この物語は、ぼくたちがいつか見た心の風景、いつか見る心の風景―― 戦前、アメリカへ渡ったひとりの日本人男性の、ふたつの国への思いを描く。 こちらにいればあちらが恋しく、あちらにいればこちらが恋しい……すべての人がもつ、切ないほどの「郷愁」の心を、透明感あふれる絵で静かに描いた絵本。
1994年のコールデコット賞受賞作品。
邦訳は2002年。
アレン・セイを調べたら驚きました。
日本生まれの日系アメリカ人作家・イラストレーターで、本名はジェームズ・アレン・コウイチ・モリワキ・セイイ。
James Allen Koichi Moriwaki Seii
現在はオレゴン州ポートランド在住なのですが、何と、1939年神奈川県横浜市生まれなのです。
日系アメリカ人の母(正しくは帰国子女)と、韓国人の父の間に生まれ、8歳の時に両親が離婚し父親にひきとられています。
12歳の時に青山学院へ通うために母方の祖母と東京都に住むものの、すぐに祖母と同意の上で別れて暮らしたのですが、一人暮らしを始めた時、漫画家野呂新平の弟子となったのです。
そんなルーツを持つセイが描いたのは、祖父の物語。
世界を見てみたいと、セイのおじいさんは若くして日本からアメリカに渡ります。
三週間の船旅でしたが、その頃、日本から外国へ行くことは、非常に珍しいことだったはず。
広大な土地、果てしない畑、工場だらけの街、高い建物だけの大都会、大自然、多様な人種との出会い、接するもの全てが新鮮で魅力溢れるものだったのでしょう。
そして、カリフォルニアで家族を持ち、おじいさんにとって、アメリカも故郷になっていくのです。
しかし、日本のことが忘れがたく家族で日本に帰国するものの、年月が流れると今度はアメリカへの郷愁が沸いてくる、そんな想いを描いた作品です。
この作品がアメリカで受け入れられたのは、遠き故郷への想いを描いたからでしょう。
移民の多いアメリカだからこそ、多くの共感を得たのだと思います。
物語は、最後にセイがアメリカに行くところで終わります。
ルーツを巡ることになるのですが、そんな郷愁を感じずにいられない心に沁みいる作品です。
描かれた絵は、どれも、写真のような美しいものです。
家族の肖像、歴史、自分の生い立ちを辿る絵に、惹かれること間違いありません。
日本生まれの作家が、コールデコット賞を受賞したというのは非常に嬉しいことであり、もっと多くの人に知って読んで欲しい作品です。 (ジュンイチさん 40代・パパ 男の子12歳、男の子6歳)
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