい絵本。
【担当編集者より】
教科書(光村図書・小学2年)にも掲載されている作品です。想像する楽しさをたっぷりと味わわせてくれます。このお話を読んでくださった大人の方からよくいただくのが「お金をもっていないミリーに対して、ミリーの気持ちを大切にし、ユーモアで優しくこたえた帽子屋さん。こんな大人でいたい」という感想です。以前、このお話を読んだ北海道の小学校の2年生の子どもたちから、作者のきたむらさとしさんに「ミリーのぼうしは、ほんとうのぼうしですか? うそのぼうしですか?」という質問が寄せられました。きたむらさんがどんなふうに答えたか、弊社のnote に掲載していますので、ぜひ見てください。きたむらさんの答えに、帽子屋さんと同じ誠実さとあたたかさを感じます。
出版社からの内容紹介
旅行にいくことにしたつよしとけんた。地面に穴をほって、地球の裏側にいってみよう。
めざすはアメリカ! ほって、ほって、着いたところは…。
各ページの絵と文に角度がついていて、少しずつ回転させながら読んでいく構成。
日本を出発したときには縦書きだった文章も、アメリカに着くころには横書きに。
子どもたちの冒険心をくすぐる、ウルトラ・ナンセンス・アドベンチャー絵本です。
【担当編集者より】
「日本語には縦書きと横書きがある」という特徴を活かしてできたこの作品。はじまりは縦書きで、物語が左へ左へと進行しますが、穴をほるところから画面が少しずつかたむきはじめます。掘り進めるにしたがってどんどん傾いていく画面。アメリカについたところで、なんと180度回転! すると今度は文章が英語(横書き)に。物語は右へ右へと進んでいくというしかけです。
この絵本には川端さんの遊び心がたくさんつまってます。日本側の庭に絵本『うえきばちです』の「うえきばち」があるのにお気づきでしょうか。アメリカ側には『うえきばちです』に出てきたジョウロが埋まっています。日本側の飼い犬がバーニーズマウンテンドッグで、アメリカ側では柴犬と、和犬と洋犬が逆なのも面白いですね。地中に埋まっているものも、地底人やUFO、恐竜の骨など、見つけて楽しいものばかり。チリの落盤事故(2010年)のときに33人の鉱山作業員の救出に使われた救出カプセル「フェニックス」も描かれています。事故が起きたのが8月5日。8月24日に制作されたラフにこのフェニックスが描かれていました。もしひとりでも犠牲者が出たら、この絵は無し、とお伝えしていたところ、10月13日に全員が救出されたとのニュース。「みんな助かってよかったー!」と本当にうれしかったのを覚えています。
みどころ
「さあ、おきる じかん!
きょうは なにを しようかな。」
こんな風に始まる日は楽しいに決まってる。
だって、なんだって自由に選べるんだから。
まずは着る服を選ばなきゃ。
セーター、ドレス、きもの、オーバーオール、水着、しましまタイツ、パジャマ(!?)、それとも…羽根?
髪型はどうする?
おかっぱ、みつあみ、まじめ風、ハードモヒカン、それとも…伸ばしっぱなし?
準備が整ったら、今度は朝ごはん。
朝ごはんだって自由だよ。何をたべようかな。
ああ、楽しい。
さて、これからどこに行こう? どうやって行こう?
どんな一日にしよう!
朝の目覚めから、夜眠りにつくまで。
自分で選んで、考えて、好きなように過ごす一日。
毎日おとずれる、わたしの新しい一日が、
こんなにも色んな可能性を秘めているなんて。
絵本の中には、たくさんの選択肢が、素敵な絵と言葉で散りばめられていて、子どもたちの想像する世界をどんどん広げてくれます。カナダ在住の注目の絵本作家ジュリー・モースタッドが、子どもたちの探求心もオシャレ心も突いてくれます。だから、着た事のない服にだって、やったことのない遊びにだって挑戦できちゃうのです。みんながみんな、自分だけの違う一日を過ごせるのです。
「今日が終われば…また明日!」
明日が待ち遠しい、そんな気持ちの子どもたちが増えますように。
【担当編集者より】
原書を見たとたん、各ページのこまごましたモチーフにすっかり魅せられ、「ぜひやりたい!」と直感した一冊です。訳は詩人でもある石津ちひろさん。髪型のページは石津さんの行きつけの美容院のスタイリストさんに相談したそうです。もちろん、ちゃんとした名前のついたヘアスタイルもありますが、なかにはプロでもわからないものも。英語の原文もあいまいで、もう見たままで名前を考えるしかないと、なじみのスタイリストさんと和気あいあいと決められたそうです。また、草花のページに登場するルドベキアやコーンフラワーの花は、制作時に初めて聞いた名前でしたが、最近になって、お花屋さんで見かけるようになりました。実物を最初に見たときは「あっ、これね!」とうれしかったです。制作段階では、少々字が小さいかな…と思いましたが、実際に本が出来上がってみたら、むしろこの文字の大きさがとてもふさわしく感じられました。表紙の描き文字の雰囲気といい、装幀デザイナーの中嶋香織さんのセンスが活きる一冊だと思います。
みどころ
チーターってかっこいいですよね。
世界一速いと言われる足で、サバンナを駆けるしなやかな体。
そう、チーターは、その体のてんてん模様が自慢なんです。
いつもより何だか寒い日のこと。
ぴゅーっと吹いた冷たい風に、思わず体をぶるるるっとふるわせたチーターは、はなをひくひく……。
「ハーックション!」
大きなくしゃみが出たとたん、チーター自慢のてんてん模様も、体から飛び出してしまったのです。
どこへ行ったかというと、まずシマウマ。
白黒のシマ模様なのに、さらに黒いてんてんが付いたら、わけがわかりませんよね。
これってシマウマ、いや、てんてんシマウマ……?
