「絵をかくのが、だいすきなんでしょう?」そう言って家のまわりを案内してくれたのは、お隣のおばあさん、アグネスさん。 毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するは、『アグネスさんとわたし』。いつまでも心にひびく、カナダの美しい絵本。どんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
海べの町から引っ越して、野原をみわたす丘の上の家で、かあさんと犬のオーホーと一緒に暮らし始めた女の子、キャセレナ。新しい家の外には木が2本、あたり一面にはスノードロップの花が咲き、野原の向こうにある家には、アグネスさんというおばあさんが住んでいる。
「おかあさんから、きいてるわ。
絵をかくのが、だいすきなんでしょう?」
アグネスさんは、庭づくりや物づくりが大好き。自然やアートを愛するふたりはあっという間に仲良くなり、キャセレナは庭のお手伝いをしたり、アグネスさんがつぼを作る様子を眺めたり。アグネスさんが月の満ちかけについて教えてくれると、キャセレナは自分たちクリー族の季節の話をして。そうやって一緒におしゃべりをしながら、ふたりの友情は、季節の移ろいとともに育まれていった。
冬が終わり、やがて再び春が訪れた頃、アグネスさんの体はすっかり弱ってしまっていた。咲きはじめたスノードロップを一緒に見ようと、キャサレナはある方法を思いつき……。
引っこし先で出会ったのは、お隣のおばあさん、アグネスさん。アグネスさんは、庭づくりや家が好き。私は絵を描くのが好き。
自然に囲まれた、広く静かな風景の中で、感性を響き合わせる女の子と隣の家のおばあさん。夏に出会い、秋、冬と季節が移りかわる中で心を通わせながら過ごしていくふたりの時間の尊さが、読む人の心の奥底に染みわたってきます。ふたりはともだちになったのです。
作者は、カナダの先住民クリー族の文化をテーマに数多くの作品を発表している、作家で画家のジュリー・フレット。最後の場面で控えめな光を放つ、クリー語で「カエルの月」と呼ばれる4月の満月の美しさが、いつまでも心に残ります。
ふたりが過ごした時間は
アグネスさんの家に行き、一緒に体を動かしたり、話をしていると、もう帰り道には絵が描きたくて指がむずむずしてくるキャセレナ。キャセレナの描いた絵を見て、「わたしの心にむけた 詩みたいね」と言うアグネスさん。大切なともだちに出会うことのできたふたり。ふたりがかわした最後のおしゃべりは、どんな内容だったのでしょう。そんなことを想像しながら、絵本をまた最初から何度も読み返してしまうのです。
この書籍を作った人
カナダの作家、画家、イラストレーター。カナダの先住民族クリーの父とヨーロッパ系の母をもつメティス。コンコルディア大学、エミリー・カー芸術大学などで美術を学んだ。先住民族をテーマに数多くの作品を発表。『わたしたちだけのときは』(デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン文)で2017年カナダ総督文学賞受賞。『アグネスさんとわたし』で2020年TDカナダ児童文学賞受賞。作品を通してクリー語の保存につとめている。バンクーバー在住。
この書籍を作った人
子どもの本の翻訳家。埼玉県生まれ、山形県在住。訳書に『わたしたちだけのときは』『ほしのこども』『目で見ることばで話をさせて』(以上、岩波書店)、『きょうはふっくら にくまんのひ』(偕成社)、『地球のことをおしえてあげる』『わたしの心のなか』(以上、鈴木出版)、『きみは たいせつ』(BL出版)、『ジュリアンはマーメイド』(サウザンブックス社)など。JBBY会員。やまねこ翻訳クラブ会員。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。