1941年12月7日 日本の戦闘機がハワイの真珠湾(パールハーバー)を攻撃しました。 1945年8月6日 アメリカの爆撃機が広島に原子爆弾を落としました。
本書は、アメリカ最高峰の児童文学賞・ニューベリー賞を2度受賞した児童文学者ロイス・ローリーが、真珠湾攻撃と広島の原爆、それぞれについて、そこに生きていた「人」に焦点をあててつづった41の短い物語集です。物語が生まれたきっかけには、著者ロイス・ローリーの生い立ちが関係します。
ロイスは、1937年ハワイに生まれました。幼い頃ワイキキの浜辺で遊んでいたときのホームムービーには、真珠湾攻撃で沈んだ戦艦アリゾナの姿がうつっていました。あの日、彼女が笑いながら砂の上で走りまわっていたとき、そのむこうの水平線のかなたでは、死ぬ運命にある若者たちが、ゆっくりと移動していたという事実があったのです。
11歳になった彼女は、アメリカ陸軍の歯科医だった父について1948年から1950年までを戦後の東京で暮らします。そこで、少女のロイスは一人の少年コウイチ・セイイ、後の画家アレン・セイと出会っています。コウイチ少年は、1945年8月6日、当時住んでいた山口で、地面が揺れ、空に異変が起きたことを感じました。ロイスとアレンはその後、1994年にアメリカで再会します。
ロイスとアレン・セイ、戦艦アリゾナで命を失った兵士の兄弟と、広島で三輪車に乗ったまま焼かれたしんちゃん、そして現代へとつづくその家族と記憶。それぞれの人生が交わる意味をもとに、あのとき真珠湾に、広島にいた人々には彼らにしかない物語がありました。真珠湾と広島はたしかに悲惨な戦争を象徴しますが、まず前提として、そこには「人」が生きていたのだという事実を41の短い物語が伝えます。
現在80歳を越えたロイスは、あとがきでこういいます。 「これらのできごとの意味を、長い年月考えていました。そうできなかった人生も含めて。大事なことは、やはりシンプルなことでしょう。この地球に暮らす私たちはつながっていると認識すること。」
日本とアメリカ、国はちがっても人々はつながっています。真珠湾と広島のように取り返しのつかない犠牲があった過去から私たちは学んでいるはずなのに、戦争はまだ起きています。歴史の大きなひとコマではそれぞれの人生が重なり合っている、そうした事実をもとに、平和な未来を築くために私たちはどうすればよいのか、考えさせられる一冊です。
(徳永真紀 絵本編集者)
「映像を見ていたわたしは、あっ、とおどろきました。たちこめる霧のむこう、水平線のかなたに見えるのは――戦艦アリゾナだったのです」 ロイス・ローリーが、自身の映ったホームビデオをよく見ると、 真珠湾攻撃で撃沈されることになる艦が、映り込んでいました。
真珠湾と広島の人々の生きざまを描写し、その時何があったのかをわたしたちに突きつける、41の物語。 ニューベリー賞を2回受賞した著者が、日本にも住んだことのある自らの経験を織り交ぜながら、 敵味方なく戦時下で実際に生きた人に想いを馳せ、紡いだ言葉の数々。
「人間のつながり」をテーマに長年書き続けてきた、稀代のストーリーテラーが、 若い世代へ「互いを大切にできるかどうかが、我々の未来を決定づける」というメッセージを伝えます。
小学3年生以上の漢字にルビがあり、やさしく読める内容です。 飾らない言葉で「人」に焦点をあてて、見えてくる戦争について、子どもも大人も一緒に考えてみませんか。 ぜひ今、読んでいただきたい1冊です。 (ニューベリー賞:アメリカで出版された児童文学作品の中で、もっとも優れた作品の著者に送られ、児童文学賞の中でいちばん長い歴史を持つ賞)
●著者紹介 ロイス・ローリー 1937年ハワイ生まれの児童文学作家。アメリカ陸軍の歯科医だった父について各地を転々とし、1948年からの2年間、11歳から13歳までを日本で過ごした。現在はメイン州在住。1990年に『ふたりの星(Number the Stars)』(童話館出版)、1994年に『ギヴァー 記憶を注ぐ者(The Giver)』(新評論)で、ニューベリー賞を2度受賞する。「ギヴァー」は大人気シリーズとなり、世界累計1200万部を超える。他にも『モリーのアルバム (A Summer to Die)』『The Windeby Puzzle』など多数。
ケナード・パーク アートディレクター、画家。ドリームワークスやウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ等で仕事をし、多くの絵本を描く。『Goodbye Autumn, Hello Winter』でゴールデン・カイト賞を受賞。
田中奈津子 翻訳家。東京都生まれ。東京外国語大学英米語学科卒。『はるかなるアフガニスタン』が第59回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に、『アラスカの小さな家族 バラードクリークのボー』『わたしのアメリカンドリーム』が厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財に選ばれている。翻訳は他に『こちら「ランドリー新聞」編集部』『ぼくたち負け組クラブ』『橋の上の子どもたち』『ホロヴィッツ ホラー』(以上、講談社)など。
この本の中にアレン・セイの名前を見つけ、著者自身が終戦後の日本で少年期を過したことを知って、真珠湾攻撃と広島原爆が繋がりました。
真珠湾攻撃で死んだ人、生きのびた人、それぞれに人生があったのです。歴史の流れからではなく、個々人の人となりから歴史を掘り起こすと、戦争は本当に自分と近いところで起こったんだと再認識しました。
真珠湾で始まり広島で終わった戦争だったけれど、ごく普通の人間がそこにいたこと、アメリカ人も日本人も同じ人間だということを、作者自身が身をもって感じ、伝えたいのです。
このアングルから、被害者意識も、加害者意識も感じさせる本でした。 (ヒラP21さん 70代以上・その他の方 )
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