デビュー作『りんごかもしれない』でその年の絵本賞を総なめにし、『もうぬげない』でボローニャ・ラガッツィ賞受賞、『このあと どうしちゃおう』では「死」について描くなど、話題作を発表しつづける絵本作家、ヨシタケシンスケさん(3冊ともブロンズ新社)。
最新作『こねて のばして』(ブロンズ新社)は、“ヨシタケ史上いちばん短くて読みやすい!” 親子で楽しめるスキンシップ絵本です。いったいどんな作品なのでしょうか。初育児イラストエッセイ『ヨチヨチ父』(赤ちゃんとママ社)ではパパの顔も見せてくださっているヨシタケさん。親子に向けてどんな思いでこの本を作ったのかを伺いました。
ヨシタケさん独特の控えめなあたたかさが伝わってくるインタビューとなりました。どうぞお楽しみください。
●ヨシタケシンスケのこんな絵本見たことない!
───ヨシタケシンスケさんの作品といえば、『りんごかもしれない』『ぼくのニセモノをつくるには』などの発想絵本や、こまかい絵のイラスト集がまず思い浮かびます。どれも面白くて、すごく読みごたえがありますね。
そうですね。『もうぬげない』は別ですが、それ以外のぼくの絵本って、絵や文字があちこちに描いてあるから、読み聞かせにあまり向かないんですよ。ぼくが描きたいように描くと“読む人が1人で好きなように楽しむ絵本”になるから(笑)。でも、今回はちょっとちがう “読み聞かせ向きの絵本”を作ってみようかなと思いました。
───♪こねて、のばして、またこねて~♪ 言葉のリズムが気持ちいい! これまでのヨシタケさんの作品ではあまり見たことがない、ファーストブックになりそうなくらいの絵本ですね。何かきっかけがあったのですか?
4年くらい前でしょうか。ぼくがメモ用に使っている、いつものスケジュール帳に描きとめたスケッチを編集者の沖本さんに見せたら気に入ってくださって。これが『こねて のばして』の元になるスケッチです。自分もすごく気に入っていたので、お互いに「いつか絵本にしたいですね」と話していました。
元になったスケッチのコピー
こねてのばして、ほめて、おんぶして、しかって、だっこして…。
───かわいい! ほめて、おんぶして、しかって、だっこして…。きざんで、けんかして、というのもあります(笑)。
子どもがパンの生地みたいなものを、ただ、こねたり、おんぶしたりしているだけのスケッチなのですが、このシンプルな感じがいいなと思っていました。
ちょうど「次にどんな絵本を作りましょうか」と編集者の沖本さんと話したとき、当時刊行した『このあと どうしちゃおう』がシリアスなテーマだったこともあって、シンプルで読みやすいものを作ってみたいなと思ったんですよね。
そうしたら彼女も前に見せたスケッチを覚えていて、「今まで作ったことのない感じだし、絵本にできたらいいですね」と。それで具体的に描きはじめました。
───元のスケッチは、何かからインスピレーションを受けたのですか?
あるスーパーの入り口に通りかかるたびに気になる看板の写真がありました。ふくらんだパン生地の真ん中に、ロールバーをむぎゅっと押し当てて、生地をのばそうとする「まさにその瞬間」の写真です。むにゅ~っといじめてるみたいな感じがかわいくて、見るたびに「やわらかそうだなあ…」と思っていました。
やわらかいものってさわりたくなるし、さわっているだけで気持ちいいですよね。「さわりたくなるよね~」「気持ちいいよね~」という感覚からスタートして描いたスケッチです。
───たしかに、あのふわふわ、もちもちした気持よさはたまらないですね。
パン生地って、こねて放っておくと、自分で発酵して、勝手に膨れていくじゃないですか。けなげで生き物っぽい感じがしませんか。ぷく~っと膨れてきた弾力があるものを、むにゅ~っと押してみたくなる感じ…。子どもはきっと好きだろうなあと。正体がわからなくてもつついてみたくなるし、さわってみたくなるんじゃないかなと。
───絵本ではつついてさわるだけじゃなく、いすに座らせたり、一緒におどったりしています(笑)。
たとえば、ちっちゃい子が、ぬいぐるみにお布団をかけてあげるのは、布のかたまりではなく生き物として大切に扱っているわけですよね。その子には無機物とか有機物の区別はない。こねて、楽しかったら、子どもにとっては生地がだんだん友だちみたいに思えてくるだろうし、自分がいすに座ったら、その子(生地)も座らせようとするだろうなと。調子にのってポンポン飛び跳ねてはじけちゃったら、「ごめんなさい」ってあやまるだろうなと。
この子が生地を大切にしていることが、だんだん命を宿す理由にもなっていくんですよ。
───そうだったのですね。はじめは「何をこねているんだろう」とわからなくて、何かできていくのかな?と思っていると…だんだん「あれ?」「生きてる?」と思うようになって…。最後は大笑いしちゃいました!
最初は「モノ」としてこねているけど、敬意を払っていることで、徐々に命が宿っていくんです。いすに座らせたりあやまったりしている場面は、最後につながる伏線だったんですね。
───なるほど…!
おおもとは、パン生地みたいにやわらかいものの弾力を、場面から感じられるような絵本を作れたらいいなあ…というのが本書のきっかけです。
でも制作を進めるうちに、「さわることの面白さ」や「気持ちよさ」から、だんだん「親子でスキンシップを楽しめる絵本」へと、テーマがはっきりしてきました。読みながら子どもをもんだりこねたり、くすぐったり。読み終わったら子どもがお母さんやお父さんをもんだりこねたりする絵本になるといいよね、と。
───たしかに「こねて、のばして、またこねて♪」と歌うように読むと、自然に手が動いちゃいます。わが家でも読みながら子どもたちをこねてみると、嬉しそうに笑い転げていました!