入院中の男の子が、窓から海を見ると、いつのまにか白い椅子が浜辺においてある。朝から夕方まで、そこを訪れる人や動物たち、砂浜の風景の変化。
作者は、三浦半島の海のそばで暮している。誰が置いたのか、ときどき波打ち際に椅子が置いてあることがあるという。子ども時代の入院の記憶がいすの姿に重なり、本書が出来たという。
実体験をもとにしているのに、幻想的な印象が強かった。
入院すると暇な時間が多い。暇なのに遊びに行ったりもできないので、仕方なく窓から外を眺めたりすることも多い。私も8階の病棟の窓から工事中の建物や、道を歩く人たち、遠くにつながる建物などを眺めていたが、あいにく浜辺の椅子のような楽しさはなかった。
それでも空の雲の流れる様子や、季節の草花や木の様子、雨や風の動きをじっくり眺めるということは、普段の暮らしの中ではめったにないので、不思議な豊かさが感じられたことを思い出した。
病棟からなかなか出られない男の子の気持ちを推し量ると切なくなる。椅子も、誰かが不法投棄したのであればかわいそうだ。
だが、作者や画家はそこに一種の希望や、多くの存在の生命力、ロマンなどを感じ取り、いろいろな世界を表現している。身動きがとれなくても、想像力を発揮してどこにでも飛んでいけることがわかってなんだかうれしい。 (渡”邉恵’里’さん 40代・その他の方 )
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