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インタビュー
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2024.01.31
絵本作家・とよたかずひこさんの絵本づくり40年を記念した連載、今回も、とよたかずひこさんとお仕事されている編集者の方にご登場いただきます。
第5回目は、乗り物好きな子の心をぐっとつかむ「うららちゃんのおでかけえほん」シリーズや「ポッポーきかんしゃ」シリーズを出版するアリス館の湯浅さやかさんです。
この書籍を作った人
アリス館編集部所属。研究の道を志し大学院に進学するも、入学わずか3ヶ月後に指導教官が病気で亡くなり、その後の人生途方にくれる。修了、就職を目指し、縁あって児童書業界へ。2003年アリス館に入社。赤ちゃん絵本、ナンセンス絵本、ノンフィクションの読み物などいろいろな本の編集に携わる。編集の傍ら、歌や手遊びを交えた読み聞かせ活動をこじんまりと行い、充実した日々を過ごしている。
───アリス館さんでは「うららちゃんのおでかけえほん」シリーズをはじめ、「ワニのバルボン」シリーズ、「あかちゃんのりものえほん」シリーズ、「めんこいあかちゃん」シリーズ、「はなしかけえほん」シリーズ、そして最近の「ポッポーきかんしゃ」シリーズまで、実に多くのシリーズを出版されています。湯浅さんは、いつからとよたさんの担当として、絵本作りをご一緒されているのですか?
編集担当としては、「あかちゃんのりものえほん」シリーズの『コトコトでんしゃ』からです。かかわりは、その前年に出版した大型絵本『でんしゃにのって』の制作からになります。とよたさんとの出会いは、私がアリス館に入ってまもない2003年ごろで、絵本専門店「クレヨンハウス」での保育士さんたちの研究会です。研究会のあとに、有志で食事へ行ったのですが、確かそのとき、とよたさんが隣の席で、たくさんお話をしました。私が新人で、食事の場でもポツンとしていたので、気を遣ってくださったんだと思います。
───とよたさんがとても好奇心旺盛で、いろいろなことに興味を持っていらっしゃることは、ほかの編集者さんのお話しからもすごく伝わってきます。大型絵本『でんしゃにのって』の制作からとよたさんとお仕事をされてきたということですが、打ち合わせの中での印象的なエピソードがありましたら教えてください。
大型絵本『でんしゃにのって』の制作でとよたさんのアトリエに伺ったとき、『コトコトでんしゃ』のダミーがアトリエの本棚に飾ってあったんです。「これなんですか?」ってお尋ねしたら、そのダミーを読んでくださいました。 「もっと判型を小さくして、赤ちゃん向けの乗り物絵本にしたらどうでしょう」と言うと、とよたさんがニコニコして、「それいいね! そうしよう」と。 次にうかがうと、今発売している『コトコトでんしゃ』とほぼ同じダミーができていました。そこからはトントン拍子で出版まで進みました。
───「うららちゃんのおでかけえほん」シリーズや「あかちゃんのりものえほん」シリーズ、「ポッポーきかんしゃ」シリーズなど、アリス館さんで出版されているとよたさんの作品は、乗り物が登場する絵本が多いように思います。なぜ、乗り物が登場する絵本が多いのか、とよたさんに聞いたことはありますか?
とよたさんのお話では、『でんしゃにのって』のダミーを見つけて出版まで進めてくれた、当時28歳の担当編集者の存在がとても大きいそうです。それでアリス館からは乗り物をテーマにした絵本を出版していこうと考えられたとおっしゃっていました。
───そうなんですね。その編集者さんがいらっしゃったから、数々の乗り物絵本が生まれたんですね! 今、湯浅さんは20年以上とよたさんと絵本作りをされていますが、特に印象に残っている作品はありますか?
やはり、はじめて担当した『コトコトでんしゃ』です。『でんしゃにのって』の担当者が退職してからとよたさんの新刊がアリス館から出版されておらず、久しぶりの新刊でした。当時の社長がとてもはりきって、発売前にパイロット版を作って書店さんに配ったりしました。 「コトコトコトン コトコトコトン」という電車が走る音が心地よくて、妊娠中も読んでいましたし、子どもが産まれて一番最初に読んだのもこの絵本です。
───「めんこいあかちゃん」シリーズは、表紙を見るだけで笑顔がこぼれるような、みんなニコニコ笑っている表紙がとても印象的だと思いました。シリーズを通した表紙の色も4色あって、とても華やかだと思います。この作品はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
「あかちゃんのりものえほん」シリーズが完結し、次作は「顔」をテーマにした内容にしましょうという話になっていました。ですがそのとき、私の産休が近づいていて、とよたさんに育休明けるまで、待っていてくださいってお願いしたんです。とよたさんは「編集者を待たせる大作家さんはたくさんいるけど、作家を待たせる編集者さんは貴重だなぁ」って笑ってらして。その後出産し、育児休暇中に赤ちゃんを連れて、とよたさんのアトリエに遊びに行きました。こうして改めて思い出すと、迷惑な編集者ですよね(笑)。でも、とよたさんは、新作のダミーを作って待っていてくださったんです。それが「めんこいあかちゃん」シリーズ1作目の『ぷるんぷるんおかお』です。
出版社からの内容紹介
りんごさんが、ぷるんぷるん ぷるる〜ん と、おかおをあらって、ばあ〜 いいおかおをします。くるまさん、あかちゃんも顔を洗って、いいおかお。あれ、ねこちゃんは?
