天平九年の夏。奈良の平城京は、『もがさ』と呼ばれる疫病(天然痘)の流行で、ひどいありさまだった。その都の東市のかたすみで、14歳の少年・千広は、川原の小石を疫病退散の護符だといつわって売っている。母を疫病で亡くし、父は遣唐使船に乗ったまま帰ってこない。都にうずまく不安を逆手にとって、ひとりで生きていくのだと、すべてをさめた目で見ている。 あるとき、貴族の屋敷の下働きの少女、宿奈と出会い、ともに市で売るまじない札をつくりながら、そのしなやかさと明るさに惹かれていく千広。 しかし、宿奈は突然市に来られなくなり、唯一千広のことを気にかけてくれていた従兄も、疫病で亡くなってしまう。失意の中、市で襲われた千広は、病の者を受け入れる施薬院に運ばれる。そこには、それぞれに悲しみを抱えながら、日々をひたむきに生きていく人々がいた。 宿奈への思慕や、捨てきれない学問への思いと、なにかを願うなんてむだなことだというあきらめの間で、ゆれ続ける千広に、訪れた奇跡とは……?
実際に出土した呪符木簡をヒントに、藤原四兄弟の病死、光明皇后の活躍、遣唐使たちの命がけの渡航といった、時代の情景を巧みに織り込みながら、その「歴史」の裏側を駆け抜けたひとりの少年の夏が、こまやかに描かれていきます。 傷つき苛立ちながらも、しだいに手放せない思いに気づき、前向きな生き方を取り戻していく主人公の姿が、1300年のときを越えて現代の子どもたちの共感を呼ぶ、骨太の歴史長編です。 挿絵は飯野和好。平城京の空気とともに、登場人物の心情までも濃密に描き出します。
『何かを願うことなど無駄だ。みんなどうせもがさで死んでゆく。
みんな,死んでしまえばいい。』・・・どん底の少年 千広の心に震えました。
それでも,自分と同じように,
もがさで死んだ家族のそばにうずくまる幼い子どもに
銅銭を握らせずにいられない。
下働きの少女の顔を殴る上役に怒りを覚えて,小さな抵抗をせずににいられない。
従兄弟がすすめる大学寮での学問に心揺れずにいられない。
みんな死んでしまえばいいといいながら,
下働きの少女 宿奈に思いを寄せ
従兄弟の死に打ちのめされ
施薬院のひたむきな少年 安都に心開いていく。
千広と宿奈に訪れる小さな奇跡が大きな救いです。
どうしようもない世の中を,
どうしようもなく もがきながら生きることは,
いつの時代も在りつづける人の姿。
1300年の時を超えて,今もがき続けている人への
エールとなる物語だと思います。
飯野さんの刺し絵が臨場感たっぷりで,
登場人物の心のひだまで表されていてすばらしい!
個人的には,施薬院の坊主さんが人物描写ぴったりで好きです!! (あんぴかさん 40代・ママ 女の子15歳、女の子8歳)
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