『わたしのワンピース』が出版されたのは1969年。なんと今から40年も前のこと。
その間にこの絵本がどれだけたくさんの子ども達を楽しませてくれたのでしょう。
そしてこれからも小さな新しい読者がどんどん生まれていくのでしょうね。
絵本ナビでは『わたしのワンピース』生誕40年を記念して作者の西巻茅子さんへのインタビューが実現しました。
子どもの頃に読んでいたというファンの方へ、これから読まれるという方へ改めて絵本『わたしのワンピース』の魅力をお伝えしたいと思います。
鎌倉にある素敵なアトリエ兼ご自宅に住まわれる西巻茅子さんを訪ねてお話を伺ってきました!
●子どもが選ぶ絵本『わたしのワンピース』
─── まず最初に、『わたしのワンピース』という絵本が誕生するまでのエピソードをお伺いできますか?
この絵本が出版されたのは40年前、その頃はオリジナル絵本(作家さんが絵と文章、両方描かれている絵本)がほとんど出ていなかった時代だったんですね。ほとんどの絵本は物語(名作や民話など)があってそれに絵をつけるというかたち。
私は物語じゃない絵本をつくりたいと思ったんです。絵が変化していくことが面白くて、その変化を楽しめる絵本。要するに絵そのものを楽しむ絵本をつくりたい、と思っていたんです。例えば児童文学と言われるものや長い物語を短く簡単にして絵本をつくる、という様なものはつくりたくないなあと。
それでとにかく沢山絵を描いていって生まれたのがこの『わたしのワンピース』なんですよね。
─── 読者の方には、「ミシンカタカタ」と楽しそうにワンピースをつくる場面や、色々な柄のワンピースを着せ替えのように楽しむ場面にとっても興味を持たれている方も多いかと思うのです。西巻さんご自身の小さい頃の体験に基づいている部分もあるのでしょうか?
小さい子どもの頃の体験の影響がすごくある、ということは後から気づくんですよね。描いている時はあまり意識していなかったんです。いたずら描きしているうちに絵が出来ていって、ストーリーと言いますか、全体の枠組みが自然に生まれてきたんです。
本ができ上がってからね、小学校からのお友達が言うんですよ。
「あなたの小学生時代そのままじゃないの!」
その時は「えー??」と思ったんだけど、確かに私の家は父が絵描きなので、大きなアトリエがあって、そこには沢山絵があって。私が遊ぶというとそこで絵を描いて遊んでいたんですよね。それに母が洋裁をやっていて、朝から晩までミシンの音をさせていたんです。父のアトリエの半分はミシンと洋裁の台で埋まっていて、布やきれが散乱しているような家だったのよね。仕事をした後の残りきれがいっぱいタンスの中に入っていて、それを引っ張り出して遊んでいたり。多分、絵を描いているうちに子どもの時に遊んでいた様な事が全部出てきたんでしょうね。
─── そうして出来上がった『わたしのワンピース』。でも出版された当時は、なかなか大人には評価されなかったそうですね。
その頃の時代は、「子どもとはこうあるべき」「ためになるおはなし」といったものをいい絵本、心が打たれたお話と言って紹介される事が多くて。私の中にはちょっとした反発心もありました。
そういう事もあって出版された当初、大人は評価してくれなかったなという思いはありますよね。絵を見て「なにこれ?何が言いたいの?文字がほんの少ししかないからわからない。」なんて言われたりしましたよ。
でも出版されてから5〜6年経ってくると、徐々に子ども達がこの絵本を好きだという事がわかってきたんです。子どもが自分で選んで本棚から借りていってしまうから「本棚にはいつもない絵本」。そうやって図書館の方が新聞の記事で紹介してくださったんです。いつもは名作と言われる絵本を「よい絵本」として評価している欄だったのに、こういう内容を記事として紹介されたので私はすごく嬉しかった覚えがあります。
●子どもの絵を描く力の確かさ
─── 確かに絵本ナビのレビューでも「子どもが先に夢中になって」という意見が多いのが印象的ですよね。それは何と言ってもこの絵本の「絵の力」、西巻さんの作品を見ていると、子ども達の絵を描くときの楽しいという感覚にあふれていて想像力を凄く刺激されるような気がしてくるのです。プロフィールにも記載されている「幼い子どもたちの絵を見る目、絵を描く力の確かさ」という言葉もとっても気になります。その辺りも絵本作家になるきっかけとして影響しているのでしょうか、お伺いしてみました。
絵本の仕事を始める前に幼稚園の子ども達を集めてお絵描き教室を開いていたんです。そこで子ども達が教わらなくても素晴らしい絵を描くんですよね。自分達で夢中になってどんどんいい絵を描いていく姿にとてもびっくりしました。何年が続けているうちに、子どもというのはみんな絵が描けるんだ、絵が好きなんだ、ということがわかったんです。描くのも見るのも好き。あまりにも一生懸命絵を描くその姿に「絵との関係」というものが大人よりもずっと親密な感じがして。
だから子どもの絵本を描くという仕事を選んだような気がするんです。
版画家になるという道もあったのですが、子どもから大人までもっと沢山の人に見てもらえるこの仕事がいいと思ったんですね。また、こぐま社さんの絵本の制作方法がリトグラフという当時私が使っていた版画の技法に限りなく近い形の印刷方法だったのも良かったんだと思います。