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はじめてのクリスマス

はじめてのクリスマス(偕成社)

人気コンビがおくる、新作クリスマス絵本

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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  『ぼくの せきを とったの、だれ?』ふしみみさをさんインタビュー

『ぼくの せきを とったの、だれ?』(ロクリン社)は、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞の受賞作家キティ・クローザーが絵を、ミュージシャンのピーター・エリオットが文をかいた絵本。

ある日、主人公の「ぼく」が狩りから戻ると、わが家に見ず知らずの男が入りこみ、ちゃっかり自分のいすに座っている! かんかんになるぼくですが、友だちはおろか、飼っていた犬まで、みんな、へんてこな新入りになついてしまいます。新入りを目の敵にするぼく。でも時間が経つにつれ……。

とびきり独特で、パンチの効いたこの絵本に惚れ込み、訳したふしみみさをさんに、作品への思いをお聞きしました。また、ふしみさんと言えば、チャールズ・キーピング、アンドレ・フランソワなどの約50〜70年前に描かれた絵本を翻訳して世に出しています。古い作品をなぜ今訳すのか、翻訳する本をどのように選ぶのかについても伺いました。

  • ぼくのせきをとったの、だれ?

    出版社からの内容紹介

    見知らぬだれかと共存するには?
    未来をつくる人たちに、今こそ読んでほしい絵本。

    主人公の「ぼく」は、ジェフとジムに別れを告げ狩りに出かけました。ところが、獲物を持って家に帰ってみると、ぼくの椅子に知らない奴が座り、ちゃっかりこの家の住人に。新入りの名前はココ。 勝手に僕のパジャマを着るは、僕の馬に乗るはとやりたい放題。 ココには、イラッとさせられていたけど、しばらくするとわかってきた。ココがいるのも、まぁ悪くない。「見知らぬ誰か」も、わかってみると打ち解け合える。習慣も見かけも違う人々との共存は、まさに地球規模で考えなくてはならない普遍のテーマ。SDGsの多様性が注目されている今、この絵本のメーセージはとても大切です。

この書籍を作った人

キティ・クローザー

キティ・クローザー (きてぃくろーざー)

1970年、ベルギーのブリュッセル生まれ。1994年に「わたしの王国」(未邦訳)で作家デビューして以来、多くの作品を発表し、また装画も手がける。2003年『こわがりのかえるぼうや』(徳間書店)、2005 年『ちいさな死神くん』(講談社)で、オランダで最も美しい子どもの本に贈られる賞のひとつ銀の画筆賞を受賞。また2010 年には、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞している。現在ベルギーに在住し、二人の子どもを育てながら創作活動を続けている。

この書籍を作った人

ピーター・エリオット

ピーター・エリオット (ぴーたーえりおっと)

1970年、ブリュッセル生まれ。サン=リュック学院でイラストレーションを学ぶ。現在は広告デザインの仕事と子どもの本作りという“ 二足のわらじ生活”。またミュージシャン、ロックシンガーでもあり、妻と娘とともにベルギーに住んでいる。邦訳絵本に『まっくろヒヨコ』(ラスカル文/偕成社)がある。

この人にインタビューしました

ふしみ みさを

ふしみ みさを (ふしみみさを)

1970年、埼玉県生まれ。フランス語、英語の児童書を翻訳しながら、ときどきエッセイも書く。主な翻訳に『トラの じゅうたんに なりたかったトラ』(岩波書店)、『どうぶつに ふくを きせては いけません』(朔北社)、『うんちっち』(あすなろ書房)、『わにの なみだは うそなき なみだ』、『ふるい せんろの かたすみで』(ともにロクリン社)など。海外作家との交流も多く、「日本の神話えほん」シリーズ(岩ア書店)では文を担当し、フランスの画家ポール・コックスと共同制作をした。登山と温泉が好き。

現代の課題を、ポップに美しく描いた絵本

───『ぼくの せきを とったの、だれ?』は、留守中に突然家にやってきた新入りに振り回される男の子が主人公です。しかもこの新入り、ものすごーくヘンでずうずうしい。ところが、この新入りが留守にしている間にまた別の新入りがやってきて……というおはなしですね。