いないいないばあが大好きな赤ちゃんが大喜び。
赤ちゃんも安心、本の角が丸くなっています。
───「めんこい」という表現が赤ちゃんを愛情深く見ているようであたたかい気持ちになります。シリーズ名はとよたさんと湯浅さんで考えられているのでしょうか? とよたさんから提案が来るのでしょうか? 「めんこいあかちゃん」というシリーズ名がどのように生まれたのか教えてください。
最初にいただいたダミーのときから「めんこいあかちゃん」というシリーズ名がついていました。とよたさんは仙台ご出身で、子どもに対して「めんこいなあ」とか「めんこい子だな」などと使うそうです。そこから「めんこいあかちゃん」というシリーズ名になりました。
シリーズ名は、とよたさんがお決めになることが多いですが、シリーズ名どうしましょう?と言ってから考えることもあります。最後までシリーズ名が決まらず、タイトルがそのままシリーズ名になったのが「ポッポーきかんしゃ」です。
───「ポッポーきかんしゃ」シリーズは2020年から現在も続いている作品ですね。とよたさんの乗り物絵本の中でも、今までになかった機関車のおはなし、しかも雪道も難なく走れて、ラッセル車にもなれるキャラクターの登場に、小さいお子さんの目が輝いています。このシリーズはどのようにして生まれたのですか?
『ポッポーきかんしゃ』の制作は、まさにコロナ渦が始まった頃。不要不急の外出を避けるよう言われて、在宅で過ごす時間が増えました。
絵本の中でくらい、外出したい、旅に行きたい!という気持ちから始まってます。だからポッポーくんは、雪道だってなんのその、どこへでも行けるんです(笑)。
みどころ
朝、お顔を「きれい きれい」して出発した機関車。
顔をふいてくれたのは、相棒の、赤いかわいいだるまさんです。
「ポッポー ポッポー
ガタン ゴトン
ガタン ゴトン
ポッポー ポッポー」
だるまさんを乗せて進んでいくと、前のほうから、ニャアニャアー、ワンワンと何かのなきごえ……。
後ろの車両に乗ってきたのは、ねこさん、いぬさん。
みんなでにぎやかにまた走ります。
「ガタン ゴトン
ポッポー ポッポー」
ニャアー ニャアー
ワン ワン」
雨がふってきて、ねこといぬが降り、雨が大好きな誰かさんたちが乗ってきて……。
雪がふって、今度は寒いのが好きな誰かさんが乗り、最後はあったかいおひさまが出てきて……。
次々乗客が変わるおもしろさ、動物やあかちゃんの愛らしさに引き込まれます。
おしゃれでほっとする色彩、のどかで心地いい言葉や、絵の線など、おすすめポイントがいっぱい。
大人だってファンになっちゃう、とよたかずひこさんの作品を味わってくださいね。
とよたかずひこさんといえば「ももんちゃんシリーズ」が有名ですが、乗り物の絵本もいろいろ描かれています。
「あかちゃんのりものえほん」全4巻、『コトコトでんしゃ』『ブーンブーンひこうき』『ブップーバス』『ポンポンおふね』もあわせてどうぞ。
───コロナで外出が制限されていた期間から、このような楽しいおはなしが生み出されるなんて……とよたさんのアイデアのすごさを改めて感じるエピソードですね。シリーズ名といえば、「はなしかけえほん」シリーズ。「読み聞かせ」という言葉を耳にする人が多いと思いますが、「はなしかけ」はとても新しい言葉だったと思います。ページをめくってみると、まさに読みながら子どもに話しかけているような、リズミカルな文章と絵の展開がとても心地よい作品です。「はなしかけ」という言葉に込めたとよたさんと湯浅さんの思いをお聞かせください。
何かの記事で言葉が通じない赤ちゃんにどう話しかけていいかわからないお母さんが増えているというのを読みました。空を見上げて「いい天気だね」とか「雨降ってるね」と言っても、赤ちゃんは答えてくれないし、そこで会話が終わってしまう。絵本を読んでも、赤ちゃん絵本は大抵短くて、すぐに読み終わる、と。そのとき、私はもっと絵本で遊んでくれたらいいのにって思いました。絵本に書いてある文章だけでなく、絵を見ながら、いろいろなことを赤ちゃんに話しかければいいのに、って。それをとよたさんに話したら「絵本に慣れている人はできるけど、そういうことができない人もたくさんいるよ」って言われて。それで、絵本を読んだら、それがそのまま赤ちゃんに「はなしかけ」ている文章にしたらいいんじゃないかということになり、「はなしかけえほん」が生まれました。書体も手書き風の文字を使ったり、今までとちょっとちがう赤ちゃん絵本を目指しました。
─── 手描き風の文字も、よりあたたかい感じがしますね。このシリーズは、ゆびさしや、小さい赤ちゃんが周りを認知すること、食育に関することなど、赤ちゃんの生活に寄り添ったテーマで作品を作っているように感じました。テーマについてとよたさんから相談などはあったのでしょうか?
