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鬼ばばの島

鬼ばばの島

  • 児童書
著: 今井 恭子
絵: 阿部 結
出版社: 小学館 小学館の特集ページがあります!

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作品情報

発行日: 2021年09月16日
ISBN: 9784092893153

出版社のおすすめ年齢:低学年〜
98ページ

みどころ

“大海原のどまん中、まめつぶほどの小島に、鬼ばばはくらしていた。

その体は海を立って歩くほど大きく、ヤブのようなもしゃもしゃの髪を海にひたせば、そこにたくさんの魚が引っかかる。

クジラを取って食うほどに強く、その力は、山を叩けばぺしゃんと潰してしまうほど。

おばばに、家族はなかった。

父親のことは、ぺろりと食べてしまった。きびしい飢えをしのぎ、我が子に乳を飲ますため。

そんな子どものことも、住みやすかろう南へ捨てた。鬼ばばの子は大食らいで、ふたりで住めば島が潰れる。

「かまわんとならんもんが、おらんのはええ。いつくたばってもええ」

それが口癖のおばばは、なにも持たず、たったひとりで生きていた。

そのはず、だったのに。”

しずかに生きるおばばの元へ、流れてきたのはひとりの若者。潮の流れのせいで、もう帰ることはできないと知らされた若者は、おばばと共に島で暮らす。おばばもかいがいしく若者の世話を焼くが、彼は、いつも彼方の故郷に焦がれていた──「やっかいなもん、ひろうてしもた」

おばばが出会ったのは、クジラの腹から飛び出した、ひとりの子ども。その子は「生きているものを殺したくない」と、魚を食べようとせず、次第にやせ細っていった。「それなら人間の土地で、坊主になるほかない」、そう考えたおばばは、危険を犯して人間の暮らす土地へ向かう──「なさけないもん、ひろうてしもた」

他二篇を収録した、鬼ばばと漂流者との出会いを描いた短編集。

ひとりで生きることを良しとし、招かれざる同居人をうとましく思うおばばですが、それというのも、その扱いや行く末に悩むがゆえのこと。

「かまわんとならんもんが、おらんのはええ」

おばばの口癖は、裏を返せば「誰かがいれば世話を焼いてしまう」という、やさしい人柄の表れです。

「男が弱気になると、おばばはひそかにうろたえた。のどが、ひくひくふるえた。どうしてよいやら、わからないから、自分に腹が立った。
男が遠くをながめていると、胸の底がちんと冷えた」

「毎夜おばばは、さぶん、さぶん、波のつぶやきを聞きながら、もそもそ起きあがっては、ねむりこけた子どものひたいをなでた」

「秋の海はひんやりしていたが、犬がふせているへそのあたりだけは、ぽちりとあたたかかった」

オノマトペや、細かな風景描写にさえおばばの秘める人の良さがにじみ出ていて、ほほ笑ましい作品です。

しかし、本作で特に胸に刺さったのは、おばばのやさしさよりも、その怒りです。それは、鬼ばばの住む島に宝があると思い込んでやってきた、人間たちに対して抱いたもの。

父さえ、子さえ捨てて、それでも生きてきた自分が、いったい何を持っているというのか──

島に侵入した盗人たちを前に、腹もはち切れんばかりのおおきな怒りを抱いたおばばは、どうするのか?

その決断のやるせなさ、やりきれなさに、つよく胸を締めつけられました。

結末の先の余韻まで、切なさ香る一冊です。

(堀井拓馬  小説家)

出版社からの紹介

すべてをすてても、やさしさはすてられない

青海原の小さな島に、大きな鬼ばばが一人くらしていた。
「かまわんとならんもんが、おらんのはええ」と言いながらも、島に流れ着くあれやこれやをついつい拾って世話してしまう・・・・・・。
第1章 やっかいなもん、ひろうてしもた
第2章 とんでもないもん、ひろうてしもた
第3章 なさけないもん、ひろうてしもた
第4章 うっとうしいもん、ひろうてしもた
あるがままに生きるおそろしい鬼ばばの、愛情深い4つの物語。


【編集担当からのおすすめ情報】
小学生から大人のかたまで、広くお手にとっていただきたい、心に響く物語です。

ベストレビュー

なんて深いお話・・

本当は心優しい鬼ばばの
4つのお話が、連作になっています。

第1話で
旦那を食べて、息子を投げ捨てるシーンが、余りに強烈で、
その「どうしてー」という気持ちを整理しながら読み進めることになります。
お話が進むにつれ
さいごには、なんとも心がじわーと暖かくなるというか
湿り気を帯びるような感じがしてきます。

鬼ばばの気持ちを推し量ると
鬼婆が、時に自分に、時にだれか身近な人に見えてくる
とても不思議なお話です。
(やこちんさん 50代・ママ 女の子18歳)

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