一見すればただただずっと、一本の線をたどる話。 けれど、この本の存在の意味を知ると、見方は断然違ってきます。
『いっぽんのせんとマヌエル』は、自閉症スペクトラム障害をもつマヌエルをきっかけに生まれました。 主人公の名前が同じなのも、そのためです。
一本の青い線を読み手がたどっていくと、線から太陽がのぼり、またたどると、今度は線にドアがついていて学校に入っていけます。 線にとまる鳥、線をたどって帰れる家……。 一冊の本を「線」が貫いているのです。
マヌエル本人にとって「線」は、この世界を理解するのに必要な足がかりだそうです。 「線」の他にも数や動物など、自閉症スペクトラムの子が興味を示す対象には個性があります。
作者マリア・ホセ・フェラーダさんの言葉を借りれば、彼らには「ほかの子どもたちよりも世界があいまいにみえてい」ます。 だから、信頼を寄せる「線」をたどることはマヌエルの心を安定させるし、「線」のそばのものに触れれば触れるほど彼の知る範囲は広がるのです。
「線」をカギに踏み出そうとするすべての人に、この絵本は開かれていると言えます。
マヌエルや多くの自閉症スペクトラム障害を抱える子どもにとって、この絵本は貴重な世界のヒントとなるでしょう。 しかし同時に、自閉症スペクトラム障害にいまだ出会わない多くの人にとっても、人間の多様性について知らせてくれる有効なツールなのだと思わずにはいられません。
(てらしまちはる ライター/こどもアプリ研究家)
著者が「線」が好きな自閉症の男の子マヌエルくんと知り合ったことによって生まれた絵本。いっぽんの線が基調になって、短い言葉とシンプルでかわいいイラストにより、ストーリーが進行していきます。日本版には、文字やお話の内容の理解の助けとなる「ピクトグラム(言葉を絵で表現した絵文字)」がついています。ピクトグラムは絵本のイラストレーター自身によるものです。コミュニケーションが難しい自閉症の子は、すきなものをとおして、まわりから受けとる情報を整えたりすることもあります。日本の裏がわチリからやってきた作品。さまざまな子どもたちに、楽しんでいただきたい絵本です。
一本の線にこだわるマヌエル君は、その線で何を発信しているのでしょうか。私が働く生活介護事業所でも、ひたすら線を描き続ける自閉症君がいます。初語はあまりなく、その線の意味は解りません。その線が、通所当初は直線だったのが、いつの間にか丸みを帯びた線に変わって来ました。
相変わらず、ひたすらそれを描き続ける彼の意図は解りませんが、いつかこの絵本のように繋がっていったらうれしいと思いました。 (ヒラP21さん 60代・パパ )
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