ヨーロッパには「狩りに行ったら席を取られる」ということわざがあるんですよ。「留守にすると、居場所を取られる」という意味なのですが、この絵本はそのことわざを逆手に取ったような内容です。席がなくなっても、座る場所なんかどこにでもある! 大丈夫! むしろ楽しいことが増えるよ、というメッセージが込められています。

───自分の場所だと思っていたところに新入りが加わって、心がざわついたり嫉妬したり……というのは誰にでも起こりうることだなと思いました。子どもは、新年度の学校やクラス編成、転入や転校でもありそうです。

はじめはざわざわしても、新入りと一対一で向き合うと「おっ、こいつなかなかおもしろいぞ」と思って、だんだん楽しくなっていくことってありますよね。大人の目線で見れば、移民や難民とどう共生していくかというテーマも感じます。

本書がベルギーで出版されたのは2018年、シリアの内戦による移民が増えていたときです。文を書いたピーターはミュージシャンで、ある夜、仕事場でバンジョーを弾きながら、故郷を追われた人たちのことを考えていました。そして「彼らに伝えることはただひとつ、『ウェルカム』だ」と思ったのだそうです。一気におはなしを書き上げ、元同級生で友人のキティに見せました。するとキティが「私が絵を描く。描いてもいい?」と言ったそうです。

ちょうどアメリカはドナルド・トランプ政権で、マイノリティへのヘイトクライムが増えていた時期でもありました。「ヘイトなんか、もううんざり」という気持ちだったとキティから聞いたことがあります。

───西部劇を思わせる、夜明けの黒々とした大平原や岩山がダイナミックですね。

とにかくキティの絵がかっこよくて美しい。特に、黒の色が独特で、深みとあたたかみがあって、さまざまなニュアンスがある……。色鉛筆でこんなふうに黒を表現できる作家はなかなかいないと思います。 外からやってくる人たち、移民や難民とどのように共生していくのかという課題は、日本もこの先、避けて通れないと思います。ポップで魅力あふれる絵を通して、子どもたちが新しい誰かと出会うおもしろさを味わってくれたらいいなあと思いながら訳しました。

───新入りの「ココ」の存在感も強烈です。

「ココ」は、勝手に「ぼく」のパジャマを着たり恋人をデートに誘ったり……イライラする存在なんですよね。大きな顔と手足が長いのが異様で、でもニッコリしていて憎めない。ピーターの原文が、歌みたいな感じの文章だったので「ところがところが」「なにから なにまで きに さわる」「ざまあみろ!」という言い回しでアクセントをつけながら、歌のようなリズムを意識して訳しました。

この“ニコちゃんマーク”のような異物感が爆発する「ココ」を見たときは、本当に「キティ、すごい!」と思いました。「ココ」をどんなふうに描こうか、キティはすごく悩んだそうです。最初はネイティヴインディアン、アフリカ系の女の子、中国系などにしようかと思ったそうですが、もしそうしていたら、いわゆる「ヨーロッパの白人」としての視点が入りすぎてしまったでしょう。でも「ココ」というキャラクターは、ジェンダーも国籍も人種も超えたおはなしの世界に連れていってくれる力があります。

───犬や馬の表情がユーモラスで笑ってしまいました。

犬のジョナスがまた薄情で、主人をすぐに変えるんです。新入りが来た日は、家に入る前から察して、馬と顔を見合わせながらニヤニヤしているし、ココにすり寄って「ぼく」を裏切る。もともとピーターが書いたテキストには犬がいなかったそうですが、キティが犬を描き加えたそうです。

キティはとても細かく絵を描いています。例えば、登場人物たちの目線。それぞれの目線がどこを向いているのか。犬、馬、人物同士の関係性も目線で分かるように描いているのがすごいなと思います。

目に見えないもののために、心をあけておく

───ふしみさんはキティ・クローザーさんと以前から知り合いだったのですか? 出会いをもう少し詳しく教えてください。また本書をどのように知ったのですか?

