絵師ハン・ガンの描く馬が絵から飛びだして動き出す、というこの不思議な話。 作者のチェン・ジャンホンが実在する中国の絵から着想を得て創られた話だという。 ハン・ガンの絵に向かう真剣な眼差し、本当に動き出しそうな迫力の馬の絵の数々、 そして何と言っても真実を目の当たりにした時の馬の表情 (大型画面からまっすぐこちらをにらみつけるようなまっすぐな目)・・・。 作者のチェン・ジャンホンが中国の絵を見た時に感じたように、 話の中で、ハン・ガンの馬の絵を見た人々が感じたように、 私たちもまた、この絵本の絵の力に様々な感情を喚起されるのです。 心に染み入る物語ですが、それ以上の何かを訴えかけられてくる様です。 作者の既刊「ウェン王子とトラ」同様、この絵本もまた各国で評価されているのもうなずけるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
絵師ハン・ガンの描く馬は、あまりに生き生きしているため、絵から飛びだし、生きて動き出す、という噂があった。いくさが都にせまったとき、ひとりの武将がハン・ガンを訪ねて、馬の絵を頼むが…? 幼いころから絵の修業にはげみ、宮廷の絵師となった青年と、青年の絵から生まれて戦場を駆け、いくさの真実を目にした馬の、心にしみる物語。実在する中国の絵から着想を得た、迫力の大型絵本です。2005年ドイツ児童図書賞受賞作!
「ウェン王子とトラ」がつとに有名なチェン・ジャンホンの作品。
2004年の作品で2008年の邦訳ですから、実は「ウェン王子とトラ」の1年前の作品ということになります。
あの名作の作者の作品なので、期待をもって読みましが、結論からいくと期待通りです。
チェン・ジャンホンは、中国生まれでパリ在中。
今回の作品の主人公あるハン・ガンは、1200年前以上の中国に実在した画家ですが、この作品は、ハン・ガンと同じ手法で絹地に墨と絵の具でかいたものです。
ハン・ガンは素晴らしい馬の絵で知られていますが、この作品はそれを題材に創作したもの。
ハン・ガンの描く馬の絵は、あまりに生き生きしているんので、生きて絵から飛び出すという噂がありました。
1人の武将が、その噂を聞き、戦のためにこの世で一番、気性が激しく勇敢で力の強い馬を描いてくれと頼みます。
そして、何と馬は絵から飛び出し戦に臨むことになるのです。
絵から生きた馬が飛び出すという発想は、日本人に馴染むものなので、ここまでは予測できる内容です。
チェン・ジャンホンが凄いのは、ここから。
その馬が戦いの悲惨さを目の当たりにして、涙を流してからエンディングまでのストーリーは、心の琴線に触れるもの。
見開きで大きく描かれた馬が涙する絵は、圧倒的存在感があって、その悲しみの深さが手にとるように分かるものです。
良く構成されたストーリーに加えて、大型絵本の見開きのページを一面に使用した躍動感溢れる絵は、正に絵本の醍醐味と呼ぶに相応しいもの。
年長への読み聞かせ、あるいは、小学校低学年生が読んで欲しい一冊です。
こうした心に残る作品はなかなか出せないものだと思いますが、チェン・ジャンホンの次回作が本当に待ち遠しいです。 (ジュンイチさん 40代・パパ 男の子12歳、男の子6歳)
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