かむもかまぬも神だのみ めちゃヘンな早口ことば(小学館集英社プロダクション)
これ、言える? 言えたらヒーロー! みんなで遊べる! 一瞬で噛んじゃうヘンテコ早口ことば!
インタビュー
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2021.08.05
子どもへの性被害の実態が明らかになってきた近年、子どもを性被害から守る方法や手段へのニーズが、社会の中で高まっています。『パンツのなかのまほう』は、幼い子どもたちでも理解できる楽しいお話を通して、子どもたちに、大事な身体を守ること、そして、被害にあった場合にはどうしたらいいのかを、具体的に伝えられる物語です。
同時に大人に対しても、子どもを救うために必要な、適切な対応方法を具体的に伝える、「実用書」でもあります。著者のなかがわさやこさんに、制作の経緯や物語にこめた思いを伺いました。
出版社からの内容紹介
子どもを性被害から守る絵本
楽しいお話を通して、「深刻な性被害に遭わないように、自分の体を守り、なにかあったら、すぐ信頼できる大人に言う」ことを、子どもたちに直接伝える絵本です。
この書籍を作った人
毎日新聞記者を経て、障がいのある人たちのアートをブランド化するプロジェクトに取り組んだ後、英国エセックス大経営大学院修了(マーケティング&ブランド・マネジメント)。尊厳が守られる社会を目指して研究と創作をする傍ら、University Centre ColchesterとColchester Instituteで教えている。一女の母。
この書籍を作った人
絵本作家・イラストレーター。猫2匹と暮らしている。作品に『どうぶつせけんばなし』、『画集 小八』(以上、えほんやるすばんばんするかいしゃ)、『おべんとういっしゅうかん』(学研プラス)、『うろおぼえ一家のおかいもの』(理論社)、『名前のないことば辞典』(遊泳舎)などがある。
ーー『パンツのなかのまほう』を制作するきっかけはなんでしたか?
私が新聞記者として関わった、障がいのある女子児童たちが、担任の男性教諭から繰り返しわいせつ被害を受け、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した、2003年の事件です。
取材を通して、学校、教育委員会、裁判という日本社会を構成する組織の構造的な問題と、責任から逃れるために問題を隠す大人たちの隠蔽体質の実態が明らかになりました。そうした問題について、繰り返し記事を書きましたが、残念ながら具体的な変化を生じさせることはできませんでした。
ーーそうだったんですね。確かに社会の構造を変えるのは、並大抵のことではありません。取材では、ほかにどんなことがわかりましたか?
取材を通して、子どもへの性暴力の問題に取り組むたくさんの人たちと出会い、それまで知らなかった実態を知りました。当時は、実の父親が加害者になるケースがあることも、赤ちゃんと言ってよいほどの小さな子どもが被害に遭っているということも現在ほど知られておらず、私自身も知らなかったので、衝撃を受けることが多かったです。それで、その後もずっと、「子どもへの性暴力の問題を解決するにはどうしたらいいのだろうか」という問いを抱えながら、子どもの性被害に関する情報を気にかけてきました。
ーーどんな情報を見聞きしましたか?
事件として明るみになっているものはもちろんですが、インターネットに投稿された、「自分もこういう被害を受けた」、「こういう理由で言えなかった」、「こういう反応をされて傷ついた」という体験談を、できる限り多く読むようにしていました。そうしてたくさんの事例に触れる中で、一定のパターンがあることに気づきました。子どもは、被害を受けたときに加害者から脅されたり、大人に言っても自分が怒られるのではと思ったり、恥ずかしい、またはされたことの意味がわからなくて、被害を訴えることができないんですね。
ーー加害者と2人きりの密室で行われ他に目撃者がおらず、被害者自身がだれにも訴えることができない状態では、子どもの身になにが起きているのか、周囲が把握するのはかなり難しいと思います。
そうなんです。子ども自身が被害を訴えられない場合が非常に多いため、被害救済もされず、成長と共に心の傷が悪化し、人生に甚大な悪影響を受けてしまいます。被害を誰かに打ち明けることができた場合でも、まるで被害者に非があるかのような心ない言葉を言われたり、不適切な対応をされてさらに傷つくケースもとても多いです。そこで、子どもの性被害の問題を解決するには、「子どもが被害を伝えることができない問題」と、大人が子どもの話を信じないことや、適切な対応を知らないために起きる「被害が適切に対応されない問題」のふたつを、同時に改善する必要があると考えるようになりました。それを子どもにどう伝えたらよいか。自分自身の子育てを通して、子どもに直接たくさんのことを伝えられる「絵本」に、その解決の可能性を感じるようになりました。
ーー絵本のタイトルにもなっている「パンツのなかのまほう」という言葉には、どんな意味がこめられていますか?
ひとつは「生まれた時から誰もが持っている性にまつわる尊厳」、もうひとつは「大人になった時の、幸福な性体験につながる性」です。性暴力は「性にまつわる尊厳」を奪う犯罪とも言えると思います。しかしきちんと被害を訴え、適切な対応をしてもらい、傷ついた心と体をきちんとケアしてもらえれば、取り戻せるものなのです。そして加害者は、「パンツのなかのまほう」を盗む存在なので、「まほうどろぼう」としました。
ーーおはなしやイラストのイメージは、どんな発想から生まれたのでしょうか?