キティが2011年、板橋区立美術館で開かれる「夏のアトリエ」のワークショップ(*)講師として来日したとき、通訳を務めて以来、訳者として友人としての付き合いです。彼女の話し方や参加者への接し方から、「いい人だなあ」と感じたことを覚えています。

『ぼくの せきを とったの、だれ?』を描いていることはキティからも聞いていました。でも完成直後から「今度のキティの本、見た?」「すごくいいよ」って共通の友人たちに言われて。本を見たらポップでかっこいいし、メッセージ性があって、日本にもぜひ紹介したいと思いました。

*「夏のアトリエ」は、板橋区立美術館が毎年「ボローニャ国際絵本原画展」開催にあたり行なっている恒例のワークショップイベント。 絵本制作の第一線で活躍する専門家を国内外から講師に招き、イラストレーター約20人が参加、5日間連続で開催される。

───ふしみさんは、キティさんの『あるひぼくはかみさまと』『みまわりこびと』(ともに講談社)の訳を手がけていますね。

2011年に『ちいさな死神くん』(ときありえ訳、講談社)が翻訳出版された後、続いて2013年に私が『あるひぼくはかみさまと』、2014年『みまわりこびと』を訳しているので、「死神、かみさまの次はこびとが主人公なのね」キティと笑いあったことがあります。

───プロフィールで拝見したのですが、キティさんは少し耳が聞こえにくいのですか? 死神、かみさま、こびとなど、作品のテーマと生い立ちは関係あるでしょうか。

おそらく関係あると思います。キティは4歳くらいまで、耳が不自由なことを、家族も自分もわからなかったみたいです。その分、いろんなものをじっと見る習慣があったとか。周囲の人がどんなふうに首を傾げて、肩を怒らせているのか、仕草を細かく観察していたそうです。

キティが描く闇や影の黒色が美しいことは前に述べましたが、キティは来日したときの講演会で「夜、見えないものの存在を強く感じる」「見えないもののための場所を、いつも自分自身の中に割いておこうと思っている」と語っています。

複数の国にルーツがあるのはおもしろい

───ふしみさんの訳する本には、いくつかの国にルーツを持つ作者の本をよく見かける気がします。キティ・クローザーさんもそうですか?

そうですね、キティはお父さんがイギリス人でお母さんがスウェーデン人。本人は生まれたときからベルギー育ちです。家の中での共通言語は英語で、一歩外へ出るとフランス語の社会だったそうです。私自身、複数の国にルーツを持つ友人も多くて、そういったバックグラウンドがある著者の表現するものに惹かれるところがあります。例えば、私はオランダ人のカタリーナ・ヴァルクスの作品が好きですが、彼女はオランダ人の両親の元に生まれながら、18歳までフランスで育っています。

───複数の国にルーツがある作品や人にふしみさんが惹かれるのは、なぜでしょう。

「おもしろいから」という答えに尽きます。生まれ育った社会の外で暮らすのは、自由で気楽なように見えますが、もちろんいいことばかりではありません。居心地が悪いこともあります。例えば、私はフランスに住むこともありますが、「察する」なんていう日本の文化は通用しないことも多く、はっきり問題を口に出して、テーブルの上に見える形にして載せないと、例えばフランスをはじめヨーロッパのさまざまな文化で暮らす人にとっては「存在しないこと」。私の中にある気持ちも、口に出さなければ「なかったこと」にされてしまうことも。

国境が常に動いてきたヨーロッパではやはり意思表示がとても大事にされます。日本で誰かのことを「優しい人」というと褒め言葉に近いですが、フランスでは「わかってない人」「ちょっと抜けてる人」と受け取る人もいるよと友達に言われて驚いたことがあります。ある文化では「いいこと」が、別の文化ではそうじゃない場合もある。それを知ると、いい・悪いではなく、ただ「おもしろい」と思います。ちょっと俯瞰することで見えてくるおもしろさがあるのでしょうね。

誰にも似ていないチャールズ・キーピングの絵

───ここからは、ふしみさんがこれまでに手がけてきた翻訳作品について伺えたらと思います。まずチャールズ・キーピング作品について聞かせてください。日本では『第九軍団のワシ』(岩波書店)をはじめとするローズマリ・サトクリフの作品群の挿絵でキーピングは知られますが、絵本はあまり読まれていないように思います。1960年代、1970年代に描かれたキーピングの絵本を翻訳したのはなぜですか。

とにかく絵の色や雰囲気が独特で、すばらしくきれいなんですよ。まるで光っているガラスに描いているような……。見るたびに絵が違って見えるし、何度見ても飽きなくて、見ているうちにまた美しさがわかってくる……。これまで絵本をたくさん見てきましたが、キーピングに似た絵を描く人には会ったことがない。100年先、200年先も古びることがない絵だと思います。紙にインクを塗り、二つ折りにしたり別の紙を押し当てたりして、不定形、偶然のイメージを得る「デカルコマニー」という技法で描かれているそうです。

