女の子のノンちゃんは神社の境内にある大きなモミジの木に登りますが……。 戦後出版されると同時に多くの読者に感銘を与えた名作。 今も変わらぬ新鮮さに溢れた日本童話の古典です。
ロングセラーですので、私が子どもの頃、図書館に数冊並んでいたような本だったと思います。
なのに、なぜか読んだことがありませんでした。
おそらく、明朝体?の線の細い活字がずらっと並んでいるのを見て、読み通せる自信がなかったのだと思います。日本の長編物語は悲観的で、欧米の物語にあるような前向きな姿勢がないという先入観もありました。
装丁も、挿絵もアーティスティックに振りすぎて、今の私にとっては好みなのですが、子どもの頃の私は魅力を感じなかったのでしょう。
もう少し文字の線が太い本はたとえ長編でもいくらでも読んでいたのですけどね…
さて、大人になってこの本を手に入れ、読んでみて、なぜ、子どもの頃に読まなかったのだろうと少し後悔しました。
主人公は子どもの頃の私にそっくりで、これほど共感できる相手もいなかったのではと思います。
雲の上の世界のできごとを描いたファンタジーであり、しかしそこで語られる内容はノンちゃんの日常であり…と、独特な構成が魅力的です。
また、ヨーロッパ的なファンタジーではなく「高砂のおじいさん」という極めて日本的な登場人物がノンちゃんと読者をファンタジーの世界に誘うのも素敵です。
真面目な優等生のノンちゃんと対照的な自由奔放なお兄ちゃん。高砂のおじいさんはお兄ちゃんの視点に立つことの大切さをノンちゃんに教えてくれます。立場の違いを考え、相手のことを思いやること。今の日本では果たしてどのくらいの大人がそれをできているだろうかと思います。
それから、「嘘をつかない」ということ。とても大事なことだと皆分かっているはずなのに、こちらも軽視している大人が多い気がします。
嘘をつかないという態度がどれほど大切か、そのことが非常に印象深く描かれている点も心に残りました。
最近、決してそのような教訓めいたことを表には出さずに、面白いストーリーの奥にそのような価値が感じられる物語の重要性が増しているような気がしてなりません。そのような意味でも心に留めておきたい作品です。
読み終えたあと何とも言えない気持ちになり、高校生の娘にも勧めました。娘も溜め息混じりに、この本が好きだと言っていました。
私がすっかり石井桃子さんのファンになってしまった一冊です。 (てんちゃん文庫さん 40代・ママ 女の子18歳、男の子15歳、女の子10歳)
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