本を手に取って、ドキッとします。 一瞬、こちらを見つめる表紙のカマキリと、目が合うのです。 そしてその目は、確かに私たちに予感させます。 この本を開いてみなくては知ることができなかった、カマキリたちのたくましくもはかない、美しい一生。
5月、そよ風の心地よい草むら。 朝日を浴びながら湧き出るように誕生する200匹の赤ちゃんの姿は、命の煌きにあふれています。 葉の裏をずらりと並んで行進する幼虫たちの微笑ましいこと。 でもこんなにたくさんいる兄弟たちが、ほかの生き物の餌食となっていく厳しい現実。 生まれてから間もなくハンターとしての一歩を踏み出していくカマキリたちを待ち受けているものは・・・。
花に止まったシジミチョウを狙いうち。やっぱり虫の世界でカマキリの右に出る者はいないのでしょうか? そんなことはありません。カマキリだってカナヘビに頭から襲われることがあるのです。 自分が生きるために食べ、また相手が生きるために自分も食べられていく過酷な世界。
生きるために食べる。そしてまた、生きるために子孫を残す。 メスであろうとオスであろうと、種をつないでいく本能は同じはず。 それなのに・・・思いがけない展開が待っていました。 すさまじく壮絶な光景を目の当たりにし、身震いすら覚えます。 でも、不思議です。 残酷な運命の中でもひたむきに生を求め続けるカマキリの美しさに、しばらく身動きがとれなくなるのです。
昆虫写真家として活躍する作者・筒井学さんは、5年もの歳月をかけて、じっくりとカマキリにレンズを向けてきました。 一枚一枚に、筒井さんでなくては出会えなかったであろうカマキリの生命の一コマが切り取られています。 生まれ、捕らえ、食べ、子孫をつくり、果て。そしてまた生まれてくるカマキリの輪廻。 今日も広い草むらの中では、この小さくて大きなドラマが繰り返されているのでしょうか。
(竹原雅子 絵本ナビ編集部)
冬をのりこえ、春をむかえたスポンジのような、ふしぎなかたまり。 前の年のカマキリが産み残した卵のうです。
1つの卵のうからは、200ぴきものの幼虫が生まれます。 生まれたばかりの幼虫は、すぐに独り立ちをします。
カマキリにとって、「生きる」ということは、 そなえたカマで、えものをとらえ、食べていくこと。
しかし、カマキリもほかの生き物たちに、 えものとして、ねらわれているのです。
生き残れるのは、わずかな幼虫……。
オオカマキリの一生を通して、きびしい自然界の 「食物連鎖」のしくみを、とらえた写真絵本です。
【写真と文】筒井学(つついまなぶ) 1965年北海道生まれ。 1990年より東京豊島園昆虫館に勤務。 1995年から1997年まで昆虫館施設長を務める。 その後、群馬県立ぐんま昆虫の森の建設に携わり、 現在、同園に勤務している。 昆虫の生態・飼育・展示に造詣が深く、 昆虫写真家としても活躍している。
【編集担当者からのおすすめ情報】 作者が5年間をかけて、草むらで、オオカマキリを追いかけ、撮影した力作です。 ほかの虫を狩り、食べる。時に、ほかの生物におそわれ、食べられる。 そして、オスは交尾の時には、メスに食べられてしまうこともあります。 この写真絵本で、はかなくも悲しい、カマキリたちの懸命に生きる姿を 感じていただけたら幸いです。
カマキリの生き方を読むまで、カマキリは昆虫を食べる、少し怖い昆虫だと思っていました。
絵本の中にネコを目の前にして威嚇ポーズをしているページがあるのですが、子どもたちとそのカマキリの可愛さに、読むたびに笑顔になってしまうページです。
生まれたばかりの幼虫たちが葉っぱに並んでいるページも子どもたちのお気に入りのページです。
カマキリも昆虫を食べますが、カマキリが他の生き物に食べられたり、ハリガネムシに寄生されてしまったりしながらも逞しく生き抜いているのだと初めて知りました。
生き物を食べる…とても残酷に思えますが、私たち人間がしていることと変わらず、むしろ昆虫たちは必要な分だけを食べ、頂いた命を全て残すことなく丸ごと頂いていることを知り、子どもたちにも頂いた大切な命…残すことなく全て頂こうねと、食育にまでつながりました。
卵を産み終えて冬を迎え死んでしまったカマキリ…命を繋いでいくため、それだけのためにひたむきに生きているカマキリの姿はとても逞しく、美しく、儚く、自分自身の人生の中で一つのことに対してこれだけ真っ直ぐに、迷いもなく突き進んだことはあるのだろうか…と考えさせられる作品です。 (komiさん 30代・ママ 女の子8歳、男の子5歳)
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