出版社エディターズブログ
2023.07.14
1983年7月に『14ひきのひっこし』と『14ひきのあさごはん』が同時刊行されスタートした、「14ひきのシリーズ」。
2022年、栃木県那珂川町の「いわむらかずお絵本の丘美術館」にて、「14ひきのシリーズ」作者のいわむらかずおさんへインタビューを行いました。
「14ひきのシリーズ」誕生の背景にあった“2度のひっこし ” 、「14ひき」を描くことへの思い、国をこえ、世代をこえ愛されるシリーズにこめられたもの――など、いわむらさん自身の言葉でじっくりと語った、貴重なインタビューです。
「14ひき」に出会えそうな自然豊かな美術館の風景も、今回の映像の大きな魅力となっています。
「14ひきのシリーズ」の発想は、私たち家族の「ひっこし」からはじまりました。1970年、私が移り住んだのは東京、多摩丘陵の公団住宅でした。31歳の時です。周辺には雑木林や農家など田園風景があちこちに残っていました。雑木林との再会は私の心にしまわれていた原風景を呼び覚ましました。
それはあの悲惨な戦争が終わったあとの、家もなく食べるものもろくにない貧しい子どもの時代。8畳一間に8人家族が暮らす狭い間借り生活でしたが、両親が少しでも生活を改善しようとさまざまな工夫をするのを、小学生の私は見ていました。父が庭につくったバラックの台所と風呂場、濡れ縁の上の取り外し式屋根、布団収納兼ベッドなどなどです。外に出ると周りは広い雑木林でした。いつも日暮れまで兄弟や近所の仲間と駆け回って遊びました。夏の夕暮れのヒグラシの声、林を駆け抜ける風の音、山栗の渋の味、目にしみる風呂炊きの煙……。
雑木林と再会しうれしくなって歩き回っているうちに、「14ひき」のイメージがふくらんでいきました。構想を練るうちに、これは自分にとって大切な作品になるに違いないと思うようになりました。私は主人公たちと同じような暮らしをしながら、この絵本を描いていこうと決め、物を創る若い人たちが大勢いる焼きものの町・益子を選んだのです。この2度目の引っ越しは、自然のなかの私たち家族の暮らしと「14ひき」の世界を重ねることになっていきました。
1983年、『14ひきのひっこし』と『14ひきのあさごはん』が同時刊行されシリーズが始まりました。
それから40年、シリーズは12作となり、今も増刷を続けています。海外では、フランス、ドイツ、中国、台湾、スイス、ルーマニア、ベルギーなど16か国語で翻訳出版され、読者は世界に広がっています。
1998年、栃木県那珂川町に、家族や地元の人々と力を合わせ、「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開設しました。絵本と自然の実体験がともにある、「14ひき」の世界の空間表現ともいえる美術館です。このごろうれしいのは、大人の来館者の多くが子どものころからの読者だということです。むかし好きだった絵本を我が子と共に楽しんでいる人たちが増えているのです。親から子へ孫への継承、ロングセラー絵本ならではの結実なのでしょう。
この書籍を作った人
1939年東京生まれ。東京芸術大学工芸科卒。主な作品に『14ひきのあさごはん』(絵本にっぽん賞)など「14ひきのシリーズ」、エリック・カールとの合作絵本『どこへいくの?To See My Friend!』(童心社/アメリカ、ペアレンツチョイス賞)、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社/サンケイ児童出版文化賞)、『かんがえるカエルくん』(福音館書店/講談社出版文化賞絵本賞)、「トガリ山のぼうけん」シリーズ、「ゆうひの丘のなかま」シリーズ(理論社)などがある。98年栃木県馬頭町(現・那珂川町)に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館、絵本・自然・こどもをテーマに活動を続けている。栃木県益子町在住。
いわむらかずおさんは、「14ひきのシリーズ」の物語を描いていくとき、2つのことを大事にしたと語っています。
ひとつは、自然をしっかり描くということ。