「ウチの子にそっくり!」とママたちの間でも大人気のももんちゃん。
絵本の中で、走ったり、転んだり、泣いたり、笑ったり。
「ももんちゃん あそぼう」シリーズは最新刊『こちょこちょ ももんちゃん』を合わせると12冊にもなるんです!
その最新刊の発売を記念して、作者のとよたかずひこさんへのインタビューが実現しました!
「ももんちゃん誕生」の秘密から制作過程、新刊『こちょこちょ ももんちゃん』について、更には、普段からよく学校などで読み聞かせをされるという、とよたさんならではのエピソードなどなど、興味深いお話をたっぷりご紹介します。
●スーパーあかちゃん誕生
─── 桃みたいな可愛い顔におむつをはいた姿で、どんどこどんどこ走っていくももんちゃん。その堂々とした風貌はまさに「スーパーあかちゃん」。あかちゃんや小さい子だけでなく、「うちの子にそっくり」とママたちにも大人気!そんな主人公のももんちゃんは、どの様に誕生したのでしょう?
『どんどこ ももんちゃん』
ももんちゃんはね。桃太郎のイメージがあったんです。主人公は男の子のつもりで描いているんです。『どんどこももんちゃん』の中で、くまさんを倒すという場面も最初は桃太郎のイメージがあって。あかちゃんがくまを倒す、力強いですよね。そんな「スーパーあかちゃん」というキャラクターは後からついてきて。確かに「うちの子にそっくり」という声は多いんですよ。どちらかというと、女の子の方が多い。だから、あんまり男、男って言うのはやめたんです。
─── そうだったんですね!そんな風に、絵本をつくる時には、まず色々な設定を決めてから描かれるんですか?
絵本をつくる、誰かにメッセージを描く場合には、キャラクターの性別とか年齢とかっていうのは、どこかで意識するんですよ。物語には投影されないけれども、どの作品に関しても、必ず背景みたいなものは頭の中で描きます。この人はどういうところに住んでいて、家族はいるのか、いないのか、というような設計図を描くわけですよ。
ももんちゃんの場合、よく読書カードで「早くお父さんを作中には出してください」という声はあるけど、これは母一人子一人なんですよね。それは設計図なんです。だから出てこないの。そしてももんちゃんは、男の子なんです。でも、特に読者がそれを女の子として読んでくださっても、間違いではない。作者の手を離れれば読者のものというのは、そういうことですからね。
─── 先ほど「スーパーあかちゃん」というキーワードも出ましたが、そういえばももんちゃんは自分で遊びにいったり、広い広い景色の中に一人でいたり・・・そんな風にあかちゃんがぽつん、といる感じって絵本の中でも珍しいですよね。
そうかもしれません。実は、ももんちゃんは“自立したあかちゃん”なんです。
今、親子のスキンシップが大事だって言って、そういう絵本はいっぱいある。確かに普遍性のあるテーマなんだけどね。それよりは、あかちゃんがもともと持っている生命力みたいなものをたたえよう、という気があったんです。親子の関係を、べったりというよりも、逆にちょっと突き放した感じでやりたいなあ、というのがね。
ももんちゃんシリーズの中で、『ももんちゃん どすこーい』という、しこを踏むのがあるんだけど。さらに凛々しい感じのね。アイデアとしては、こちらの方がむしろ先だったんです。『どんどこ ももんちゃん』とこれはリンクしてるんです、お相撲とったりして。
『ももんちゃん どすこーい』
でも最初これは、あかちゃん絵本としては難しいと言われたんですね。だって、砂漠とかサボテンとか、日常あかちゃんが目にしているものとは程遠いものが、登場してくる。あかちゃんに、砂漠と言ったってわからないし、サボテンなんて触って痛いとか何とかも、まず分からないような状態ですしね。でもそれは、僕の中では折込み済みだったんです。だって(童心社さんには)松谷みよ子さんの『いないいないばあ』みたいな赤ちゃん絵本が既にあるんです。あれ一冊でもう十分だろうという感覚すらするぐらいで。全く同じ層に向けて赤ちゃん絵本を作りたいと言ったって、似たようなものをつくってもしょうがないし。むしろ、読んであげるお父さんお母さんが楽しんでくれればいいなあと。そこから出発したんですよ。
おかげさまで、読み聞かせに使ってくれたり、(絵本ナビの様な)サイトに親御さんが投稿してくれているのを見ると、やっぱりそれなりに楽しんでくれているんだなと思いますね。
●制作の秘密
「ももんちゃん」シリーズというと、本当にお母さんたちの人気がすごく高いという印象があります。その理由の一つとして、実際に声に出して読んでみるとよくわかるのですが、何回繰り返して読んでも楽しいというのが大きくあるように思うのです。子どもというのは、繰り返し繰り返し「よんで!」という事が多いのですが、これが意外と大変。でも「ももんちゃん」シリーズは、テンポや間の良さだとか、「どんっ」「のっしのっし」「ぽっぽー」などなど繰り返しの言葉の面白さだとかがあって、読んでいてとても気持ちがいいし、飽きないというのもあって。そういう意味でお母さんたちも読んでいるうちに、どんどんこのシリーズにはまっていくのかもしれません。─── 言葉を考える時には、発音やリズムなど、声に出して読んだ時の感じというのにこだわられてつくっているのでしょうか?