───『チャーリーとシャーロットときんいろのカナリア』(ロクリン社)は1967年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞した絵本ですね。うちの6歳の息子と読んだのですが、チャーリーと、高層マンションに引っ越してしまったシャーロットの友情をつなぐカナリアが、ねこに狙われるシーンにとてもドキドキしたみたいです。『アルフィーと せかいのむこうがわ』(ロクリン社)も、「どこにいくかわからない船に乗るなんて、ぼくはぜったいにしない」「こわかった」と言っていました。

たしかに、キーピングの絵にはどこか別の世界に連れて行かれそうなこわさがありますよね。こんなに幻想的で美しいのに、本国イギリスでは絶版で、書店で買うことができません。ですから、なるべくきれいな原書の古本をスキャンして日本語版を制作しました。現代の精巧なスキャン技術があるからこそできることですね。

───そうだったのですね。『ふるいせんろの かたすみで』(ロクリン社)はブラチスラバ世界絵本原画展で1975年の金のりんご賞に輝いた作品ですね。

これも、なんとも言えないセピアの色がたまらない、めちゃめちゃかっこいい絵本ですね。まさに人生が描かれていて、人生って何かを突きつけているようで……。「大人向けですか」と言われるけれど、そんなことないですよね。子どもにもこんな絵本があっていいと思う。友だちの子どもが小学生のとき、絵本を何冊かプレゼントしたのですが、その子が「この本がいちばんおもしろい」とキッパリ言っていました。

───しみったれた長屋の住人たちが、みんなでお金を出し合ってサッカーくじを買うと、大当たり。賞金を山分けした住人たちですが、それぞれのお金の使い道に人生が滲みますね。

ケチなおじさんはますますケチケチおじさんになり、子どもたちがゴミ捨て場で遊ぶことに心を痛めていたおばあさんは、ゴミ捨て場を綺麗にしてバラを植え、子どもたちが遊べるようにする。お金があれば世界を変えてやると豪語していたおじさんは、悪い友人に誘われてギャンブルに忙しくなり、きっとお金を巻き上げられてしまうでしょう。船乗りだったおじさんは最後の航海に出る。この絵本を「おもしろい」と言った小学生が言うんです。「もともと幸せだった人は変わらないんだね」って。人生経験を積んだ人も積んでいない人も、それぞれの位置で楽しめる。絵本ってそういうものだと思います。

───「子どもにどんな絵本を選んだらいいかわからない」という声をよく聞きます。あかちゃん絵本は定番がいろいろありますが、4、5歳向けとなると戸惑う親御さんもいるかもしれません。

私もおはなし会などで「何を選んだらいいですか?」とよく質問されます。でも……シンプルにご自身が「いいな」と思うものを、手にとってくださったらいいなあと思っています。「絵本を選ぶ」ことに構える方もいらっしゃるようですが、例えば漫画や音楽なら? 子どものとき夢中になった漫画や音楽を大人になってもずっと好きだとは限らないけれど、どこかで血肉になっていると思います。絵本も、大人も子どももそのときに「素敵だな」「好きだな」と心から思うものが、その人の体と心に残っていくのではないでしょうか。

おしゃれなアンドレ・フランソワの絵本に漂う切なさ

───『ブラウンぼうやの とびきりさいこうのひ』(ロクリン社)の作者アンドレ・フランソワは、20世紀を代表するグラフィックデザイナーですね。

『ブラウンぼうやの とびきりさいこうのひ』は1949年刊行された絵本ですが、それを言うたび、驚かれます。まったく古びていないから。それどころか、ものすごく魅力的。「ブラウンぼうや」のタイトルの通り、使われているのは茶と黒の2色。最高にお洒落だと思いませんか。

ブラウンぼうやは高級ホテルに住んでいてパパとママは仕事が忙しい。そのお手伝いさんとして働いているヒルダが、休日に、郊外の自分の家にぼうやを連れていってくれます。ヒルダ一家は、船で遠くの国から来た人たちで、どうやらこれも移民のおはなしです。

