そのこぶしを動かしていたのは… 『ボクサー』 【NEXTプラチナブック】
ボクサーは、打って、打って、打った。 子どもの頃から、なんでも打った。
ハートの刺繍がされた父の形見のグローブをはめ、草原を、雲を、木を。昼も、夜も、何年も。すべてを打ちくずし、粉々にし、やがてハートの刺繍は色あせ、それでも彼は打ちつづけた。打つことが楽しくて仕方がなかったのだ。そうしてある日のこと、ボクサーの動きが止まった。打つものがなにも残っていなかったんだ! その時、彼は初めて考える。
「父さんは、どうしてボクシングを教えてくれたんだろう」
見あげるほど大きな体に、長い手足。一心不乱に打ちつづけるボクサーの背中は山のように盛りあがり、そのこぶしはどこまでも伸びていく。迫力のあるその姿は、寡黙であり、近寄りがたくもある。ところが、その背景に描かれる街の様子や自然の景色のなんと豊かで美しいこと。
第27回ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)でグランプリを受賞したこの作品が生まれたのは、言葉と詩の国であるイランから。孤独なボクサーのこぶしの先にあるものとは? 一度立ちどまってから見えてくるその世界の変化とは? 力強い言葉や伸びやかで自由な色彩に込められているのは、どんな感情なのでしょう。
私たちは、その魅力ある繊細な表現を味わいながら、様々なことを想像し、考えるのです。「世界と出会う絵本」シリーズの第一弾。イランという国に興味を持つ、そのきっかけとなる1冊になってくれそうです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
第27回ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)グランプリ受賞作品の邦訳!
父の形見のグローブをはめ、打ちつづけた孤独なボクサー。ボクサーのこぶしの先にあるものは? 父が打ちつづけた理由とは?
ページをめくると、目に飛び込んでくる色鮮やかでパワフルな絵。著者ムーサヴィーさんの魅力を存分に感じていただける絵本です。
イランの絵本は世界で非常に注目されています。世界的な絵本原画コンクールで高く評価されているアーティストがたくさんいます。繊細ながらも力強く、独特な魅力に満ちあふれたイランの絵本をぜひ手にとってみてください。
本書は、世界の隠れた名作をお届けする「世界と出会う絵本」シリーズの第一弾です。
【推薦コメント】 言葉と詩の国イラン。イランの本屋さんに行くと、一冊一冊の香りが漂ってきて、愛おしくてたまりません。(俳優 サヘル・ローズさん)
絵本ナビサイトの「みどころ」を読んで、興味を持ちました。
ボクサーの一生を、大胆な構図で描いた作品。力強く、ちょっと物悲しい感じもする場面たちが、心に残ります。
「さいしょのレッスンはこぶしをあげるまえに、そのこぶしがなにを打つのか考えることだ」というセリフがかっこいいなと思いました。
大人にもおすすめの作品です。 (クッチーナママさん 40代・ママ 女の子19歳、女の子17歳、男の子14歳)
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