その年の夏休み、小学校四年生の宗太は、京都に住むおじいちゃんとおばあちゃんの家で過ごすことに。ちいさいころに会ったきりで、はっきりとは思い出せないおじいちゃんとの再会に、ドキドキの宗太。そんな彼を出迎えたのは、壁から飛び出す顔、顔、顔!? 宗太のおじいちゃんは、能舞台で使われるお面を作る職人『能面師』だったのです。
「木のかたまりから、よけいな部分がどんどんけずられていく。なんか、まるでもともとある形の上にいらないものがついていて、それをそぎ落としているみたい」
能面を見てどう感じるかおじいちゃんにたずねられた宗太は、「ぶきみな感じもするし、やさしそうでもある」と答えます。「でも、怖くないよ。ただのお面でしょ?」 ところがおじいちゃんは、「昼と夜では、ちがうぞ」と思わせぶり。
もしかして、夜になると動き出す、とか──?
あの般若(はんにゃ)のお面の、さらにこわ〜い進化形があるって? ひとつのお面に、制作期間は一ヶ月、長いものでは三十年!? さまざまな種類のお面やその制作過程など、本書に描かれる能の裏側は、宗太でなくてもおどろきの連続!
特に、物語終盤で宗太が訪れることになる、薪能の舞台はみどころです。舞台は劇場ではなく、神社の境内に。しかも、上演開始はじきに日も落ちるという時間から。
「薪能はじつに幻想的なのだ。ゆらゆらと照らされ、夢うつつでみるものだ」
なぜ、能はお面をつけるのか。能が大事にする『幽玄美』とは何か。そのことの意味が、初めて能の舞台を体験する宗太の、新鮮なおどろきと共に描かれています。
そして宗太はおじいちゃんから手ほどきを受けて、自分で面を打つことにもチャレンジします。コツ、コツ、コツ、と木を打つ音だけが響く静かな時間の中で、宗太は自分の、父親に対する複雑な気持ちに向き合うことになります。
素直な気持ちで能の世界に足を踏み入れる宗太とともに、日本の伝統芸能である能や狂言、そのたのしみ方や美しさを知ることのできる一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
小学校4年生の宗太は母と二人で東京に住んでいる。夏休み、母が出張の間、宗太は父方の京都の祖父母の元で過ごすことになった。小さいころに一度会ったきりの能面師のおじいちゃんのことは、おぼろな記憶しかない宗太だったが…。京都の古い暮らしに新鮮な驚きを感じながら、おじいちゃんの仕事に興味を持つ宗太。
わらったり、おこってみえたり、さびしそうだったり、能面っていろんな顔があるんだな。 宗太はおじいちゃんに面の打ち方を教わって、能や能面の世界にふれ、ふたりは少しずつ打ち解けていく。コッコッコッ、カッカッカッ……面を打つのに夢中になるうち、宗太の心にあった両親への複雑な思いも少しずつかわっていく。
宗太の目を通して、能面師の仕事場や、能や狂言など日本の伝統文化を感じられる一冊。
本の体裁はA5変判・厚表紙上製本(ハードカバー)
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