絵本ナビでも人気の「ピーマン村」シリーズをはじめ、様々な画家と組んで本を世に送り出している中川ひろたかさん。作曲家としても多彩な活動をされていますが、2011年の大注目はなんといっても「おたんじょう月絵本」シリーズの刊行(自由国民社)。すでに1月『おめでとう おめでとう』(絵/あおきひろえ)、2月『ふくはうち』(絵/長谷川義史)、3月『あしたはだれにあえるかな』(絵/おくはらゆめ)が発売され、4月『さくらのさくらちゃん』(絵/植垣歩子)以降も続々登場予定です。絵本ナビに遊びに来てくださった中川さんにシリーズの魅力や制作背景をお聞きしました。なんと、取材日の2日前に中川さんご自身もお誕生日を迎えたばかりで・・・。
あなたにとって「おたんじょう月」は特別な月。12ヶ月それぞれに、とっておきのお話ひとつをプレゼント。
巻末には誕生石や誕生花、行事などのプチ情報もついています。
シリーズ全12冊刊行予定、中川ひろたかさんと豪華画家陣12人のコラボレーションは1冊たりとも見のがせません!
●中川さんの誕生日は2月14日!
─── お誕生日おめでとうございます!57歳。どんな気分ですか。
57歳は56歳と少しちがいますね。ちょっと重い感じがします(笑)。
─── 最近のお誕生日で、思い出はありますか。
一昨年ですが、母親から電話があったんですよ。「今日お前の誕生日だね、日本中の人がお前の誕生日を祝ってるね」って。2月14日はバレンタインデーだから(笑)。まあバレンタインなんて言っても中学2年生から突如始まったんですけどね、それ以前は日本にはなかったから。
「ところでお前いくつになったんだ」って言うから、56歳になった、と言ったら「そらそうだな、いつまでも55やってらんないからね」と(笑)。必ず小っちゃいギャグをかます人で・・・「お前とあたしはね、親子ほど年がちがうんだ」。知ってるよ、と(笑)。
誕生日プレゼントではないですが、3歳か4歳頃だったかなあ、近所が女の子ばっかりでね、女の子がひらーっとまわってスカートを広げるじゃない。あれがうらやましくて母に「僕もスカートほしい」と言ったら「ああ、いいよ」と作ってくれたことがありましたね。兄弟は4つ上に兄貴がいるだけ。女兄弟はいないですが・・・黒のビロードのワンピースですよ(笑)。男の子だからダメだとか言わずに楽しそうに縫ってくれた。僕も嬉しくて、覚えていますねえ。母からはかなりの影響を受けているんでしょう。
─── 誕生日はどんなものだと思われますか。
「ああ、この日に僕は生まれてきた」と確認する日かなと思ってるんです。今から36、7年前かな、当時、僕は20歳で大学をやめて家を出た頃で、まさに2月14日の誕生日にふと三畳間の自分の部屋でナショナルの小さな電気ストーブをぼんやりじーっと眺めながら、あ、今日僕は生まれた、その日なんだ・・・と思ったんです。もとはお母さんのお腹の中にいて、初めて社会に一歩踏み出した日なんだ。自分のいちばんもとは生まれたところにあって、それから社会性や照れや世間体や、いろいろ身につけて今の自分はあるけれど・・・。それで突然、猛烈に子どもに会いたくなったんだよね。いろんな子どもを見たくなった。子どものところにきっと自分の本質がある。そしてすべての人間の本質があるんじゃないかと。で、4月には保育園の先生になりました。
─── 保育園、幼稚園でも盛大にお誕生会をやりますよね。そのときの嬉しそうな顔、誇らしげな顔といったら・・・。
子どもたちはどんどん大きくなろうとしてるんだよね。あれー、大きくなんなくていいのに、と思うんだけどね。僕は乳児担当だったんですが、2階が保育室で下が園庭。ある日、年中年長さんが遠足にいっちゃって、大きい子がいない。そうすると乳児が晴れ晴れとして遊ぶわけ。そんなとき砂場で遊んでる2歳の子に、3歳の子がいばってるの。「おれ、3さいだからな」って(笑)。子どもは大きくなりたいんだよねえ。
●「おたんじょう月絵本」と子どもの気持ち
─── 「子どものお誕生日に絵本を贈りたい」という声は多いのですが、生まれた月そのものをお祝いして、その月生まれの子に贈る絵本・・・というのは今まであまりなかった気がします。自分の生まれた月がどんなお話なのか、とても興味を惹かれます。