あまり具体的に、この内容でってお伝えすることはないです。「はなしかけえほん」は、参加型絵本なので、赤ちゃんが参加しやすいテーマというのをとよたさんが心がけられたのだと思います。紙芝居の作り方に似ているっておっしゃっていました。紙芝居を元にした絵本もあります。それが『ゆびさしな〜に?』です。
出版社からの内容紹介
「あっあっ」赤ちゃんがゆびさししているよ? ゆびさしな〜に? 1歳前後で始まる「ゆびさし」をテーマにした参加型絵本。テキスト通り読まなくても大丈夫。絵を見ながら、いっぱいいっぱい話しかけてくださいね。
出版社からの内容紹介
「こけしちゃーん のせてくださーい」やってきたのは、犬さん、猫さん、魚さん、牛さん……。ポッポーくんに乗って着いたのは、桜の木の下。みんなでお花見です。「ポッポーポッポー」「のせてくださーい」繰り返しが楽しい絵本。
───最新作の『ポッポーきかんしゃ はなさんぽ』は、新春から春の雰囲気を感じる一冊。これからの季節にぴったりですね。湯浅さんが最初に『ポッポーきかんしゃ はなさんぽ』のラフを読んだときの感想を教えてください。
ポッポーくん、家の中を走るんだ!と驚き、畳のへりが線路で置物たちがポッポーくんに乗ってくるなんておもしろい!と思いました。最後の桜の景色のページがとてもきれいで、印象的でした。
───『ポッポーきかんしゃ はなさんぽ』を制作している中でのとよたさんとのやり取りで、特に印象に残っているエピソードがありましたら教えてください。
とよたさんが作るダミーは、本と同じ大きさで、絵には色も塗ってあり、ほとんど完成に近い状態です。それを読み聞かせしていただくのですが、初めての読者としてききながら、また同時に編集者としてこの本の本質を読み取ろうと思います。『ポッポーきかんしゃ はなさんぽ』のダミーをはじめて見たときは、家に飾ってある置物たちが動き出してポッポーくんに乗るというアイデアがおもしろい思いました。でも対象年齢の子どもを考えたときに、既刊と比べて内容がちょっと難しいんじゃないかと。 また、最初のダミーのときに、ポッポーくんに乗ってくる牛がホルスタインでした。白と黒の牛が、赤べこに戻ることに違和感を感じて、お伝えしたところ、茶色のジャージー牛に変更することに。もうひとつ、違和感を感じたページがあって、それはP24の全員が置物に戻るページです。
なぜ違和感を感じるのかが最初はわからなくて、「このページが気になります」って言ったんです。二人で考えているうちに、とよたさんが、ポッポーくんといつも一緒のだるまちゃんも置物になっているのが気になるんじゃないかっておっしゃって、ダミーを修正していただきました。そして読んだら、すごーく腑に落ちて。 赤ちゃん絵本の名手であるとよたさんが、推敲して作るダミーは、表紙を見ただけで、ワクワクします。その素敵さに、これでいいんじゃないかってすぐ思ってしまうんですが、それだと読者なので(笑)、編集者として、はじめて見たときの小さな違和感を見過ごさず、やりとりしながら、納得する形にしていくことで良い絵本になっていくんじゃないかと思います。
─── 編集者の湯浅さんと、とよたさんが作品と真摯に向き合って、絵本作りをされていることがよく分かります。そんな湯浅さんがご自身が編集をされた作品以外で好きなとよたかずひこさんの絵本を教えていただけますでしょうか。
『そらのおふろやさん』です。当時9ヶ月だった娘はカラスのページが大好きでした。私は、「カーカーカラスはまっくろけ きれいになってもまっくろけ」というページが好きです。娘の言葉が出るようになると、「カーカー」「カーカー」と指差して教えてくれて、かわいいなあと思って、もっと好きになりました。またこの絵本は、インクがツヤツヤと光っていてとてもきれいな印刷だったので、特別なインクで印刷したのかと、チャイルド本社の加藤さんに思わずお尋ねしました。とても思い出深い本です。
───最後になりますが、とよたかずひこさんへ、絵本づくり40周年へのメッセージをお願いします。
とよたさん、絵本づくり40周年おめでとうございます。とよたさんのあたたかい人柄、作品に対する真摯な姿勢、好奇心あふれるその眼差しに、たくさん助けられ、そして学んでいます。これからも一緒に絵本を作らせてください。よろしくお願いします!
─── ありがとうございました。