1918年6月1日、徳島県鳴門市の板東俘虜収容所……。ドイツ兵俘虜(捕虜)たちによって、ベートーベン交響曲「第九」が、アジアで初めて全曲演奏されました。初演の背景には、俘虜に対する人道的な配慮を行った松江豊寿所長の存在がありました。彼はドイツ兵俘虜に対して、「彼らも祖国のために戦ったのだから」と、俘虜の住環境の改善などについて上官に粘り強く交渉し、最後までその姿勢、信念を貫いたのです。
後年、板東俘虜収容所の元俘虜であったパウル・クライ氏は、次のように言っています。「世界のどこに、バンドーのような収容所があったでしょうか。世界のどこに、マツエ大佐のような収容所所長がいたでしょうか」。
なぜ、鳴門市では「第九」を皆歌うのか。……本書は、主人公の転校生・愛子が感じたこの素朴な疑問に、ドイツ兵俘虜の「私」が当時を振り返る形で答えます。
日本初の「第九」演奏会から百年にあたる年の記念すべき発刊!
年末に歌われる交響曲「第九」が日本で初めて歌われた事と、ドイツ兵俘虜収容所との関わり、それが百年も昔の出来事だったことを初めて知りました。
収容所というと過酷な生活を想像するのですが、なんともおおらかな、ひとつの文化圏のようにして存在したことにも驚きを感じました。
図書として紹介されていたならば、たぶんたどり着くことのない史実と、絵本を通して巡り会うことのできる幸せを感じた一冊です。
絵本はいろんな出会いを作ってくれます。 (ヒラP21さん 60代・パパ )
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