1月は『おめでとうおめでとう』。新しい年が始まって、新しい一日が始まって・・・みんながおめでとうと言いあう月。そういえば1月ってそういう月だったなーと、1月生まれがうらやましくなりますね。
『おめでとうおめでとう』は、ほんとに気持ちいい絵本になりましたね。12か月のいちばん最初はぼくだぜ、って感じ。中学生のときかなあ、昨日まで12月31日だったのが、急に1月1日になるとなんでこんなに気持ちが違うんだろう、何が違うんだろうと思って散歩に出たことがあるんです。ちょうどこの絵本の中の"ぼく"と同じ(笑)。でね、今日は明らかに1月1日なんだな、って感じがしたの。しめ飾りや門松ももちろん景色としてはあるんだけど、なんかそれだけじゃない。うちはお正月の朝、起きたら必ず新しい肌着に着替えていたんですよ。母の、お正月はこういうものだ、というしきたりのようなものでした。「あたらしいパンツをはいて、あたらしいシャツをきて」は実体験ですね。
─── 2月『ふくはうち』は、1月とぜんぜん違う感じのお話。節分の話ではあるんですが、3ページ目くらいからあれあれ?と「ふく」が増えていく可笑しい話で、でも気がついたらほろりとなったりして・・・。絵は長谷川義史さん。長谷川さんならではの世界ではと思ったのですが、お話はどんなふうに考えられたのでしょうか。
2月はね、思い切って愛の話でも書こうかなと思ったんだけど、ちょっとハードル高くて(笑)。
─── 『ふくはうち』にはお母さんが出てきませんが?
最初からそう設定を考えたわけじゃなくて、お母さんいないなあと書いた後になって思うんですが、やっぱりこのままでいいな、という感じかな。幸せはお母さんがいてもいなくても、何も輝きは変わらない。後付けですが、ほんとの幸福とは何か、とね。「ふくはうち」の言葉をぎゅーっと考えた結果です。途中「ふく」がどんどん増えていくところは子どもたちにオオウケですよ(笑)。実は長谷川さんが2月生まれだから長谷川さんに描いてもらいましょうか、という話が編集者との間であったので、『ふくはうち』を書きながら何となく長谷川さんの絵になる意識が頭のどこかにあったかもしれませんね。
─── 3月『あしたはだれにあえるかな』。楽しい時間が終わるときの気持ちが蘇ってきて、すごいなあ・・・と思わず涙してしまいました。子どもはそのときの時間がいちばん大事だから、楽しい時間を過ごすとその後のさみしさに耐えられない、何とも言えない気持ちになったり・・・自分がそうだったんですけど。
そういうことの繰り返しだもんね、ずーっと、僕たちは。
─── 最後は卒園式。大好きだった園とお別れで、でも同時に未来へむかってわくわくする気持ちにもなれる。さみしいって感じるのも子ども。わくわくってすぐに思えるのも子ども。
そうだねえ。いつまでもひきずってられないからね。
─── 中川さんの絵本は「子どもの気持ち」をとてもリアルに描かれていると感じるんですが、ふだん子どもたちに接しているからでしょうか。それとも子どもをよく観察しているから?
僕は、子どものときの感覚をよく覚えているほうかもしれないね。すぐそこに行ける感じがする。ひゅーっ!と(身を縮める)。単なる記憶とも、タイムスリップとも違う。しゅるるるー!と瞬時に小さくなっちゃう感じ。僕は作曲もたくさんしていますが、すぐ子どもたちが歌ってくれるのは、なんと言ったらいいのか・・・グレードを下げてるわけじゃない。一応1オクターブ内に抑えたいとか、なるべくシンプルにとは考えるけど。でも音楽は、大人の音楽も子どもの音楽もないと思ってるんです。どうしたら子どもの音楽で、どうしたら大人の音楽で、って、わかんないよね。音だもの。でも僕の歌は、養護学校でもよく歌われるとか。自閉症の子が僕の歌だけを歌ってくれるという話を聞くと、それはとても褒められてる感じがするんですよね。
電車に乗ってると視線を感じることあるでしょう。ふっと振り向くと赤ちゃんだったり子どもだったり。目をまんまるくして口をあけてじーっと見てる(笑)。昔からものすごく多いんですよ。あれ、なんだろうね。保育士になったのは子どもの本質を見たいというのもあったけど、自分が子どもにウケると何となく知ってたんだよね。子どもと仲よくなれるという自信があった。こうすればウケる、とかね(笑)。それはどういう確信なのかって聞かれてもわかんないんだけどね。