この絵本には、言葉がありません。ページをめくる人の想像と読み方にゆだねられた、無限の広がりと自由さを秘めた一冊です。
ある日、広い大地に突然現われた巨大なたまご。テレビで放映されたり、人々がこぞって見物にやってきたりします。やがてたまごの周囲にはロープウェーや階段がめぐらされ、その頂上には旗までひるがえり、まるで観光地のようになっていきます。そんなある日、巨大な鳥が現われて……。
木炭で描かれた力強い単色の絵に、心をぐっとつかまれました。色がついていない分、同じ絵を見ても、見る人によって、まったく違った印象を受けそうです。たとえば雲の色。嵐を呼びそうな雲にも見えますが、美しい夕焼けや朝焼けのようにも見えます。空をのびのびと飛ぶ巨大な鳥の姿は、おそろしくもありますが、生命力の象徴のようにも。
このたまごは、なぜここにあるのか? その中に入っているものは、いったい何なのか? それは、生きているのか死んでいるのか? と、ページをめくるにつれて、たくさんの疑問と好奇心が生まれてきます。階段や旗など、まわりにいろんなものをくっつけられ、巨大なクレーンや防護壁に囲まれたたまごは、大きな爆弾のようにも、巨大なタンクのようにも思えます。人工的なものでうめつくされたたまごは、まるで、人間にとってコントロールが可能なものであるかのように見えます。たまごのことは、何もわかっていないのに、と、そのギャップがとても印象的でした。
子どもから大人まで、年齢を問わず想像力をかきたてられる絵本です。家族みんなで何が見えるか話し合うと、驚きと意外な発見があるにちがいありません。さあ、皆さんには、このたまごが、何に見えますか?
(光森優子 編集者・ライター)
ある日、野の果てに忽然と現れたひとつの巨大な卵。人が見つけ、人が人を呼んで、街がうまれます。やがてその卵から雛がかえりますが・・・。
読み終わった後、また最初からページをめくりました。
「アンジュール」でガブリエル・バンサンを知ったことから、別の作品もと思い、手に取りました。
「アンジュール」では、ストーリーがすっと浮かんできましたが、「たまご」では頭の中が?でいっぱいになりました。
きっと、私は頭でっかちの状態で読もうとしていたのでしょう。
いったいどんな意味があるんだろう、ということばかり考えてしまい、わからない、わからない、わからない・・・と何度も読み直しました。
そんな中、4歳の娘が「私も読む〜」と近づいてきました。
彼女も夢中でペラペラとページをめくっています。
思わず、娘に「ねぇ、これってどんなお話なの?ママにはわからないんだけど」
と聞くとあっさりと答えが返ってきました。
娘の解釈によると・・・
卵 → カラスのたまごだよ!
雛 → 生まれてきたのに死んじゃったんだよ。
なぜ死んだのか → 小さい人がみんなでいじめたからだよ。
なんで最後に卵がいっぱいあるのか
→ ひとりじゃ寂しいからだよ。
そうか、そうなのか・・・と妙に納得してしまいました。
ガブリエル・バンサンが何を伝えたかったのかはよくわかりませんが、この絵本を通して、自由に想像することのおもしろさ、難しさを知った気がします。
頭をまっさらにして、自分なりのストーリーを作るというのは大人にとって必要な時間かも。
何人かで読んで、それぞれの解釈を聞くのも楽しいですよね。
ストーリーを押しつけられず、自由な発想ができるとてもよい作品だと思いました。 (きのぴいさん 30代・ママ 女の子4歳、男の子1歳)
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