季節が夏から秋へと移り変わろうとしているころのこと。 お百姓のベイリーさん一家が出会ったのは、記憶を失い、自らの名前もわからず、言葉さえ失ったひとりの男。 記憶が戻るまでのあいだ、その名前のない人は、ベイリーさん一家と暮らすことに。
彼は不思議な人物でした。 一日中働いても汗ひとつかかず、子どものように純粋で、何でもないことにも目を丸くして驚きます。 警戒心の強い森のうさぎたちも、彼を前にしては逃げ出すこともせず、心を開くのです。
そして、彼はとても魅力的な人物でもありました。 ベイリーさん一家は名前のない人を家族の一員のように思い、彼もまたベイリーさん一家との生活を楽しんでいました。 そんなある日、ベイリーさんは気候がおかしくなっていることに気づきます―
映画「ジュマンジ」や、「ポーラー・エクスプレス」の原作を手がける作家オールズバーグを、村上春樹が翻訳した一冊。 やわらかで童話的なパステル画の風景と、表情豊かで写実的な人物の組み合わせが、他にはない独特で温かな世界観を描き出しています。
特に、大きな風景を照らす、空と光の色合いがこの作品のみどころです。 繊細に描写される光の色彩と、それの生み出す影とに彩られた風景は、広大な丘を吹き抜ける秋の匂いや、画の外にある夕焼けのまぶしさを感じさせるほど。 それが少し不思議な物語と相まって、作品全体が神秘的な雰囲気をまとっています。
名前のない人とは、いったい何者なのか? 心温まる、少し不思議な秋の色の物語。
(堀井拓馬 小説家)
夏から秋へと季節が移り変わろうとしている時、不思議な男がベイリーさんの農場で暮らすようになった――。空想と現実のはざまを歩き、神秘的な自然の心を描き上げた話題作。
表紙を見てまず「何の本?」という疑問が起こります。
夏から秋へと季節が移り変わるある日、お百姓のベイリーさんが車で男の人をはねてしまうところからお話は始まります。男は記憶を失っていました。ベイリーさんの家で「名前のない人」はしばらく一緒に暮らすことになり、農場の仕事を手伝ったりして、次第に家族となじんでいきます。しかし不思議なことに、ベイリーさんの家の回りだけは、まるで季節が止まってしまったかのように木々は紅葉しないのです。やがて、その人の去る日がやってきました。
右のページにはパステルで描かれたオールズバーグ独特の絵が、左のページには文が出ています。ムダのない美しい言葉でつづられているので(さすが村上春樹)、ぜひ音読してみてください。
11才の長男は「この男は季節をつかさどる何者かなんだな」と読み終わってつぶやいていました。高学年〜大人向き。ショートムービーのような一冊。 (星モグラサンジさん 30代・その他の方 男の子11歳、男の子9歳)
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