人気コンビがおくる、新作クリスマス絵本
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インタビュー
2024.08.08
8月8日は「妖怪の日」。からかさおばけ、ひとつめこぞう、さとり、びわぼくぼくなど、広瀬克也さんの「妖怪シリーズ」(絵本館)には、有名どころからマイナーなものまで、さまざまな妖怪が続々と登場します。シリーズ1作目の『妖怪横丁』は、お母さんにおつかいを頼まれた男の子が、妖怪たちの営む商店街に迷い込むお話。知っている妖怪はどれだけいるかな? 夏休みにシリーズを読破してみるのもおすすめです。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」より、作者の広瀬さんのインタビューを紹介します。
(インタビュー:加治佐志津、写真:有村蓮)
この人にインタビューしました
僕にとって、絵本をつくるということは「あ!いいな」の気分が形にできるかどうかということです。だから、きょうも「いい気分」を探しています。1955年東京生まれ。セツ・モードセミナー研究科卒。グラフィック・デザイナー、イラストレーター。初の絵本作品は『おとうさんびっくり』(絵本館)。他に月刊漫画「ガロ」に描いた漫画を絵本化した『さがしものはネコ』(架空社)、主婦の友あかちゃんえほんシリーズ『みつけたよ!』『まあだだよ!』(主婦の友社)、『ばけれんぼ』(PHP研究所)、『まよなかのほいくえん』(いとうみく/文 WEB出版)、妖怪絵本シリーズ『妖怪横丁』『妖怪遊園地』『妖怪温泉』『妖怪食堂』(絵本館)など。
――シリーズ1作目『妖怪横丁』はどんなきっかけで作られたのでしょうか。
『妖怪横丁』誕生のきっかけとなったのは、挿絵を担当した『日本の妖怪大図鑑』(ミネルヴァ書房)です。「家の妖怪」「山の妖怪」「海の妖怪」の全3巻で、たくさんの妖怪のイラストを描きました。その仕事をしているうちに、小学生の頃の記憶がよみがえってきたんですよ。水木しげるさんの初期の作品に心惹かれたこととか、怪奇もののテレビ番組が大好きだったこととか。当時は怪奇ものがブームでしたからね。その後、絵本館の編集長の有川裕俊さんから「妖怪で創作絵本を作ろうよ」と声をかけてもらって、『妖怪横丁』に取りかかることになりました。
妖怪ばかりの商店街を舞台にしよう、というアイデアはわりと早い段階で思いつきました。いろんなお店を妖怪バージョンで描いていくわけですけど、リアリティが必要だと思い、まずは撮影に出かけました。青山とか六本木みたいなおしゃれなところじゃなくて、昔ながらの商店街の懐かしい雰囲気を持っている店の写真をたくさん撮り、そこからアレンジして描いていきました。
だから『妖怪横丁』に出てくるお店は、実在するお店がモデルになっているものが多いんです。「からかさおもちゃ店」は、近所の商店街にあるおもちゃ屋さんで、「こども服のはなこさん」は隣町の子供服屋さん、「ロクロックビ楽器店」は最寄り駅そばの楽器屋さん。おかげで描き上げるのに結構時間がかかってしまいましたが、有川さんが「妥協しないでとことんやろう」と言ってくれたので、じっくり取り組むことができました。
―― 「おとうふ おねがいね」「おや、みかけないこがやってきたよ」「ぼうや、おひとついかが?」など、文章は各見開きに一文程度とかなり短いです。一方で絵の中には、たとえば「たぬき銀行」の看板には「たしかな信用と実績」のキャッチコピー、「はらづつみキャンペーン あずけよう! ポンポン」のポスター、「お知らせ まもなくキツネ銀行と合併」の旗、と情報がてんこもりです。
絵を読んで、楽しんでほしいですね。『妖怪横丁』はラフの段階でかなり描き込んだので、本描きに入ってテンションが低くならないようにと、さらに描き込んでいきました。隅々まで見て面白がってもらえたらうれしいです。
「やまんば産婦人科」の「安心の経験と実績!」とか、看板などには漢字もかなり使っているんですが、ルビは特に振っていません。そういう部分は大人が読んで楽しむだけでもいいし、子どもだって何度も読むうちに、読めるようになってきますから。このシリーズは小さい子どもだけでなく、小学生や大人、さらには年配の方からも結構面白いと言っていただいているんですよ。たっぷり描き込んだ甲斐あって、読み聞かせしてもらったり、ひとりでじっくり見たり、誰かと一緒に読んだりと、長く付き合ってもらいたいですね。
妖怪以外の登場人物として、おっとりとした感じの男の子が登場するんですが、この子はいわば、読者を妖怪の世界に誘うナビゲーターです。この子のお父さんが化け忍者ということは、3作目の『妖怪温泉』で明かしたんですが、お母さんは手しか出していません。じゃあ男の子の正体はいったい……? とよく聞かれるんですけど、いまだに出し惜しみしていて(笑)。自分の中では一応の設定があるんですけど、今のところは皆さんのご想像にお任せしておきます。
