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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  妖怪満載の絵本『花咲く川辺の怪異談』 大野隆介さんインタビュー

みなさん、妖怪はお好きですか? 妖怪のどんなところが好きですか? ユニークな見た目? 憎めない性格? いやいや、なんだかぞっとするような不気味なところ? 不気味でちょっぴり怖いけれど、すごく魅力的で目がそらせなくなる、そんな妖怪がページのあちらこちらから読者を見ている絵本、それが、大野隆介さんの「妖会録」シリーズです。

この度、シリーズ4作目となる『花咲く川辺の怪異談』が出版されました。妖怪絵本では珍しく春を感じる作品。そしてこの絵本の中にも河童や小豆洗い、魑魅(ちみ)、魍魎(もうりょう)など妖怪ファンの心をくすぐる妖怪たちがたくさん登場します。この作品がどのように生まれたのか、そして驚きの制作方法とは……? 作者の大野隆介さんにお話しを伺いました。

  • 花咲く川辺の怪異談

    出版社からの内容紹介

    川の奥に広がっていたのは、妖怪だらけの異様な世界!
    サトシは、無事にここを脱出できるのか?!

    岸辺の草むらの中で、サトシをにらみつけていたのは、なんとあの伝説の妖怪・河童でした!
    偶然のできごとで、どうやら河童を怒らせてしまったサトシ。
    河童はすばやくサトシの足をつかむと、そのまま川にひきずりこんでしまいました。
    たどりついたのは、妖怪だらけの異様な世界。
    サトシの奇妙な冒険がはじまります。

    本作は、NHK Eテレ「怖い絵本」放送の「ようかいろく」シリーズ(『夜の神社の森のなか』『雪ふる夜の奇妙な話』『月夜の晩のとおり雨』)の続編です。

「ようかいろく(妖会録)」シリーズ

この人にインタビューしました

大野 隆介

大野 隆介 (おおのりゅうすけ)

1970年、東京生まれ。グラフィックデザイナー。装丁家の辻村益朗氏に師事し、デザインを学ぶ。絵本、書籍などの装丁、デザインを数多く手がけている。『夜の神社の森のなか』(ロクリン社)は、第50回造本装幀コンクールで日本書籍出版協会理事長賞を受賞した。

春、夏、秋、冬…「妖会録」シリーズで季節を一巡しました

───絵本ナビのインタビューにご登場していただくのは、7年ぶりになります。2024年6月に出版された『花咲く川辺の怪異談』。「妖会録」シリーズ4冊目となりますが、この「妖会録」シリーズを作るきっかけは何だったのでしょうか?

僕の本業はデザイナーで、これまでたくさんのブックデザインを手掛けてきました。いろんな絵本と関わっていく中で、いつしか自分でも絵本を作ってみたいと思うようになったんです。ある時、ロクリン社の編集さんに初めて創作した絵本のラフを見せたのがきっかけです。

───その時のラフが、「ごめんなさい」と「ありがとう」ですね。この「ごめんなさい」は『花咲く川辺の怪異談』と設定がとてもよく似ていますね。

あーこれです、これ。今十数年ぶりこのラフを見ました! 編集さんがずっと保管してくれていたとは驚きました。細かなところは忘れていましたが、こうして見ると世界観は同じですね。きっと記憶のどこかに、ずっとこの場面は残っていたんだと思います。それにしても懐かしい。このラフから「妖会録」シリーズがはじまったので、とても感慨深いです。

───「妖会録」シリーズは、普通の子どもたちが何かのきっかけで妖怪の世界に迷い込んで、いろいろな妖怪たちと出会い、ちょっぴり怖い体験をして帰ってくるというおはなしですが、大野さんの中では絵本を作る前からこの物語の基礎は出来上がっていたんですね。

いえいえ、1冊目の『夜の神社の森のなか』からまさかシリーズになるなんて思ってもなかったので、当時は4冊の構想まではありませんでした。『夜の神社の森のなか』の評判が良くて増刷が決まり、そこから編集さんと話している中で、四季で展開するアイデアが生まれたんです。『夜の神社の森のなか』では、冒頭に4人の子どもたちを登場させています。主人公のケンジの他、3人の子どもたちがいることに気づき、それぞれの物語を作ることにしたんです。

『月夜の晩のとおり雨』に出てくる二人はタケルとシンペー。帽子の男の子が今回の『花咲く川辺の怪異談』のサトシです。『雪ふる夜の奇妙な話』の主人公はハナコという女の子ですが、ハナコはタケルのお姉ちゃんという設定にしました。

『夜の神社の森のなか』の1ページ。この子どもたちが各シリーズに登場します

───なるほど、子どもたちが住んでいる場所にはモデルがあるのですか?

