この春、『号泣する準備はできていた』で直木賞を受賞した江國香織さん。いまもっとも脂ののった作家のひとりですね。 江國さんが最初の本『こうばしい日々』を出されたとき、私はなりたての編集者でしたが、行く先々でお名前を耳にしていたことをよく覚えています。『こうばしい日々』をはじめ『ぼくの小鳥ちゃん』などでも児童文学の賞をつぎつぎとられていって、あるとき、紫式部文学賞授賞式の写真を雑誌でみつけました。その受賞作『きらきらひかる』に始まる小説世界でのその後のご活躍はご存知のとおり。『落下する夕方』も『神様のボート』も近刊の『スイートリトルライズ』も・・・何度読んでもいいのです。本というものがあってよかったなとしみじみ思うのです。 江國さんは、小説のみならず、エッセイ集も、詩集も、絵本も、絵本に関する本も、絵本の翻訳もたくさん出されています。言葉のもつ力、言葉のつくりだす世界がこんなに豊かで素敵なものなのだということを感じさせてくれるのですね。 今回の『ジャミパン』は、短編小説集の中の一つを絵本の形としてつくらせていただきました。 短編集の中の1篇として読んでいるときとはまたちがった、一つの作品としての空気、世界を、言葉と絵の世界で丁寧につくり出して味わいたいと思いました。 小説として完結している作品をあえて絵本という形にしたのですから、絵描きさんにとっては かなりシビアなことです。そこは、さすが宇野亜喜良さんなのです。江國さんの最初の絵本も宇野さんでした。(宇野さんのコメント読んでくださいね→特集へ) 『ジャミパン』に描かれている、少女がみつめる大人への視線はかつての自分の中にもたしかにあったし、だからぞくぞくと引き込まれてゆきます。ふたりとも、何にも媚びていないのがよいし、自分が自分であることがやっぱりかっこいいのだと思うのです。お読みになったら、きっと、魅力的な大人になりたい、という気持ちにさせられます。
「ジャミパン」が「ジャムパン」のことだと分かった時、この不思議な物語が始まります。
父親を知らない娘とシングルマザー。
母親の弟を父親として「やりくり」した子供時代。
娘から見る母親は、親という言葉を飛び越えて肉感的です。
不思議な生活の中の、断片が描かれています。
もとは短編小説だったという説明ですが、娘の感性のひだが隅々まで張り巡らされていて、少々投げやりな性格、自分の境遇のニヒルに見つめている姿勢、ちょっと「絵本」の世界からは離れているかもしれません。
そこに宇野亜喜良さんの感性的で詩情感たっぷりの乾燥した絵が加わって、かなり背伸びした絵本になりました。
江國香織ファンのためのヤングアダルト絵本。
成長期の少女の感覚に響くのではないでしょうか。 (ヒラP21さん 50代・パパ )
|