でもブラウンぼうやにとってみれば、ふたつの国の言葉を話せて、目をつむればふたつの国の景色を思い浮かべられるなんて、かっこいいこと。ぼうやはヒルダの家にすぐに溶け込んで、階段を何度も登り降りしたり(ホテルではいつもエレベーターですからね)、犬と遊んだりチョコレートケーキを食べたり、幸福感にあふれるおはなしです。でもひとつまみの切なさがあるんですよね。(ヒルダ一家は)「びんぼうで いつだって なにか たりないから、たまに たりた ときは、すっごく うれしいんだって!」というぼうやの言葉がいいですよね。ホテルに戻ったぼうやが、ひとりベッドで目を閉じて一日を振り返るラストシーンに、余韻が残ります。

都会で暮らす小さな男の子の生き生きした休日と、大人の事情と現実の切なさもどこか漂う作品です。

───『ワニのなみだは うそなき なみだ』(ロクリン社)もアンドレ・フランソワの作品。横長のデザインがかわいいです。

ワニはエサを食べるときなどに涙を流すことがあって、欧米では昔からワニはずるい生き物だ、その涙は獲物をだますためのものだとされてきました。そこから“ウソ泣き”のことを“ワニの涙”と表現するのですが、本作はそんなワニの涙の起源を、とびきりユーモラスに、お洒落に描いた、ナンセンス絵本です。

ユーモアは世界を救う

───今まで手がけた子どもの本は何冊ですか。また、これから翻訳したい本は?

これまで200冊以上の子どもの本を訳してきました。これから出したいと思って手元に持っているのは50冊くらいかな。本選びはいつも直感で、海外の書店で偶然出会う本もありますし、作家や友人が教えてくれるものもあります。作家の知名度や、年代などはまったく気にしません。古い作品でも新しい作品でも、自分が気に入ったもの、いいなと思ったものを選びます。

───ふしみさんの訳される本はタイトルもおもしろいものが多いですね。

『いいにおいのおならをうるおとこ』(ロクリン社)とかね(笑)。ちなみに絵を描いたブルーノ・エッツは南仏在住で、児童書の挿絵のほかにマンガ作品もたくさん描いている人です。私、おもしろい本が大好きなんですよ。たとえ大変な状況のときも、笑っちゃうとふっと気が抜けて楽になることがある。笑うためには、状況を俯瞰することが必要だから、ユーモアは自分を支えてくれると思います。

───『はなくそ』(ロクリン社)はオオカミの撃退法が衝撃でした(笑)。

『はなくそ』では、汚すぎる子ぶたのジュールが、かわいいジュリーに恋をします。あるとき2人そろってオオカミにさらわれますが、ジュールがびっくりするような手段でオオカミを撃退するんですね。初めて読んだとき、私はお腹を抱えて笑いました。あんなに大胆なお話を書くのに、作者のアラン・メッツは、実際に会うとすごい恥ずかしがり屋さんでした(笑)。

───「この作品を翻訳したいな」と思うポイントは、あえて言葉にするならば、どんなところにあるのでしょうか。

心惹かれるのは、ちょっと独特で、風変わりなものみたい。その本が放つ魅力に対して「これは本物だ」と直感で信じられるものを翻訳したいと思います。正規教育を受けていない画家の作品にも惹かれる傾向があります。

編集者(ロクリン社 中西さん):ふしみさんとは20年以上前からのお付き合いですが、「本国で○○万部売れています」とか「○○賞を受賞しています」などの理由で企画を提案されることはほぼないですね。

あ、たしかに言ったことないかも(笑)。受賞情報は、あくまで“情報”で、私がこの本を訳したい理由にはならないです。自分が美しいと思った絵やテーマなど、「読者」として感じたことをまっすぐに伝えるようにしています。 翻訳するとき「この絵本を日本の子どもに紹介したいか」は真剣に考えます。これからの世界をつくっていく、未来をつくるのは子どもたちだから、私にとって世界の宝物だと思うような「とびきりのもの」を手渡していきたいと思います。そして、「いろいろあるけれど、この世界っていいところだよ」って子どもたちに寄り添えるといいなぁと思っています。

───ふしみさんが訳さなければ出会えなかった本が、日本の子どもたちにはたくさんあると思います。今日はありがとうございました。

取材・文/大和田佳世

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