僕が生まれ育ったのは東京都葛飾区。近くには江戸川という大きな川が流れていて、河川敷は犬の散歩に行ったり友だちと遊んだり、とてもなじみ深い場所でした。今回の『花咲く川辺の怪異談』の舞台は、その江戸川がモデルになっています。です。また、当時住んでいた家は200年前に建てられた古い日本家屋でした。『月夜の晩のとおり雨』の妖怪屋敷は、実家がモデルになっています。

───「妖会録」シリーズは、同じ地域に住んで、いつも一緒に遊んでいる4人が、それぞれ違うタイミングで妖怪の世界に迷い込んでいるんですね。子どもたちにはそれぞれモデルはいるのでしょうか?

明確なモデルはいないです。ただ、自分が今まで出会ってきた人たちの要素が少しずつ入っているような気はしています。

───ご自身に一番近いと感じる子はいますか?

『花咲く川辺の怪異談』の主人公・サトシですかね……。気弱な感じが近いかなと思います。

───「妖会録」シリーズの中には、毎回、様々な妖怪たちが描かれています。子どもたちが出会う妖怪は、常に変えていると伺いました。

はい、できるだけたくさんの妖怪を見てもらいので、そうしています。またシリーズのテーマが「四季」だったので、季節に見合った妖怪を登場させています。

───1作目の『夜の神社の森のなか』は夏ですね。『月夜の晩のとおり雨』は秋、『雪ふる夜の奇妙な話』は冬、そして今回の『花咲く川辺の怪異談』は春のお話になっていますね。普通に考えるとおばけや妖怪などは夏に活躍するイメージがありますが……。

日本は南北に長いから、気候や自然環境は様々です。四季があって、地形も富んでいて。そんな環境で生まれた妖怪たちですから、バリエーションも豊富ですね。怪談話が夏の風物詩のようになっていますが、実は他の季節ならではの妖怪もたくさんいるんです。雪山を舞台にした『雪ふる夜の奇妙な話』では雪女やかまいたち、コロポックルなど北の地域に多く伝承が残るものや、冬に関連する妖怪を登場させています。

───どの妖怪を登場させようか考えているときや妖怪を描くときに参考にしているものはどんなものがありますか?

一番参考にしているのは、やはり鳥山石燕の『画図百鬼夜行』ですね。自分が生まれたころに出版された本や地方の出版社から刊行されている本、妖怪が出てくる小説もけっこう読みました。もちろん、水木しげるさんがどう描いているかも必ずチェックします。

───前回、インタビューをさせていただいた時、妖怪の中には文字でしか伝承されていなくて、文字から想像して絵を描くこともあると教えていただきました。今回も文字でしか記録に残っていない妖怪は登場しますか?

今回はこの「たつくちなわ」です。文献に耳のある蛇っていうふうに出てくるので、単純にヘビに耳をつけただけですが…。あとはこの「おんぶおばけ」。かつては妖怪のアニメにも登場しているのですが、いろいろな姿かたちがあるんですよ。なので、今までにないフォルムにしたいと思いました。

───「たつくちなわ」のつぶらな瞳や、「おんぶおばけ」のひょっこり岩陰から覗いている姿は何とも味わいがありますね。

言葉だけで伝承された物を形にするのは、描いていてすごく楽しいです。想像するしかないですもんね。

おはなしのラストは、今までのシリーズと違った形にしたいと思いました

───新作『花咲く川辺の怪異談』について伺いたいと思います。前回の取材で、描きたい場面や登場させたい妖怪がいて、そこを起点におはなしを作っていくとおっしゃっていたのですが、今回も同じように物語を生み出していったのですか?

そうですね。今回は、まだ描いていない水にまつわる妖怪をと思った時、すぐに河童が頭に浮かびました。前にも言いましたけど、初めて絵本のラフを描いた時の河童と鬼は、ずっと頭の片隅に残っていたんだと思います。河童が登場する場面、ラフとそっくりになったのもそのせいだと思います。この場面が起点となって、物語を作っていきました。

───河川敷で野球をしていた少年たちのボールが遠くに飛んで行ってしまい、追いかけていったサトシが河童と出会うところから物語が始まります。河童とボールを取り合っていると、急に河童に川に引きずり込まれて、妖怪の世界に連れてこられたサトシ。妖怪の世界にやってくる展開は今までのシリーズと同様ですが、ボールが当たって割れてしまった河童の皿を元に戻すために薬を取りに行くという展開が新鮮でした。

