壮大な山の景色の表紙がとても印象的なこの作品は、たしろちさとさんの最新作。
よく見ると、ぞうくん・やぎくん・はりねずみくんが出発しようと張り切っていて、とても可愛らしいのです。更に気になるのはその題名。「ポレポレ」って、一体どんな意味?
作者のたしろちさとさんにお話をお伺いしてみました!
- 「ポレポレやまのぼり」
- 文・絵:たしろ ちさと
- 出版社:大日本図書
今日はみんなで山登り。先頭ではりきるハリネズミくん、鳥の声に耳をすますゾウくん、大荷物のヤギくんは一体何を持って行くの? 森をぬけて、岩を登って、雲をこえて・・・、ばんざーい! 頂上につきました。さぁ、テントをたてて、わくわくキャンプの始まりです!
─── 山の景色もキャンプの様子も本格的ですね。どうして、このお話を思いつかれたのでしょう?
アフリカのキリマンジャロ山に登った時のことを思い出しながらつくりました。私は登山がほとんど初心者にもかかわらず、アドベンチャーなルートで登ることになってしまいました! 急な岩壁をよじ登ったりして、それはもう大変だったんです。でも、夜はテントをたててキャンプをしながら何泊もして登っていくのが楽しくて。山の空気、息をのむほどの雲海、みんなでする食事、山の静けさ・・・。これを絵本にしたいなあと思うようになりました。
─── はりねずみくん・やぎくん・ぞうくんと、個性的でとってもいいキャラクターですね。最初から決まっていたのでしょうか?
このおはなしを考え始めた時は、犬の3人(匹)組だったんです。大型・中型・小型犬で。でも、なかなか、おはなしが進んでいかなくて。ぞうくん・やぎくん・はりねずみくんに変えてみたところ、3匹がどんどん動き出してくれました。あとは勢い! 私は絵筆を持って3匹を追いかけていったという感じです。
─── たしろさんは、3匹のうちどのタイプですか?
登山の時は、はりねずみくんタイプかなあと思います。山道でかけだそうとするはりねずみくんに、さるおじさんが「ポレポレだぜ」と声をかける場面があります。私も登山の時に、絶景に「わあい!」と思ってトットコ登っていると、シェルパさんが「ポレポレ」と言ってくれました。それで「ポレポレ、ポレポレ」と言いながら登っていました(笑)ゆっくりゆっくり、山に体をならしながら登っていくことが大切なんですね。あっ、「ポレポレ」はスワヒリ語で"ゆっくり"という意味です。それ以来、“山”と言えば浮かんでくるのは「ポレポレ」。音の響きも好きだったのでタイトルにしてみました。でも、荷物の多いところはやぎくんかな(笑)山登りって性格がでますよね。
─── 主人公以外の動物達もチャーミングですね。どんなキャラクターをイメージして描かれていますか?
山登りベテランのさるおじさん、くまの親子、さすらいのねこ、ブタの夫婦、遠足にきたねずみ幼稚園のこねずみたちなどです。よかったら絵本の中で探してみてください。
─── 絵ができあがってから、とりやめた場面と加えた場面があるそうですね。どんな場面でしょうか?
山の頂上のキャンプが盛り上がったので(みんな踊っちゃいました!)、登山途中の3匹がお弁当を食べるシーンや後片付けのシーンは削りました。それから、やぎくんの大荷物の中身が気になってきて、荷物を全部ひろげているシーンを足したら、楽しくなりました。他にもあれこれと足したり削ったりしています。
─── やぎくんのたくさんの荷物や小さな看板・・・細部まで丁寧にかかれていますが、実際に原画を描かれる期間はどのくらいなのでしょうか?
3か月くらいでした。編集者さんと「絵本をつくりましょう」と話し始めてからは、かれこれ3年くらいでしょうか。
─── 素材は何でかかれていますか?
主にアクリルガッシュを使って描いています。ちょっと油絵具も使っています。何度も塗り重ねるので深みが出て楽しいです。修正も可能で、今回やぎくんのリュックは、後から全部一回りくらい大きくしました。
─── 大きな山と登山口にいる小さな動物達が、とても印象的な表紙ですね。
表紙も、ここにたどり着くまでにはあれこれありまして(笑) この山の絵は、扉用にと思って描いたものなんです。大きな山の気持ちのいい絵になったなあと思って、大好きな絵でした。そうしたら、デザイナーさんが「これを表紙にしたらどうでしょう?」と提案してくださって。出来あがってきた表紙デザインを一目見て「これだー!」と思いました。
─── たしろさんから絵本ナビ読者のみなさんに向けて、メッセージをお願いします!
絵本を読んでくださっている皆さま、そしてレビューを書いて下さった皆さま、ありがとうございます! レビューを見るたび、力がムクムクわいてきて、「またがんばるぞー!」と思います。とても励みになっています!!
─── 未曾有の震災、津波、原発事故により、1年がたちました。被災された方、今なお不安な日々を過ごされている方々に向けて一言お願いします。
このような状況の中で自分がとても無力に感じられて、絵本に何ができるのか考え続けた1年でした。絵本が、ほんのちょっとだけでもどこかの誰かの力になれたら嬉しいです。
ひとりひとりの悲しみの先に、希望の見える日が来ることを願っています。