―― 広瀬さんの絵本に登場する妖怪たちは愛嬌があります。楽し気だけど、どこか怪しい印象も漂う色合いは、20代の頃、花園神社で見た見世物小屋の雰囲気を意識したそうですね。
妖怪は幽霊と違って、怨念や恨みはあまり持っていないんですよね。古びて使われなくなった道具に宿る付喪神(つくもがみ)に代表されるように、使ってもらえなくなった寂しさみたいな気持ちがこもることはあるけれど、どちらかと言えば“いたずらっ子”みたいな印象が非常に強いんです。だから、最初はもっと怖く描こうと思っていたんですけど、自然と愛嬌が出てしまいました。あまり怖い感じにはならないんですよ。
これだけ妖怪をたくさん描いていると、みんなそれぞれに愛着が生まれてきます。子どもたちに人気なのは「みのわらじ」かな? 『妖怪遊園地』で男の子に落とし物を届けてくれた妖怪ですね。シリーズの中で最も版を重ねているのは『妖怪温泉』。入浴の心得とか温泉の効能とか、面白いネタをあれこれと考えて描き込んで、これはみんなも笑ってくれるぞ、なんて自分でも面白くて盛り上がったりしていました(笑)。
―― 中学時代は、横尾忠則さんや和田誠さん、宇野亜喜良さんらが手がける作品に魅せられて、イラストレーションやグラフィックデザインの仕事に憧れ、高校時代には、谷内こうたさんや長新太さんらの絵本を見て、絵本の魅力に取りつかれたそうですね。
ただ自分で作るとなると、そう簡単にはいかなくて。15画面ぐらいでひとつの世界を構築して、ストーリーの展開を意識しながらページを構成するわけですが、これがかなり難しいんですよ。だから長らくイラストレーターやグラフィックデザイナーとして活動していました。
デビュー作『おとうさんびっくり』(絵本館)が出版されたのは、30代後半のことです。原稿ができあがって一番に五味太郎さんに見ていただいたら、「いいね。どこか(出版社を)紹介しよう」と言ってくださったんです。なのに僕は「自分で回ってみます」なんて言っちゃった。若気というより馬鹿げのいたりです(笑)。どんな出版社があるのか知りたいっていうのもあったんですけどね。それでいろいろと出版社を回ったんですが、どこもだめでした。「おじさんが主人公では子どもが飛びつかない」とか、「もうちょっと年取ってから作ってみれば」とかいろいろ言われて、かなりへこみましたね(笑)。
でも「このままじゃあきらめきれない」と思って、クレヨンハウス絵本大賞に応募したら、優秀賞をいただいたんです。それを絵本館の有川さんが「うちで出そう」と言ってくれて、出版に至りました。ただその後は、なかなか思うように面白い絵本が作れなくて。ラフを描いても描いても、満足いくものができませんでした。それでしばらくは、デザインの仕事をしながらぽつぽつと絵本を作る、という感じでやってきました。
連続して絵本を出せるようになったのは、『妖怪横丁』以降です。その時点で、もう50歳を過ぎていたので、いつぞや言われた「もうちょっと年取ってから作ってみれば」というのもあながち間違っていなかったのかな、なんて(笑)。妖怪からパワーをもらったかな、と思ったりもしましたが、どうなんでしょうね。『妖怪横丁』でやっと絵本作家としてのスタート地点に立てた気がします。
みどころ
さぁさ、妖怪好きな子ども達はいらっしゃーい。
ろくろくびからこなきじじ、いったんもめんやくちさけおんな。
あの有名な妖怪達が総登場!あれ、でも何か雰囲気が楽しそうですよ。
「ロックロックビ楽器店」「ひとつ目メガネ時計店」「ざしきわらし不動産」。
そう、ここは妖怪横丁。妖怪たちが思いっきり生活を営んでいるのです。
まだまだありますよ、「やまんば産婦人科」「クラブゆきおんな」・・・なかなか勇気の必要な店構えも。
さて、そんなところに迷い込んだのは人間の子。無事に戻ってこれるのかな?
小さな子でも楽しめるとっても明るい(!)妖怪絵本。でもかなり見応えありますよ。表紙裏には名前もついています。
これをきっかけに興味を持ってしまいそうな、妖怪入門編としても活躍しそうですね。
この書籍を作った人
僕にとって、絵本をつくるということは「あ!いいな」の気分が形にできるかどうかということです。だから、きょうも「いい気分」を探しています。1955年東京生まれ。セツ・モードセミナー研究科卒。グラフィック・デザイナー、イラストレーター。初の絵本作品は『おとうさんびっくり』(絵本館)。他に月刊漫画「ガロ」に描いた漫画を絵本化した『さがしものはネコ』(架空社)、主婦の友あかちゃんえほんシリーズ『みつけたよ!』『まあだだよ!』(主婦の友社)、『ばけれんぼ』(PHP研究所)、『まよなかのほいくえん』(いとうみく/文 WEB出版)、妖怪絵本シリーズ『妖怪横丁』『妖怪遊園地』『妖怪温泉』『妖怪食堂』(絵本館)など。