言われてみれば、物語の展開も最初に作ったラフと似ているかもしれません。さっき再会するまで、あの時のラフはすっかり忘れていたはずなのに、ずっと頭の隅に残っていたんですね。改めて見て、今少し驚いています。

───薬を探すためにどんどん奥に進んでいくサトシ、そこで「小豆洗い」や「魑魅」「魍魎」と出会います。よーく見ると、会話をしていないだけでいろいろな妖怪たちがサトシの周りにいることが分かりますね。ここで先ほどお話に出た「くさびらがみ」や「たつくちなわ」も出てくるのですが、サトシは気づきません。どんな妖怪が出てきたかは、一番後ろに紹介されているだけなんですよね。

名前と妖怪の説明を、文章だけで紹介しています。本当はここに妖怪のイラストを入れると親切だと思うのですが、ここはあえて文字だけにしています。絵本を行きつ戻りつして、その妖怪がどこにいるか、場面の中から探してもらいたいと思いました。さっきの「伝承だけで想像して描く」という話にもつながりますが、まずは説明文から妖怪の姿を想像し、場面のイラストで確かめる、その作業が面白いと思ったのです。

───サトシが魑魅と魍魎としりとりをするところが、ちょっと怖いんだけどユーモアがあって面白かったです。

その部分、結構苦労しました。「言葉あそび」なので、表面的にはとても穏やかで、のほほんとしたムードです。でもところがどっこい、相手は妖怪です。サトシの呑気な回答に対し、妖怪どもの回答は不穏な言葉や料理、調理に関するものばかり。結果しりとりはサトシが勝つのですが、「人間、勝ってよかったな」と妖怪がボソリと呟きます。もし負けてしまっていたら、もしかしてサトシは妖怪の餌食になってしまっていたかもしれません。この怪しげなやり取り、ぜひ見てほしい場面です。

───シリーズ全編を通して、妖怪たちは意外と約束や決まりごとは守っているんですよね。今回のしりとりも負けたら素直にあきらめて、サトシに道を教えてあげるという優しさも見せているところが、なんというか人間味があるなぁと思いました。

第一印象で「怖そう」と思っても、話してみたら意外と優しい人だったということって、日常生活の中でもあったりしますよね。外見だけでは本質的なところはわからないよ、ということも感じてもらえたらうれしいです。

───この後、洞穴で出会う鬼も、最初のインパクトはすごくありますが、走り方などにクスっと笑える部分があって、きっと根っからの悪者ではないんだなと絵を見ると気づきますね。

妖怪たちを、ただ怖いだけのものとしては描きたくないんですよね。ちょっと可笑しみがあったり、どことなく間が抜けていたり、人間味がある存在というか。そういう魅力を妖怪たちに持たせ、いつも表現しています。妖怪好きなので、絵を描くとなれば特に妖怪には力が入ってしまい、時には「怖すぎる」と言われてしまうことがあります。でも、僕が表現したいのはこうした少し変わった妖怪たちの姿なので、物語は決して怖いものではなく、むしろ笑いのあるどこかずっこけた世界観になっています。

───シリーズのほかの作品同様、妖怪の世界からなんとか戻ってきたサトシ。でも、今回のラストはシリーズの中でも少し変わっていますよね。

そうですね。今までの3作でも妖怪と主人公たちはコミュニケーションは取っていたけれど、あまり深く関わってはいませんでした。今回はおはなしの流れの中で今までよりも関係性を深めたいなと思い、あのラストを描きました。

シリーズで一番、原画を手描きで描きました!

───これまでシリーズ四作品を描いてきて、特に大変だった作品はどれですか?

今回の『花咲く川辺の怪異談』が断トツで大変でしたね。おはなし作りの面では、最初に作った『夜の神社の森のなか』も同じくらい苦労しましたが、今回は手描きの部分を多くしたので……。

───前回の取材で制作の様子を見させていただきましたが、その時はたしか、手描きで描いたものをパソコンに取り込んで、完成させていくという作り方だったと思います。

パーツごとに描いたものをパソコン上でデザインしていくというのが、工程として一番時間がかかる部分だったんですけど、作品を重ねるごとに手描きの部分が増えていきました。今回はほとんどが手描きです。

───手描きで描いて、さらにパソコンでデジタル処理もされているんですよね。

はい。原画は鉛筆で描いているのですが、やはり濃淡がそこまでうまく出ないんです。パソコンでコントラストなどをつけて、絵に奥行きが出るようにしました。

───原画でも妖怪の世界の怪しい雰囲気は感じられますが、デジタルでコントラストを加えることで、さらにインパクトのあるページになっていることが分かります。特にこの鬼の見開きの迫力はすごいですね!