僕の場合は、絵と文が同時に浮かんでくるんです。だから、削っていくという作業がほとんどないんですよ。この言葉しか出てこないんです。ラフスケッチする時、コマ割りしていく時に、もう絵が出ると同時に脇に言葉が入ってくるわけですよ。推敲してもう一回考えて、この文字は余計だなとか、そういったそぎ落とすという作業がないんです。擬音語も擬態語に関しても、あんまり変わったものは使ってないはず。犬は「わんわん」、猫は「にゃーにゃー」という程度の、凡庸な言い回し。電車は「がたんごとん」って、非常にありきたりの言葉を使ってるんですよ。だからそれをあまり言われると、「俺、そんなに考えてないぞ。」って(笑)。
─── 「ももんちゃん」を読んでいると、絵と言葉の進んでいくテンポがぴったりくるんです。だから、読んでもらっている子の方も、次のページをめくると登場する場面まで全部覚えちゃったりして。なるほど、絵と文章が同時に浮かんでくる・・・リズム感や間の良さというのは、その辺りに秘密があるんですね。
だから、絵を描き出したら早いです。だって、言葉がもう同時に出てきていますから。長い文章じゃないですし。擬音語や擬態語も意識しているわけではないんです。ただ、ここに入れるにはこれだろう、と入れていく。当然、ページ数に制限があるので、最初の段階ではページ数のコマ割りでつくっていきますよね。これが出来上がったら、今度はダミーといって、こういう形につくっていくわけです。
そういって見せてくれたのは、制作中だった最新刊『すいかくんがね・・』という絵本のラフ。
直筆です!
※『すいかくんがね・・』は2010年5月上旬に童心社より発売予定です。
ここに来る段階ではもうほとんど出来上がっている状態と同じ。本のページをめくっていくということが大事だから、これをやらないで絵本なんか作れないわけ。絵本作家さんは、誰でもやってますよね。こんな感じで作っていく。これは、まさに最終的に「こうなったよ」という状態。後は、これでOKもらえば、原画作業に入るわけです。この時には、やっぱり(完成形の)この文字しか入ってないんです。ここの段階ではもう変更はないですね。
─── ももんちゃんというと、この「ピンク色」というのも、とても印象的。このピンクというのは、赤ちゃんらしい、象徴的な色という事で使われているのでしょうか?子どもたちもお母さんたちもすごく好きな色だと思います。その他に登場してくる「さぼてんさん」や「きんぎょさん」などもとっても発色がきれいですよね。
「ももんちゃん」シリーズは、このピンク色が欲しかったんです。この発色がね。通常の印刷方法だと、ピンクというのは出にくい色なんです。他の色と掛け合わせると、沈み込んでしまうんですね。だから、100パーセントベタでこのインクの色が欲しい時は、特別な色、特色をそのまま印刷するんです。要するに版画に近い印刷ですね。ですから、版も描き分けているわけです。ピンクはピンクの版、という風に。それを印刷する時に重ね合わせて色を出したりするんです。ですから、出来上がってみないとわからない、という部分もあるんですけどね。このやり方は、昔、石版画で刷っていた時代からのやり方で、印刷技術としては特別に変わったやり方というわけではないんです。このピンク色が欲しくて、そういう形になりました。
ピンクでも色々なピンクがありますよね。ちょっと転ぶと印象も全然変わる、微妙なところがあるんです。だからこそ、こだわっています。全ての表紙の背景は、この色をメインにしています。お母さん方が「この子は女の子だ」という受け取り方をされる事が多いのは、この色に拠るところが大きいんだなあ、というのはわかりましたね。ピンクの面積がかなり占めていますからね。
─── それから、「ももんちゃん」シリーズというと、すごく気になっている方も多いと思うのですが、お友達として登場するのが、きんぎょさんやさぼてんさん、そしておばけさん。特にきんぎょさんが、電車ごっこをしたり、お相撲とったりしているのが可笑しくてしょうがない(笑)。砂漠と赤ちゃんというのも、なかなか結び付きませんよね。本当に不思議な発想です。
そんなにおかしいですか?(笑) あのね、よく質問受けるの。なぜ金魚とサボテンなんだって。でも、それを説明しきれるほどの自分がいないんですよ、そこにね。だから理屈じゃないところでやってるんだろうなあ、と思うんです。サボテンを出した時に、なんかちょっと水気が欲しいなあと思って、金魚を出したっていう感覚かなあ(笑)。砂漠というのも、順序としてはむしろサボテンが先だったと思うんだ。サボテンのほうが先で、じゃあサボテンの生息地は砂漠だろうな、というね。
─── とよたさんの作品というと、電車の絵本がたくさんあったり、おばけが登場したり。好きなキーワードというのがあったりするんですか?
ひとりの人間がやってるから、それはどうしても好みというのは隠しきれないだろうね。ああ、この人は乗り物好きなんだろうなとか、ね。だから、花とか植物とかはあまり知らないから、描かない。自分の中にないものはね。実は、食べ物もそうだったんです。食べ物にあんまりこだわらない方なんですよ。珍味だとか、高級料理だとかね。でも、今新作で「おいしいともだち」シリーズを描き始めたんです。このシリーズの特徴は素材だけだったんで。それならできる、豆腐なら豆腐、納豆なら納豆でいいってね。それなら好きだもん。
※その新シリーズのテーマもとっても個性的!後ほど少しだけご紹介します