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インドネシア・ジャワ島に古くから伝わる影絵芝居、ワヤン。結婚式や誕生日などのお祝いや儀礼の場で、「魔よけ」として一晩じゅう上演されるそうです。その中でもこども達に人気の物語がこの「スマントリとスコスロノ」。はるかむかし、天神の神々が人間の世界とゆききしていたころの物語。 少し長いようにも感じますが、二人の兄弟がそれぞれたどる運命を丁寧に読んでいけば子ども達でも楽しめる、起伏に富んだ魅力的な内容だという事がわかります。特にスマントリが神の化身でもある巨大な王に立ち向かっていく場面の迫力といったら。 ワヤンの世界に魅せられた乾千恵さんが、長い期間をかけて特に愛着のあるこの物語の再話をされてきたのだそうです。そして絵を担当された早川純子さんが、その物語が体の中で消化できるまで更に時間をかけ、最終的に木口版画という繊細かつ迫力のある表現方法で完成した渾身の一作となったのです。実際に目で確かめる為にインドネシアまで行き、イメージが固まるまで繰り返しスケッチし、繊細な線で掘り出し、美しい色合いで刷りだされたその仕上がりの素晴らしさ。エネルギッシュで強烈なその物語を見事に盛り上げてくれます。(完成までに10年もの年月が経ったのだそうです!) 大人が持っておきたい記念すべき作品である事は言うまでもなく、こうした「気迫」のある絵本というものが子どもの心に残していくものは大きいに違いないと断言できるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

天界の神々が人間界と行き来していた遙か昔、美丈夫の兄と、醜さゆえに捨てられ不思議な力を 身につけた弟の数奇な絆。弟に窮地を救われる兄と巨大な怪物へ変身する神や魔王との戦いの物語を、見事な語りと迫力満点の絵でお届け致します。

この物語には、二人の兄弟が登場します。
仲のよい兄弟が、お互いを思いあいながらも、運命に翻弄され、
兄は苦悩の末、弟を殺してしまうことになり、その後、
弟の仕掛けたまじないにより、兄も弟の魂に召され、死んで行きます。
お話は長いですし、聞きなれないカタカナの名前がいくつか登場するので、4歳の子は途中で聞かなくなりましたが、6歳の子は熱心に聞いていました。
容姿が醜いというだけで親に捨てられた弟、
そんな弟と兄の心の通い合い、
兄を想い、兄の窮地を救う弟のやさしさ、
自分の保身のために兄が弟を殺してしまう悲しさ、弱さ。
最後は弟が、兄の魂を天に連れて行きますが、
弟は兄に対する憎しみゆえにそうしたのではなく、
悲しさ、愛しさが入り混じってそうしたのではないかと思います。
神という、たちうちできない存在に翻弄される二人。
人間とはなんと悲しく、かわいそうな生き物なのか・・・
そういう考えが物語の根底にあります。
文章ひとつひとつがすばらしく、言葉を選びに選んで、丁寧に、
長い時間をかけて作られたものだということがよくわかります。
また、絵もすばらしく、この絵本を書くためにどれだけ勉強されたことかと感心します。
読んだ後、しばらくじっと絵本を見つめてしまいました。
最後のあとがきも興味深く、まさに渾身の一冊といえるでしょう。
小学校低学年から、また大人の方にもぜひよんでもらいたいです。 (がんじきさん 30代・ママ )
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