ところが黒いてんてんはまたもやくしゃみに飛ばされて、こんどはもっと大きな体の動物に!
てんてんがあっちに行ったり、こっちに行ったり。
広い空と大地で、ひらひらと舞うてんてん。
チーターのてんてんは一体どうなるのでしょうか!?
作者のみやけまゆさんは、保育士として子どもたちと過ごしながら絵本制作を始めたそうで、これがデビュー作。
動物の姿をうまくとらえつつ、愛嬌がにじむ絵、にやっと笑えるオチが素敵です。
ちなみにわが家の5歳児は、「あのー、くしゃみを……」と弱気にお願いするチーターと、動物たちのくしゃみの音に大笑い。
「グァーックチュン!だって」と真似していました。
読み聞かせのときは、くしゃみの音にメリハリをつけて、思いっきり読むのもおすすめ。
ユーモラスなおはなしを親子で楽しんでくださいね。
【担当編集者より】
作者のみやけゆまさんとの出会いは、『チーターじまんのてんてんは』が出版されるよりもかなり前のこと。絵本の前身となる作品を見せてもらいました。おはなしは、みやけさんが働く保育園で子どもたちと一緒に読んでみたり、反応を見てこういう流れにしよう、と変更したり、構成の変更もたくさんありました。絵本の最後、チーターが読者に語りかけるシーンは、最後までどうするか悩んだシーン。「岩が何か話す」などいろいろな案が出ましたが、いまの結末に決まりました。みやけさんと悩みに悩んだかいあって、子どもたちや読者の方々からの反響がいちばん多いシーンとなりました。絵にもみやけさんの遊び心が! 表紙からずっと、ハート形のてんてんがどこかに隠れているんですよ。ぜひ探してみてくださいね。
みどころ
「ちいさな その手を のばしてごらん。
ちいさな その手と わたしの この手を つないで いっしょに でかけてみよう。」
花の咲く林の中、雪の中、夏の海岸、秋の夕暮れ。
ページごとに、移り変わる季節が描かれ、
どのページでも、大きいねずみと小さいねずみが手をつないで寄り添っています。
並んで歩き、同じ景色を眺めて見つめう2匹。
全編語りかけるような言葉で紡がれますが、
作品を通して「あるいていこう」「たのしもう」「〜しよう」といった前向きで希望に満ちた言葉が散りばめられていることに気がつきます。
雨降りや、凍える冬のページでも、
「だいじょうぶ」「あんしん」「しんぱいないよ」といった言葉に、ふたりが一緒にいる安心感やあたたかさが際立ちます。
「手と手をつなげば いつも しあわせ。」
大切な人と過ごす時間に、ぜひ声に出して読みたい一冊。
親子や家族、パートナーと本を開けば、
疲れたときや心細いときでも、美しい絵と言葉が、優しい気持ちで包んでくれることでしょう。
おやすみの絵本としてもおすすめです。
ギフトにもぴったりですね。
【担当編集者より】
この作品は、日本語もそうですが、原文の英語も、韻を踏んでいて、ほぼ詩にちかいものでした。三原さんも、何度も何度も推敲を繰り返してくださいました。そのかいあって、こうして広く読まれる絵本となりました。全体を通してただよう安心感がロングセラーの秘密になっていると思います。
みどころ
くまのベルナルさんには、友だちがいません。いっしょにくらす家族もなく、いつもひとりぼっち。
でもベルナルさんは、「だれにもうるさくかまわれることにないくらしは、気楽でいい」とへいきです。
ある日、ベルナルさんのお気に入りのぼうしに、キツツキが穴をあけます。
巣をつくって住みついてしまった鳥に「今すぐ出ていってくれよ!」といいますが、動きません。
それどころか、ぼうしの穴はふえ、鳥たちはふえる一方。
ふしぎなことに、ベルナルさんのぼうしもどんどん高くなっていって・・・?
繊細なタッチのかわいらしい絵と、こころあたたまるストーリー。
ぼうしの穴から、くちばしや羽根をのぞかせるカラフルな鳥たちの愛らしさといったら、もうそれだけで気持ちがなごんでしまいます。
ほら、カップをもってちょっぴり頬を染めたベルナルさんと小鳥たち(表紙と中ページにもある絵)、すてきでしょう?
作者の今井彩乃さんは1980年ロンドン生まれ。ボローニャ国際絵本原画展にいくども入選し、『くつやのねこ』など絵本作品を発表。ストーリー性のある繊細な絵が高く評価される、注目の作家さんです。
ベルナルさんのぼうしはどうなってしまうのか。
鳥たちはいつかベルナルさんのもとを去るのでしょうか?
個人的には、夏のおわりに、ベルナルさんが鳥たちと浜辺へ出かけるときの絵が大好きです。
みなさんもお気に入りの絵をみつけてくださいね。
そして、秋から冬をこえ、春をむかえたベルナルさんのぼうしの姿も・・・お楽しみに!
【担当編集者より】
まず海外で出版されて、そのあと逆輸入のような形で日本語版を出版することが多いいまいあやのさんの作品。この作品も同様で原書のタイトルは”While He was Sleeping…”(彼が眠っていた間に…)だったんですが、本文中に使われていた、「帽子の中に鳥たちが住みつくようになって、迷惑なような嬉しいような主人公のとまどいが伝わってくる絵」を表紙にしたいと思いました。いまいさんも気に入ってくださったようで、タイトルも絵に合わせて変えてくださいました。
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