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- ためしよみ
絵本紹介
2021.06.19
病室のベッドの大きさは、たて約二メートル、幅約一メートル。その周りをぐるりと囲うカーテンの中が入院中のわたしの世界のすべてーー。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信を持っておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは『二平方メートルの世界で』。実在の小学3年生が書いた作文から生まれたこの絵本、このいったいどんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。 そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「Nextプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
病室のベッドの大きさは、たて約二メートル、幅約一メートル。
その周りをぐるりと囲うカーテンの中が入院中のわたしの世界のすべてーー。
札幌に暮らす小学3年生の女の子、海音ちゃん。彼女は、脳神経の病気の治療のために、3歳の時から定期的に入退院を繰り返している。彼女は大抵の事は「わかっている」。なかなか効果の出ない治療だという事も、もっと痛い思いをして検査を受けている子がいるという事も、家族の住まいがバラバラになってしまう家があるという事も。どうしてわたしだけ、とは思わない。
だけど、やっぱりつらい気持ちになる事がある。孤独を感じたり、怖くなることだってある。「もういや!」「薬を飲まなくていい日をください!」内から生まれるたくさんの言葉を飲みこむのは、家族みんな、それぞれが思いを抱えていることを知っているから。そんなある日、彼女の目に思わぬ光景が飛び込んできた……!
作者は小学5年生、前田海音さん。彼女が3年生の時に書いた作文が 「子どもノンフィクション文学賞」を受賞し、絵本作家はたこうしろうさんとのコラボレーションにより、この一冊の絵本が誕生したのです。海音さんが見ている街や学校の風景、病院の様子。そして彼女の口から語られる言葉は、一つ一つどれも重みがあり、まっすぐに読む人の心に刺さってきます。けれどもそれは、悲しみだけではありません。私たちみんなが覚えておきたい、大切なことばかりなのです。
「ひとりじゃないよ」
ベッドの上で海音さんの見つけた大事な発見。それは、備え付けのテーブルの裏の落書き。今はどうしているかもわからない、誰かの言葉が私に話しかけてくれていたのだ。
彼女は言います。
「明日のことがだれにもわからないのは、病気があってもなくても同じだと思う。」
だからこそ、この一日を過ごすことの大切さを知り、この瞬間に感じたことを言葉にし、心にきざむのです。きっと違う誰かに届いていくことを願いながら……。
誰かのことを知ること
みんなと同じようにランドセルを背負い、元気に登校する彼女。でも年に何度も大学病院に入院し、検査を繰り返している。良い結果がなかなか出ず、奇跡だっていまのところ起こらない。そんな状況であることは、本人から聞かない限り、なかなか伝わってくることではないのです。でも、彼女はとても冷静に、切実に、その心の奥底にある自分の気持ちを、私たちに語ってくれています。
それをまっすぐに受け取り、彼女のことを思い、また同じような立場にいる子のことを想像し、さらに自分の状況にも置きかえてみる。そうやって、誰かのことを知ろうとする努力こそ、今大事にしたいですよね。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアで「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。