絵本は、子どもが読んで楽しいものである必要があります。そこで、子どもが興味を持ったり喜んだりするアイテムや、わくわくする動きや展開はなにかを知るために、子どもたちを意識的に観察するようになりました。その中で、中身がわからない箱を見つけるところからおはなしが始まることや、リスやまほうなどのアイテムを登場させることは決めていました。でも全体の物語は、 “天から落ちてきた”という表現がぴったりのように、突然ひらめいたのです。その日、ショートスリーパーで、普段はなかなか眠らない我が子が珍しくバギーの中で寝て、乗るはずのバスも全然来ないという状況が起きました。小さな子どもの育児中には珍しく、ポッカリと頭も両手も空いた瞬間、鮮明なイメージと共に物語が“落ちて”きたのです。「パンツのなかのまほう」という言葉も、この時にいっしょに落ちてきた言葉です。
ーー絵本づくりで苦労したところはなんですか?
実は『パンツのなかのまほう』の物語は、4年ほど前にできあがっていたのです。でも「性被害」というテーマを扱っていることや、売り上げの目処が立ちづらいという理由で、なかなか出版にまで至りませんでした。それでも「この絵本は社会に必要とされている」という確信のような思いがあり、時間がかかっても、理解してくれる出版社が見つかるはずだと思っていました。そしてご縁があり、かもがわ出版から発売する運びになったのです。出版先を探していた数年の間に、子どもの性被害に関する意識や関心が日本でも高まり、偶然にも、政府がこの問題への取り組みを活発化させるタイミングとも重なりました。幸いにも、結果としてベストの展開になったと感じています。
ーー絵本づくりでは、どんなことに気をつけましたか?
子どもの性被害は、一般論として話すことすらタブーになっている面があると思います。でも、親子間でも話題にできないという風潮が、結果的に被害を埋もれさせ、加害者を放置させてしまうという、最悪な状況をもたらしてしまっています。
残念ながら、「性被害」は、いつ、どこで、誰の身の上に起きてもおかしくない、ごく日常に存在するという現実があります。なので、交通事故を防止する教育や日常の声かけと同じように、「性被害」を防止する行動も、ごく当たり前のようにできる社会になる必要があります。だから『パンツのなかのまほう』は、そういった「タブー視」を取り除くきっかけになるように工夫しました。
ーーどんなところを工夫しましたか?
当然と言えば当然ですが、「性暴力」や「性被害」という言葉には、どうしても暗いイメージがつきまといます。でも、だからこそ、この絵本は前向きで明るいポップなものにしたいという希望がありました。そして、優等生的ではなく、ユーモアを感じさせてくれる楽しい絵柄がいいというのが、私の希望でした。でぐちかずみさんの絵は、そのイメージにぴったりだったのです。
ーーでぐちさんは『どうぶつせけんばなし』(えほんやるすばんばんするかいしゃ)や『おべんとういっしゅうかん』(学研プラス)、『うろおぼえ一家のおかいもの』(理論社)などを手がけている作家さんですね。はなとそらは、性別を感じさせないごくフラットな子どものイメージの絵でかわいらしいですし、「まほうどろぼう」の絵も“悪者”のイメージとして描かれているので、読んでいる子どもたちが過度に怖がらずに読むことができそうです。
具体的な人物を連想させない、とても良い表現ですよね。でぐちさんが物語からイメージを膨らませて描き出してくださった場面は多いのですが、この表現もそのひとつです。どのページも、でぐちさんの絵柄の持ち味とアイディア、優しい表現が加わって、とても素敵な絵本になりました。リスから「パンツのなかのまほう」を守る方法を学んだはなとそらが、リスのまほうで雲の上へ連れて行ってもらうシーンがあるのですが、よく見ると、雲がパンツの形になっていて、とてもチャーミングですよね。これはでぐちさんのアイディアなのですよ。
ーー「信頼できる大人」として描かれた3人のイラストが、すごいなと感じました。この3人の中で、本当に信頼できそうな大人はだれか。絵本を通して子どもといっしょに大人も考え、意見を話し合ってみるのもいいかもしれませんね。
そうですね。「性被害」そのものはとても辛いことであり、「性犯罪」は絶対に許せません。だからこそ、「性被害を防ぐ」、「性被害を救済する」という行動自体は、誰もが抵抗なく取り組めるよう、前向きで明るいものにしたい。性暴力から子どもを守る取り組みが、交通指導と同じように当たり前のこととして、もっとオープンに取り組まれるきっかけになってくれることを願っています。
ーー最後に絵本ナビ読者にメッセージをお願いします。
絵本の巻末には、「信頼できる大人の方」に向けた解説と、子どもから性被害を打ち明けられた場合の対処法、そして性的虐待を受けている子どものサインなど、大人ができる具体的な行動指針を掲載しました。このインタビューを読んでくださっているみなさんは、まさにその「信頼できる大人」の方々であろうと思います。そんなみなさんにぜひ、子どもたちが性暴力によって人生を奪われることのない世の中になるように、ご協力をお願いしたいと思います。
子どもたちに幸せな子ども時代を送ってもらうことが、世の中全体を良くするもっとも効果的で確実な方法であることは、世界中の研究・調査でも裏付けられています。目の前にいる、困りごとを抱えた子どもを救うことは、目に見える以上に、非常に大きな社会全体への貢献です。ぜひ、子どもたちの「パンツのなかのまほう」を守り、盗まれてしまった時には、取り戻してあげてください。
文責:中川紗矢子
編集:(絵本ナビ編集部)