
”能の「項羽」の物語。中国楚の時代の項羽と劉邦の戦い。項羽の亡霊である老人が舟にのって現われ、花を摘む青年に「虞美人草」のいわれと、自身の最期を語る。「四面楚歌」などの言葉を生んだ有名な戦いの昔語り。”
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中国の古典を題材にした能楽「項羽」。
花を摘んで売る若者が夜、渡し守の老人から聞いた虞美人草の由来。
楚の時代、項羽と劉邦の戦いがあった。項羽は味方の兵隊たちに裏切られ、城の中で自分の最期を悟った。共にいた虞美人(妃)も死ぬ。戦場を離れ、一人川べりに立った項羽を、渡し守の老人が逃がそうとした時、項羽は絶望の中、自分を信じてくれる人があることを知った。その後、項羽は戦場に戻り…
激しい戦争の様子、一時は栄華を極めただろう英雄豪傑の雄姿、人の生き死にの理不尽さ、人間のさまざまな心の機微が、霞を通して見えるように柔らかく描かれている。
読者がそれを見ようと思えば近づいていけるが、とらえようとすると逃げていくような雰囲気を持つ日本画風の絵が、能楽の幽玄さを体験させてくれる気がした。
不勉強で能楽や歴史はよく知らないが、誰でもそれっぽい雰囲気を味わうことができる絵本。あまり精密に書き込まないところ、絵や文章の余白のようなものがあることで、読者がいろいろな想像してより深く物語を楽しめる工夫があると思った。
どちらかというと大人向けの絵本。三国志や中国の古典、歴史などが好きな人にお勧め。「虞美人草」の由来や、故事成語「四面楚歌」の状況説明なども入り、教養が身に着いたような得した気分になった。(虞美人草がケシの一種だとは、初めてしった。絵で見てわかる絵本のありがたみを感じた)
巻末に能楽師の解説もあり、結構内容が濃い一冊。
お能の入門書としてもおススメします。 (渡”邉恵’里’さん 30代・その他の方 )
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