大きなつり上がった目とミステリアスな雰囲気が印象的な猫・ダヤン。一度見たら忘れられない不思議な魅力がありますよね。そのダヤンが暮らしているのが「わちふぃーるど」。池田あきこさんが創作された架空の国です。ダヤンと仲間たちの活躍ぶりは、絵本シリーズや長編物語で楽しむことができます。そして今回、全巻累計130万部となった人気キャラクター、ダヤンの新・長編シリーズの刊行がいよいよ開始されました。第1巻は『ダヤン、クラヤミの国へ』。その発売を記念して、新作について、「ダヤン」について、「わちふぃーるど」について、池田あきこさんにお話を伺いました!
春が訪れたタシルの街では、バニラの誕生日を祝ってメイフェアの祭りが盛大に行われていました。けれども、そんななか、みんなの見ている目の前でバニラが連れ去られてしまいます。ダヤンとジタンはさらわれたバニラを救うため、トールの山の洞窟、そしてクラヤミの国へ。迷路のような地下世界をめぐるダヤンのハラハラドキドキの冒険。
─── 一昨年2009年にはダヤン誕生25周年を迎えられたそうですね!ダヤンが誕生した時のことを少し教えていただけますか?
私は元々革製品のメーカーをやっていて、革人形を作っていました。実家がその本拠地だったけど、そこは埼玉の鶴瀬だったので、もっとかっこいい場所にいきたいなーと思って・・自由が丘に店を作った時のシンボルマークとしてダヤンは生まれました。鉛筆でダヤン、イワン、マーシィを描いたのは包装紙を決める前の夜でした。
ほら見て、こんなふうな変な店だったの。
店内にいろいろな形で現れるダヤンは、恐いという人、かわいいという人、実に意見はまちまち。
とにかくどこか引っかかるところのある猫だということだけは確かでした。
─── ダヤンが暮らす不思議の国「わちふぃーるど」は、ダヤンの誕生と一緒に生まれたのでしょうか?また、「わちふぃーるど」とはどんな世界ですか?
私がずっとやりたかったのは「わちふぃーるど」という架空の国を作ること。革人形を作っているときにも「わちふぃーるど」をいつも考えていました。
強い吸引力を持つダヤンはそこにたどりつく、かっこうの水先案内になってくれました。すごくいい主人公だったのね。ダヤンが生まれて「ヨールカの扉」で「わちふぃーるど」への道が開かれると、そこでの光景はどんどん浮かんできました。
「わちふぃーるど」という国に住むのは動物たちが主だけど、地域によっては妖精、小人、魔女など。石や椅子も意思を持ってしゃべったりしますが、基本ニンゲンはいません。
自然は豊かで四季があり、動物たちは自然とともに生きています。太陽の恵みと夜の闇、時間の流れはゆっくりと過ぎていきます。
動物たちはお祭りも大好き。年間を通して、たくさんの愉快なお祭りがあります。
きっとみんなも住みたくなっちゃうよ。
─── ダヤンは最初、革人形として誕生したのですね!その後、多岐のジャンルに渡って「わちふぃーるど」の世界を表現されていますが、雑貨から絵本、そして長編ファンタジーへ・・・という、その順番にとても興味を惹かれます。ダヤン作品全体の中で長編ファンタジーシリーズというのはどんな存在なのでしょうか?
ほんと。私のやっていることは普通と逆ですね。
絵本のシリーズを手がけているときに、同じ版元から「なにか核になる本が欲しい。物語を書いてみませんか」という話がありました。はじめは「物語を書くのは大変そうだな」と思ったけど、ま、何事にも挑戦が私のモットーなので、やることにしました。
『ダヤン、わちふぃーるどへ』は今までのおさらいのようなものだったけど、二巻目の『ダヤンとジタン』からは「ダヤンがわちふぃーるどに対して、どんな役割を果たしたかを書きたい」という気持ちがふつふつとわいてきました。
でね、最後までのあらあらのあらすじを書いちゃったの。
それまでにもポツポツと小出しにしてきた、わちふぃーるどの成り立ちをつなげてみたかったのね。長編に関して大きなイメージの喚起となったのは、『タシールエニット博物館』という画集でした。思えばそのときから書きたかったんだよね。
自分の中でもあいまいだったわちふぃーるどという世界が、長編を書くことでくっきり立ち上がってきました。
絵本と物語の性格はずいぶん違う。物語を書くことで、ダヤンの性格もどんどんはっきりしてきたし、風景にしてもさまざまな角度から眺めて書くことができる。苦しいけど、面白いですよ。