ありがとうございます。

───原画を描いてから、デジタルで仕上げることのメリットには、コントラストが増す以外にどんなことがありますか?

実は、タイトルが決まったのが原画をかなり描き進めてからだったんです。それまでは絵の中に花をあまり描いていませんでした。タイトルが「花咲く」となったので、慌てて追加した次第です。季節感を強調するためにも、花はたくさんないとダメですしね。

───たしかに、原画には花がほとんど描かれていないですね。教えていただくまで全く気づきませんでした。

絵を描く作業の後半は、ほとんど花ばかり描いていました……(笑)。

───完成するまでにどのくらい時間がかかりましたか?

日中は基本的にデザインの仕事をしているので、絵は夜に描くことが多いんです。『花咲く川辺の怪異談』は半年くらいかかったんじゃないかと思います。

───半年も! すごく長い期間をかけて描かれているんですね。絵を描くときは最初のページから描いていくのですか?

バラバラです。僕はまず大変なところから描いていきます。それから徐々に描きこみの少ないところへ移っていきます。その方が後半に楽しみがあるような気がするんですよね。そして、描き終わった原画はその都度、編集者さんに見てもらって、気になるところを指摘してもらいながら修正しました。

───原画を描いて、修正して……を繰り返して、この絵が完成していったのですね。

そうです。それと、これは印刷の話になるのですが、モノクロの絵を単にスミ(黒インク)一色で印刷すると、コピー機で刷ったみたいにのっぺりした感じになってしまうんです。そこで「ダブルトーン」という印刷技法を使うことにしました。見た目はモノクロですが、実際はスミ(黒インク)と特色(それ専用に練って作る色のインク)の2色で印刷されているのです。こうすることによって、深みが増すというか特別な雰囲気を醸し出すことができるのです。長岡市(新潟県)の印刷所に行って、製版の担当さんとよく話し、特色の色やコントラストの調整などを一緒に決めました。

「妖怪図鑑」を作って、まだ登場させていない妖怪を描きたいです

───先ほど、「妖会録」シリーズは『花咲く川辺の怪異談』で四季を一巡したと伺いました。これから大野さんはどんな作品を作っていきたいですか?

「妖会録」シリーズとして4冊作っていく中で、たくさんの妖怪を登場させることができました。でも、妖怪はまだまだ描き切れないくらいいて、絵本4冊を通してもまだ一部しか登場させられていないと思っています。描いてみたい妖怪がまだまだたくさんいるので、次は見応えのある「妖怪図鑑」を作ってみたいです。

───大野さんの絵で妖怪図鑑! とても興味があります。まだ描いていない妖怪の中で、特に気になっている妖怪はいるのですか?

「鵺(ぬえ)」です。

───「鵺」はサルの顔、タヌキの胴体、トラの足とヘビの尻尾を持つといわれる妖怪ですね。

鵺は最初に作った絵本ラフから登場している妖怪なのですが、なかなか「妖怪録」シリーズに登場させることができず、ずっと眠ったままになっています。そういうまだ出てきていない妖怪も含めて、妖怪たちのバックボーンが分かるような妖怪図鑑を作りたいです。

───大野さんの「妖怪図鑑」が完成した暁には、ぜひまた妖怪談義を伺いたいと思います。最後に『花咲く川辺の怪異談』をどのように楽しんでほしいか、メッセージをいただけますか。

妖怪の話は昔ばなしが多いのですが、「妖会録」シリーズは現代の設定なので、身近に起こり得る話と感じてもらえるとうれしいです。 主人公と一緒に、今まで自分が知らなかった場所や、出会ったことがない不思議なものにどんどん出会える。冒険心をもって絵本の中に入って、ハラハラドキドキしてもらいたいです。

あとはこのシリーズはあえてモノクロ、先ほどお伝えしましたが「ダブルトーン」で色の深みや濃淡を感じるように表現しています。カラーにしなかったのは、モノクロだから想像できる部分を残したかったからなんです。妖怪の世界に咲いている花は何色かな? この水は僕たちが見ている水と同じ色なのかな……と、いくらでも想像力を膨らませることができる。読者に暗闇で目を凝らしているような感覚を持って、絵本を読んでほしいなと思います。

───いろいろお話を伺わせていただき、ありがとうございました。

取材・文/木村春子

撮影/所靖子

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